第33話
見えないものを見ようとすれば、見なくていいものまで見えてしまう。
「愛、朝だぞー。起きろってー」
寝ている愛を起こすため、扉をコンコンと叩く。
しかし、いくら叩こうとも中からは動く気配を感じない。どうやらまだ寝ているらしい。
「おーい、起きないと中に入るぞー?」
何度叩こうが返事はない。
ならば中に踏み込むしかないだろう。
……わりと眠いから、早く起きてくれないものか。
妹は寝起きが悪い。
と言っても、ひたすら寝ぼけて起きようとしないだけなのだが……。
ガチャリ
扉を開け、中に入っていく。
綺麗に整理された部屋は、赤を貴重とした女の子らしい部屋だ。
「ふみぃ……」
「あぁ。やっぱ寝てる」
気にしない事にしてから、多少は寝れた。しかし、やっぱり完全に気にしなくなるって言うのは無理がある。
何が言いたいかって? ぶっちゃけ3時間くらしか寝れてないって事。
可愛い寝言を言いながらベッドにしがみつく妹を、肩を掴み揺さぶる。みぃみぃ言うだけで起きる気配はない。……どこの小動物だ。鳴き声が可愛いなっ。
どうやって起こしたものか……。
いつもはどうやって起こしているか?
力づくか軽いデザートで釣っている。それくらいしか有効手がない。
出来れば、力づくでは起こしたくない。
それは妹の教育に悪い。
しかし、今からデザートを作る時間はない。
………。
……。
…。
「起きないとキスするぞー?」
前、額にキスしたらすんごい嫌がられて……おお、心の傷がぁああ。
数年前までは受け入れてくれたのだが、友達にからかわれたのが恥ずかしかったのか、
「もう止めてよねっ」
と言われてしまい、それからは一度たりともしていない。が、寝ている妹に言うと嫌がって起きてくれるので。
予想通り、パチッと目を開く。
「……お兄ちゃん、疲れは取れたの?」
おお、嫌そうな顔をしながらもお兄ちゃんの事を心配してくれるとはっ! なんていい子なんだ!! ……ちょっぴり傷ついたけど。
「そこそこ取れたよ」
苦笑を浮かべながらそう言ってやると、
「そう。……準備したら、下に行く……」
少しだけ眠そうな顔をした妹が、小さく欠伸をしながら腕を伸ばす。
「じゃ、先に行ってるからなー。二度寝するなよ」
それだけ言って部屋から出て行く。
ここまで起きれば大丈夫だろ。
「わかったー」
部屋の中から間延びした返事が返ってきた。
それに頷き、1階に向かう。
リビングでトースト焼いて、目玉焼きとサラダを皿にでも盛り付ければ完成だ。
「お兄ちゃんさー」
食後のコーヒーを飲みながら、妹が話しかけてくる。
「なんだ?」
俺もコーヒーを飲みな―――
「あさとノノさん、あと生徒会長もかなぁ。で、誰と付き合うの?」
「――ぶふっ」
「きたなっ」
突然の言葉に口に含んでいたコーヒーを噴出した。前に座っていた愛に飛んだ。
それを嫌そうに拭きながらこっちを睨んでくる。
「いきなり、なにするのよっ」
「ごふっこほっ」
応対する余裕なんて俺にない。……ちょっとまて、なんでお前がっ、え、なに、どう言うことなのっ!?
「な、なん……」
カタカタと震える口振りから、なんとか言葉を紡ごうとするのだが、上手く言葉にならずに、掠れた音が零れる。
「まったくもう……で、誰と付き合うの?」
「え、あぅ、で、出来ればあさとが……いい、かなぁって……」
……なんで俺、朝から妹とこんな話をしているのか。
「そうなの? あささんかぁ……今のところ脈ないけど、どうするの?」
「こ、これから頑張って好感度を稼いでいこうと……」
「無理じゃないの?」
「うぐっ」
呆れたように呟く妹の鋭い言葉。思わず、胸を襲える。……や、やっぱりダメかな?
まぁ、今のところまるで脈がないですからねぇ。再度告白しても意味はないでしょうね。
あの無表情ロリ――もといあささん、好感度どころか進くんの名前を覚えてませんよ? 強いて言うなら、手作りのお菓子を渡し続けるのが一番の近道ですね。
「まぁ頑張ってね、お兄ちゃん。応援はしないけどね」
「……そこは応援してくれると、嬉しいんだけど」
先ほどまでの呆れていた態度から一変、ニコリと小悪魔のように笑う。……いったい何を企んでいるだろうか。怖いが、昨日の恩もあるし、聞くに聞けない。
「じゃあ、そろそろ行ってくるね」
「おう」
カバンを掴み上げ、玄関に向かっていく妹を見送る。
妹の中学校は俺の高校よりも遠い位置にある。そのため、妹の方が30分ほど早く家を出るのだ。
パタンッ
と扉が閉まる音が聴こえてきた。
「ふぁ」
大きく欠伸をし、自分の部屋に向かう。
今から二度寝だ。
目覚まし時計のアラームを20分後に設定する。
しっかり動いている事を確認してから、ベッドに転がる。
いつぞやは目覚まし時計が壊れていて大変な目にあったからなぁ。
「昨日は楽しんで来たのかじゃん?」
教室に入るなり、ニヤニヤとうざったい笑みを浮かべた正栄が話しかけてきた。イラッときた。ここ数日感じた事のないようなイラッとした感情。はっきり言ってかなりムカついた。
「はっはーっ。昨日は倒れそうになって、家まで妹に送還されたともっ」
ビュッ―――極自然に近づき、今までにないくらいの鋭さで放てた拳が正栄の顔面に向かう! 死んどけやあああああああっっっ
「――むっ」
流石にまずいと思ったのか眉を吊り上げ、俺の拳に自分の拳を当ててきた。
じーんっと痺れる重い感触。……い、いてぇ。つか後出しで何で俺の拳に当てられんの? 馬鹿じゃねぇ?
痛む拳を押さえ、正栄を睨みつける。
「甘いじゃん、俺を倒したければ死ぬ気でこいじゃん」
ふっ。とこっちを見て鼻で嗤う正栄。……ホントに死ぬ気でいったろーか? 相打ち覚悟で突っ込むけど、いいんだな? いいんだよなァ?
ちょっ進むくん!? 顔が怖い怖いっ。どこぞの悪魔みたいになってるからっ。それって主人公がしていい顔じゃないですから! 落ち着いて、いいから落ち着いてくださいよぉ。
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