⑫背の高い高瀬さんは頑張る方向を変えた
翌日。
「似合う、かな?」
朝の教室。
いつもなら
その姿は制服ではない。
ピンクのワンピース。真萌が昨日来ていたものほどロリータファッションしてはいないが、飾り気は少なくいながら、それでも全体的にフェミニンで可愛らしいデザインの服だ。
「ああ、似合ってるよ」
「似合っておるぞ」
翼も真萌も、素直に肯定する。
「よかった。実はこれ、自分で作ったんだ」
その言葉に、翼も真萌も「凄いな」「美事じゃのぉ」とそれぞれに感嘆する。
「あたし、裁縫が得意なんだ。まぁ、自分のサイズに合う可愛い服がないから、ないなら創ればいいって発想で。最初はお母さんに作ってもらってたんだけど、見よう見まねで覚えていって、中学の頃には自分で作れるようになってたんだ」
だが、その服を着てクラスメート達の前に出ると、背が高いのに可愛い服は似合わないと散々言われて、背が高いなら高いなりのことをしないといけない、と思い込んだらしい。
「結局、自分の好きなことを認めてもらえなくて、それならせめて身長を活かしてカッコイイ女の子にならなきゃって、強迫観念に駆られちゃってたんだろうね」
しみじみ語るが、それは既に過去のこととして。
「でも、今は自分に素直になることにしたから。あたし、バスケ部を辞めて、手芸部に入るよ」
そう言って、これからのことを晴れ晴れとした笑顔で語る。
「ふむ、それは良かった。正直、見ておれんかったからの、あの様子は」
「あはは……本当、なんであんなに意地になってたんだろうな、って思う。でも、そう思えるのも真萌ちゃんと話せたお陰。ありがとうね」
そう言って、真萌の手を取りぶんぶん振る。
「ど、どういたしまして」
辟易とする真萌。
「それと、倉主君も。あのとき、最初に声を掛けてくれて、嬉しかったんだ。みんな無視して通り過ぎていっちゃって、正直、心細かったから」
「いや、誰かが困ってれば、声ぐらい掛けるのは当然のことだよ」
「ううん、それが当然って言えるのは、凄いことだと、思うよ」
言って、微かに頬を染める野々花。
「昨日も、真萌ちゃんのところへ連れて行ってくれたし。翼君にも本当感謝してる! って、あ、近沢さんが呼んでたから、うっかり名前で呼んじゃった」
そう言って、自分の頭をポカリ、と叩く。
「ああ、もう、別に構わないぞ」
「じゃ、あたしも野々花って呼んでくれていいよ」
「わ、解った……」
押し切られてしまう翼。
透子に許してしまったことで、少し基準が緩んでしまっているが、誰とも分け隔てなく接するためにバランスをとるには必要な緩和であろう。
翼がそう合理的に名前で呼ぶ理由づけをしている一方で、野々花は改めて真萌へ向かう。
「あ、そうそう、真萌ちゃん。よかったら、あたしの作った服を着てみてね。勘違いだったみたいなんだけど、やっぱり、真萌ちゃん昨日、凄く可愛い服を着てた気がするんだ」
「は、はて、どうかのぉ」
記憶が曖昧になってるのをいいことにはぐらかす。それはそれで賢明な判断だろう。
「でもまぁ、どういう服かは見せてくれ。気に入れば、着てやらんでもないぞ?」
照れ隠しなのか、妙に上から目線で答える真萌。
微笑ましい光景だった。
こうして、少しでも人づき合いになれていけばいいと思う。
「じゃぁ、そのうち服のサイズ測らせてもらいにいくから!」
そこで真萌の態度が急変した。
「な、ま、待て! それは……困る」
「え? どうして」
「ど、どうしても、じゃ」
「女同士なんだから、気にしなくても」
「す、済まん……」
「残念だけど、うん、いいよ。真萌ちゃんは恩人だから。無理強いはしないよ」
「助かる」
少々訝しいと翼は思ったが、丁度、他の生徒達が登校してくる頃合いだった。
「あ、それじゃぁあたしは教室に戻るね! バイバイ、真萌ちゃん、翼君」
そう言い残し、野々花は教室を去って行った。
翼も、いつも通りクラスメートへの挨拶へと。
こうして、巫女魔法少女めがねっ娘とその眼鏡は、一人の少女を救うことに成功したのだった。
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