⑦眼鏡に救われた少女と眼鏡を外して本当の自分発見した少女の戦い

 唖然としている透子とうこへ、物語の神はその手を伸ばす。


「さて、透子。貴方はどんな魔法少女となるのかしら?」


 透子はふっと目を閉じ、意識が飛んだようになる。

 再び目を開いたとき。


「ベントラー! ベントラー! ベントラー! スペースピープル・ベントラー!」


 UFO召喚の呪文を唱えると、おもむろにその手に現れた茶色のフルリムセルフレームの眼鏡を掛ける。


「グラス・オフ!」


 その上で、外して地面に叩きつける。

 砕け散る茶色のフルリムセルフレーム眼鏡。

 それを合図としてか、同時に頭上に現れる光。


 彼女が好きだというアダムスキー型の円盤が飛んでいた。

 円筒形の光線が伸び、透子は円盤へと吸い込まれる。


 少しの間を置いて、円盤から下へと伸びる光の円筒。

 筒内を降りてくる人影。


 地上へと降り立ち、光が消えた時。

 その姿は変わっていた。


 銀ラメのミニスカートのワンピースに、銀のブーツ。

 宇宙服というか宇宙人というか、とにかく一昔前のUFO的イメージの衣装だった。


「魔法の本当の私デビュー! コンタクティートオコ! なんだか知らないけど登場よ!」


 投げやりとも思える名乗りを上げる。


「ありゃりゃ、なんでこんな格好に? でも、嫌いじゃないな、うん」


 改めて己の姿を確認し。


「じゃ、倉主くらぬしさんと闘えばいいのよね?」


 状況を即座に受け入れる。


「では、こちらも変身するかの」


 一方で、真萌まほたすくも変身する。


――かしこみ・まじかる・うぇりんとん

――はらたま・うぃざどり・あんだりむ

――みこまほ・めがみ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っくす!


「巫女魔法少女めがねっ娘 ぐらっしぃ∞まほ、見参じゃ!」


 紅白のマジシャン風衣装に身を包んだ姿に変身完了。

 即座に弓を構え。


「めがね・あろ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 鏑矢が異界を形成し。


「眼鏡時空、発生じゃ」


 お約束シーケンスをこなし、透子と対峙する。


「ふぅん、巫女魔法少女『めがねっ娘』、か……眼鏡にこだわるのね」

「そうじゃ、われにとって眼鏡は救い。生来の目つきの悪さを覆い隠してくれる、の」

「へぇ、あたしと相性悪いはずね。あたしは眼鏡を外して本当の私デビューしたの。だから、あたしにとっては、眼鏡は邪魔な枷。貴方が救いと言っているのは、眼鏡を掛けた偽物の自分で周囲を騙そうとしている卑怯な行為としか思えない」


 眼鏡を外して本当の自分を発見したという透子の過去を、翼は思い出す。


「見解の相違、じゃの。じゃがなるほど、ある意味気が合うのぉ……われも主とは相性が悪いと思っておったのじゃよ」

「ま、闘う理由は十分って感じだけど……翼君はどこ?」


 そこでようやく、翼の姿がないことに気づいたようだ。


「ここにいる」

「え? 今の声……まさか、今、貴方に掛かってる眼鏡は……」

「無論、来栖辺くるすべ君じゃ。つまり、彼はわれの救い。じゃから……主になど渡さん!」

「面白いじゃない。翼君を自分を偽る道具にするなんて! これなら、思いっきり、ぶつかれそうね……フライング・コンタクト・ソーサー!」


 透子の叫びに呼応し、周囲に幾つもの巨大なレンズが文字通りの空飛ぶ円盤として現れる。


 その縁は、鋭利な刃物。

 回転しながら真萌へと迫る。


 だが、これは多菜美と同パターンだ。


「ふん、当たらんよ」


 軽々と交わす真萌。


「では、こちらも反撃じゃ……めがね・あろー!」


 今回は飛び道具で応戦するためか、眼鏡時空発生後も手に持ち続けていた眼鏡型和弓から光の矢を放つ。


「ちょ、ちょっと! 危ないじゃない!」


 思いっきり後ずさってどうにかかわす透子。


「何を言っておる。これは闘いじゃぞ?」

「さっすが、暴力巫女ね。じゃぁ、こっちは……UFOは宇宙から来るから、多分、こういうのもできるはず!」


 言って、指を頭上に翳す。


「サテライト・レーザー!」


 真萌を指差すと。

 稲妻のような光が、降り注ぐ。


「めがね・みらー!」


 二つのレンズを模した鏡が光をはじき返す。


「うわぁ、それ、めがねの形している必要ないじゃない」


 呆れる透子。


「巫女魔法少女めがねっ娘の武器も防具も、眼鏡であるべきじゃろうが」

「いや、流石にその理屈はどうなんだ?」

「来栖辺君、ここは黙っておってくれた方が嬉しいのじゃがのぉ」

「すまん」


 微妙に緊張感のない会話を交わしてしまい、反省する翼。


「もう、なんかえらく息合ってるし! でも、あたし自身じゃ倉主さんの戦闘能力に叶わなさそうだし……うん、これだ!」


 思いついたように透子はポンと手を叩く。


「サン・メートル・スペース・ヒューマノイド!」


 透子の前に現れる巨大な影。


 真萌の二倍以上の身長がある。

 赤く丸い頭部にぎょろっとした黄色い目が二つ光る。


 某有名RPGのスライムのような形をしたフードのついた、袖のない濃緑色のローブを纏う胴体。

 伸びる赤い両手は体躯にしては細く、尖端には鉤爪のような指。

 足はなく、宙に浮いている。


 現れたのは、『フラットウッズ・モンスター』だ。

 透子が何となく呪文風に言っていた通りの、通称『三メートルの宇宙人』。


「あたしの代わりに、倉主さんを倒して!」


 思いっきり他力本願だったが、これが彼女の能力なのだろう。


「★△×●●★☆」


 意味の解らない音を出して、真萌へと音もなく水平移動して迫る。


「うぉ、こ、これはちと、キモイの」


 言いながらも、振り下ろされた鉤爪を難なく交わす。


「さぁて、召喚した三メートルの宇宙人さんに闘って貰うだけじゃ、あたしの立場がないからね! 魔法少女って要するにその人の潜在的な願望や意志を具現化するってことよね。言うならば、根底のアイデンティティ。そうありたい自分への変身。なら……」


 的確に魔法少女の在り方を分析し。


「貴方の秘密を暴けば、能力は落ちるはず……」


 そう言っている間も、三メートルの宇宙人は真萌に連続で爪を振り下ろし、終いには目からビームを出したりして攻撃するのだが、


「めがね・はるばーど!」


 眼鏡をあしらった薙刀に爪を弾かれ、ビームは躱され。全く、いいところがない。


「ねぇ、倉主さん?」

「なんじゃ? ぬるい攻撃じゃから、主と会話しておっても余裕じゃよ」

「ふふん、そう言っていられるのも今の内だけ。貴方は巫女魔法少女めがねっ娘。めがねっ娘であることを何よりそのアイデンティティの根源としているのよね?」

「その通りじゃ。われは巫女であり、魔法少女である以前に、めがねっ娘なのじゃ!」


 三メートルの宇宙人の攻撃を軽くいなしながら、改めて宣言する。


「でもね、それは嘘よ」


 透子はその宣言を否定する。


「だって、貴方が普段掛けている眼鏡は……」


 言葉を区切り、ためを作る。

 続く言葉を効果的に響かせるための、演出。

 大きく息を吸い込み。


 透子は、その決定的な言葉を口にする。


「伊達眼鏡だもの!」

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