⑥裏表のない副委員長は正面からぶつかってくる

 本殿前の大きな石灯籠の影から現れる姿。

 嵩都たかつ高校のブレザー制服に身を包んだ少女が、拝殿の前にやってくる。


「二人の世界を形作って全然気づかないのが楽しくも業腹だったけど、そろそろ出番かなってね」


 悪びれず言うのは、近沢ちかざわ透子とうこ


「透子……なんで、ここ、に?」

「そんなの、たすく君を尾行したからに決まってるじゃない。前にぬいぐるみを貰ったときに、用事があるっていうから尾行してたんだよね。だから、あのときから知ってたよ。倉主さんと翼君が、こうやって逢瀬おうせを重ねてるってこと」


 自分の迂闊さを翼は思い知る。

 透子ならそれぐらいやりかねないことは、予想できたはずなのに。


「だから、倉主くらぬしさんがどういう人なのか解んないから、調べてみたの。敵を知り、己を知れば百戦危うからずって奴ね」


 翼を狙う透子にとって、親友とは言え一番傍にいる真萌まほが面白くなかったのは容易に想像がつく。


「母校について調べてみたら、ずっと遠方の中学だった。それでも、今はネットを調べれば繋がっていく。たまたま、色んなSNSで倉主さんの出身中学の情報を漁ってたら、倉主さんらしき『真萌』という名前が登場する日記があってね。その日記が、中学生活最後の大会に出場停止になったって話だった」

「弓道部の、誰かじゃろうの……そういえば、みんなSNSをやっておったのぉ」


 真萌には思い当たることがあるようだった。


「後は、その子に繋がってる人達を辿っていけば、事件の全容は知れた。で、折角得た予想もしてなかった美味しい情報だから、みんなにも教えてあげたってわけ」

「待て! じゃぁ、透子なのか? 倉主さんのことを、掲示板に載せたのは?」

「その通りよ。あたしが、倉主さんへの嫌がらせと、翼君の反応を試すために仕組んだことよ!」


 ペラペラと企みを語る透子。


「なるほど、のぉ。要は嫉妬かえ?」


 挑戦するように、真萌は言う。

 だが、透子も負けていない。


「そうよ! あたしは翼君が好き!」


 流石に、面と向かって言われると照れも感じるが、やはり、それ以上に疎ましく感じてしまう。


「済まない、その想いには答えられない」


 だから、即座に断る。


「いいよ! 翼君はそれでも。それより、さ」


 透子の視線は、真萌の、眼鏡で和らげたとは言え柄の悪い連中に絡まれる要因となったという強い目線を、真っ向から受け止めて、問う。


「翼君のこと、どう思ってるの?」

「親友じゃよ。掛け替えのない、な」


 即答する真萌。


「ふぅん……ま、そういうことにしておいてあげましょうかねぇ?」


 言いながら、翼の元へやって来る。

 おもむろに、その手に抱きつく。腕を組む、というより、恋人に甘えるような態勢。


「お、おい! やめろ! はしたないぞ!」


 生真面目な注意をする翼と。


「離れんかっ!」


 物凄い形相で駆け寄って、翼から透子を引き離す真萌。


「痛た……流石暴力巫女、ねぇ」


 腕を思いっきり引かれ、大袈裟に痛がる透子。


「ま、でも、これではっきりしたわ」

「そうですね。いい加減、わたくしの出番がなくて退屈していたところです」

「え? だ、誰?」


 突然の声に、一転、狼狽える透子。

 だが、真萌も翼も冷静だった。


 透子にその姿をしっかり見せつけるためか、透子と真萌の間に、ゆっくりと像を結ぶように現れる朱色のスーツ姿。


「誰と問われれば、この神社に祭られる神の一柱、と答えましょう。近沢透子」

「神? ふざけてるの?」

「ふざけてなどおりません。むしろ、貴方を歓迎しているのです」

「待て? なぜ、そやつを歓迎などするのじゃ?」


 聞き捨てならなかったのか、真萌が問い詰める。


「フィナーレを飾るに、丁度いい登場人物だからですよ」


 その手を差し伸べるようにして透子を示し。


「わたくしの紡ぐ救いの物語。最後の巫女魔法少女めがねっ娘の相手は、彼女です」


 最後の相手に、透子を指名する。


「待て! 透子を相手にする理由が……」


 そこまで言って、自分が透子とつき合うのが救いになることに思い至って言葉を失う。頭では理解できるが、そんな救いは受け入れられない。


「いいえ、わたくしが想定しているのは翼が思っているのとは違う救いです」


 そんな翼の心を読んで、物語の神。

 今度は真萌へと向かい。


「真萌、まず何より、貴方が透子の想いへ向き合って上げるのが、彼女への救いなのです」

「……そういう、ことか。全て、お見通し、ということじゃの?」

「ええ。その通りです」

「承知した。ぶつかってやろうではないか」


 透子への視線に、更に力を込める。


「それでは、始めましょう」

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