③背の高い高瀬さんは頑張ってる
一刻も早く
「大丈夫ですか?」
駆け寄って声を掛ける。
「あ、だ、大丈夫」
明らかに大丈夫ではなさそうな様子で答える。
「いや、とてもそうは見えな……」
「ううん、甘えてたら、カッコイイ女の子には、なれない、から」
翼の言葉に被せて言いながら、明らかに無理をしている感じで立ち上がる。
「あ、れ?」
案の定、立ち上がる途中で、彼女はバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
「おい、無理しちゃ駄目だ!」
翼はすぐさま彼女の背後に回り、華奢な背中を支えて立たせる。
「あ、ありがとう」
翼の支えを受けて、どうにか真っ直ぐに立つ少女。
その姿に、翼は少しばかり驚く。蹲っていたので解らなかったが、真っ直ぐ立ち上がると相当の高身長だったのだ。平均よりは少し高いぐらいの翼よりも、更に高い。一八〇センチあるかもしれない。
とは言え、それよりも今は彼女の体調が問題だった。
「いや、それはいいんだけど、どうして蹲ってたんだ、高瀬さん」
「え? ど、どうして名前を」
「体操服のゼッケンだよ。一年E組高瀬と書いてある」
「あ、そ、そっか」
入学式と同じように、相手の名前を知ることに抜け目のない翼であった。
「それはそうとして、体が悪いんなら保健室へ行った方が……」
「ううん、体調が、悪いわけじゃ、ないの。ちょっと、疲れちゃっただけ、だから」
そこに、「オー! ファイオー! ファイオー!」とお馴染みのランニングの掛け声が聞こえてくる。
「あ、周回遅れ……行、行かなきゃ」
「お、おい!」
翼は制止するのだが、ふらふらのまま、歩くのと変わらない速度でランニングを始める。
そこへ、後からやってきた集団が追いつき、あっさりと追い抜いていく。
何人かが声をかけていたようだが、不調を気づかうような感じではない。「しっかりしろ!」
「だらしないぞ!」とか、そんな感じだ。
心ない言葉ではあるが、運動部としては基礎練習のランニングで周回遅れとなってしまうのでは先が思いやられるのも事実だ。
どちらかと言えば、ついていけない練習に無理をして参加している彼女の方に問題がある。
何部かは解らなかったが、今の時期ならまだ仮入部だろう。それなら、早いうちに諦めた方が彼女のためだろう。
とはいえ、これは当人の問題だ。初対面の人間がいきなり口を出すような話でもない。
ふらふらでランニングを続ける高瀬に後ろ髪引かれる思いはあったが、翼は気持ちを切り替えて学校を後にした。
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