⑦生真面目な八方美人は筋が通れば誘いに応じる

 今日のところはこれで一段落だと思ったのだが、透子とうこは今度はたすくをグイグイと攻めてくる。


「それはそれとして、このあと、ちょっとお茶でもしていかない?」

「いや、用事があるから。でも、誘ってくれてありがとう」

「うわぁ、教科書みたいな返事ね」

「素直に思ったことを言っているだけだ」


 それで話は終わる、と思ったのだが、透子はまだまだ食い下がってくる。


「じゃぁ、明日は休みだけど、空いてる?」

「……特に用事はないな。昼間なら大丈夫だ」


 ここで素直に答えてしまうのが翼である。


「では、委員長と副委員長の親睦を深めるために遊びに行こ! デートって言ったら断られるだろうから、そういう名目で!」


 思いっきりネタばらしをしながら誘ってくる。だまし討ちなら断るところなのだが、ここまで裏表なく言われると清々すがすがしい。


「それなら、構わない」


 正直さに敬意を表して、誘いを受けることにする。こういうところが翼の生真面目さなのだが、そこまで透子が計算していたかは定かではない。


 ともあれ、OKを貰えて嬉しそうに、透子は約束を取りつける。


「じゃ、十三時に神本街かみほんまち駅前で!」


 神本街は、たかつ都高校の最寄り駅の一つだ。


「承知した」


 こうして、透子とデート、ではなく『委員長と副委員長の親睦を深める会』の約束をして別れた翼は、一路、真萌に会うために嵩都稲荷神社を目指す。


「それで、何か解ったことはあるかの?」


 神社へ着くと、昨日にも増して不機嫌な様子の真萌に出迎えられた。

 なぜそんなに機嫌が悪いのか釈然としないながらも、翼は素直に答える。


「そうだな。中学時代に運動部の面子に身長を妬まれていた、というのはあるみたいだ。だから、高校へ入ったのを機に、それを活かさなきゃって思い立って、バスケを始めたとか」

「なるほど、のぉ。一応、筋は通っておるの」

「ああ。だけど、それであんなボロボロになってまで続けるのが、どうにも不可解なんで、透子とまた様子を見に行こうと思う。他にも切っ掛けが何かありそうだったんだけど、聞き損ねたし、まだ、情報不足だからな」

「なるほど、のぉ」


 なんだか、さっきと同じような気のない返事だった。


「で、気になったのじゃが、『透子』とはどういうことじゃ? やけに親しげじゃのぉ? まさか、今日遅くなったのは、二人で寄り道でもしておったからか?」


 視線に力を込めてこちらを睥睨するようにしながら、棘のある口調で問うてくる。遅れたことがよっぽど気に入らないのか、と翼は焦りながらも弁明する。


「そ、それは誘われたが断ってすぐにこっちへ向かってきたから。あと、透子と呼ぶのは、向こうが同じ仕事をするもの同士と言うことで、こっちを名前で呼び始めたのでな。それに応じてこちらも名前で呼べという若干理不尽な交換条件に寄るものだから、他意はない」


 本人が聞いたら怒りそうな理屈だが、翼視点では間違っていない。


「ふぅん、そうか、た……………………………………………いや、なんでもない、来栖辺君」


 何か言いたげだったが、なぜか顔を真っ赤にして言葉を途切れさせてしまう。事情を理解してくれたのか、心なしか機嫌もよくなったようだ。


「まぁ、ここで物語の神に助けを求めたとて、自力でどうにかせよ、と言われるじゃろうしな」

「はい、勿論です」


 一瞬、賽銭箱の前に現れて、それだけ言って姿を消す物語の神。

 取りあえず、気にせず話を続ける。


「まぁ、情報を集めるしかなさそうだな」

「土日を挟むが、また、月曜、じゃのぉ」


 この場は、それで解散となる。


「では、またの、来栖辺君」

「ああ、また、倉主さん」


 挨拶を交わし、翼は神社を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る