⑪小さな巫女と薄型少女の和解
異界は現世へと戻る。
拝殿前の段に腰掛ける巫女装束に戻った真萌。
その胸元に顔を寄せ、オーバーオール姿の多菜美が眠る。
人間に戻った翼は、拝殿から少し離れた場所から、二人を見るとはなく見守っていた。
「あれ? ボク、寝ちゃってたのか……って、凄い、柔らかい」
「これ、くすぐったいぞ!」
胸元をぐりぐりされて、溜まらず声を上げる真萌。
「え? これ、まほっちの……おっぱい!」
巫女装束の胸元が大きく開いていた。
半分以上、生の乳房が露出している。翼が遠目に見守っているのは、少々刺激の強い格好だからだ。
あの闘いの結果、弾けたベストに準えてか、中に巻いていた晒が消失していたのだ。そのため、普段抑え込んでいる胸が巫女装束を内側から押上げ、合わせ目がどうやっても開いてしまう状態になっていた。二人で出かけたとき、真萌がゲーセンでやっていた『戦国エース』の暴れん坊巫女を連想させる姿。
「そうじゃ。隠しておって悪かったの……」
「ううん、なんか、記憶が曖昧だけど、すごい酷いこと言っちゃった気がする……ゴメンね」
「構わぬ。われもちゃんと言い返したからの」
「そうだったね……なんか、思いっきり本音でぶつかれた気がする。お陰で、巨乳も貧乳もお互いに大変なことはあるって解って、前ほど巨乳が憎くなくなったよ」
野々花のときと同様に、魔法少女にされていた間の記憶は曖昧になりつつも、その内容だけは残っているようだ。
「それは、良かった」
悔しさに泣いていた真萌は、今では、笑むことができる。それが、翼も嬉しかった。
真萌の胸から、多菜美は体を起こす。
今まで頭を寄せていた胸元を見て。
「本当、嘘吐きとか言ってごめんなさい。これは流石に、隠さないと、刺激が強すぎるね。今も、たすくんがこっちを正視できないみたいだから」
「そうじゃろう……それを多菜美ちゃんに理解して貰えたのなら、本当にぶつかった甲斐があった」
「あはは、そうだね。なんか、うん、まさか、まほっちと喧嘩が出来るなんて思わなかった」
「喧嘩……そうか、そうなるの」
「やっぱり、友達って喧嘩もできてこそだと思うんだ。だから」
言って、真萌に手を差し伸べる。
「改めて、これからも宜しくね」
その手を取り。
「こちらこそ、宜しく頼むよ、多菜美ちゃん」
喧嘩して、仲直りして。
それは、正に『友達』としかいいようのない関係だった。
そうして、遅くなったからと多菜美は先に帰っていった。
翼は、真萌と二人、境内に残る。
「よかったな」
「ああ」
短い言葉のやり取りだった。だけど、それで十分伝わった。
親友だから。
それを実感したことで、ふと、思う。
「なぁ、俺も、倉主さんと喧嘩ができるのかな?」
「勿論じゃ。じゃがの……」
そうして、あの、上目遣いの表情で翼を見詰め、更には翼の手を両手で包み込んでくる。
突然のことにまたドキリとして心拍数が増加するも、伝わってくる真萌の体温が心地良く、されるに任せる。
「出来れば、そんなことをしなくとも、わかり合える関係でありたいぞ。ホームズとワトソンは、そんな大喧嘩はしておらんじゃろう?」
「そうだな。でも、ワトソンはホームズに駄目なことは駄目としっかり言ってはいた気がするけどな。麻薬とか」
「そうじゃ。だからこそ、われと主も、互いにキチンと窘め合える、そういう関係であれば、の」
真萌は翼の手を離す。
すっかり傾いた夕陽。
まだまだ肌寒い春の夜風。
真萌と出会えて良かった。
改めて運命の巡り合わせに感謝する。
翼は、名残惜しさなど微塵も感じず、神社を後にする。
「また明日、倉主さん」
「そうじゃの。また明日。来栖辺君」
すぐの再会を約束して別れるのだから。
かくして、真萌と多菜美の関係は雨降って地固まったのだった。
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