第29話
賢者はその知恵故に行動が遅れる。愚者はその愚かさ故に即座に行動を取る。どちらがいいとは言えない。
しかし、この性質を併せ持つ者は決していない。互いに相反するものであるからだ。
「さて、お菓子も食べ終わったし、何するっ?」
色々とゴタゴタした出来事はあったが、無事……無事? ま、まあ無事にプリンとコーヒーゼリーを食べ終えた直後、ノノが立ち上がり叫んだ。
「いや、5時過ぎたぞ。帰れよ」
進が極々当然の事を言う。こいつ、ストーカーでシスコンの癖に意外と常識人ですよね。いや、その二つを取って変な行動を慎めば……それはもう、別人ですね。
「そうだな、オレはそろそろ帰るじゃん。姉ちゃんが帰りに漫画買って来いって言ってたし、本屋が閉まる前には帰らないとじゃん」
「お前、完全にパシリだよな。……荒れ狂っていたお前は、いったいどこへ……?」
中学時代の正栄はそれはもう、喧嘩して喧嘩して喧嘩して。喧嘩してない日がなかったと言ってもいい。そんな彼が今や姉のパシリ……。彼に殴られた奴らが今のこいつを見たらなんと思うのだろうか。
「あれは若かっただけじゃん」
苦笑を浮かべ、若気の至りと言い切る。な、なんだか大人の余裕を感じます。こいつ成長しすぎじゃね? まだ荒れてた頃から数ヶ月も経ってないですよ?
高校に入って、進くんと出会うまで荒れ狂っていたいましたからね。むしろ進くんの影響受けすぎじゃありません? 確かに変態性を除けばわりと優秀な男ですけど、その変態性が他のすべてを凌駕している男なんですよ?
「………ん、帰るに賛成。……暗くなったら危ない」
「そうですわね。遅くなり過ぎるのも、あまりよろしくはないでしょう」
あさと生徒会長もその意見に賛同する。どうやら、遊び足りないのはノノ1人だけらしい。
「ぶぅ、皆ノリ悪いなぁ」
不満げに頬を膨らませるノノ。いちいち仕草が子供っぽい。その辺が暴走娘と呼ばれる由縁なのだが、本人は気づいていない。
「ノノさん、また遊びに来てくださいよ。お兄ちゃんと一緒に待ってますから」
にっこりと笑顔で諭す愛。……どちらが年上か、わかったもんじゃない。
「仕方ないかぁ、うん、また今度遊びに来るよ!」
「はい、待ってますね」
どうやら年下の説得が功を奏したのか、ノノが帰る事に納得してくれた。
それぞれが自分のカバンを持ち、立ち上り帰りの準備を始める。
帰る準備と言っても、精々自分のカバンの中身を確認するくらいなものだが。
玄関まで見送っていく。
女だけで夜道を歩くのは危険な気もするが……そこはほら、彼がいますしね。
「また明日学校でな」
「あ~い」
「失礼しますわ」
「……………バイバイ、お菓子おいしかった………愛ちゃんも、またね」
「はい、あささん。また会いましょうね!」
「じゃあなじゃん」
1人ずつ玄関の扉から外へと出て行く。
最後の正栄を見送り、進も外に出る。
「愛、お兄ちゃんちょっと買い物に行ってくる」
「いやいいけど、それって今行く必要あるの?」
愛の当たり前すぎる疑問に「うぐっ」と言葉に詰まってしまう。もう夕方だし、態々買いに行く物もない。
しかし、進には大事な使命があるのだ! それは彼女らを守る事っ。その為ならどんな汚名でも背負って見せようではないかっ。という無駄に決意ぢていた。
「た、」
「た?」
「タルタルソースが食べたいんだあああああああああ」
「お兄ちゃん!? 家にあるけどっ? ――走ってちゃった……」
走っていく兄の姿を呆然と眺める妹。
あの兄はいったい何がしたかったと言うのか。家にタルタルソースあるし、この前買ったばかりだ、ついでに言えば買ったのも兄。
いや、結構な頻度で奇行に走る人だけど。だからってここまで唐突なのは珍しい。
「……まいっか、どうぜ7時前には帰って来るでしょ」
シスコンな兄だ、帰ってきてご飯の準備をする為に、エプロンを装備するのが眼に浮かぶ。
「今日は楽しかったねぇ」
どこか楽しげに呟くノノ。
「ですわねぇ。愛さんも可愛かったですし」
「……ん、可愛かったね」
生徒会長とあさも概ね同意のようだ。
気持ちのいい静寂が周囲を満たしていた。
「……2人ってさぁ、彼の事好きなの?」
「「!?」」
唐突に爆弾を放り込んだあさ。2人の行動には気づいてはいたらしい。……進くんの事を彼と呼ぶ辺り、名前は覚えてないんでしょうね。強いて言えば、お菓子の人で覚えてるかもしれませんけど。
「え、えっと……い、いつから気づいてた?」
「そうぅですね、あの、その……進さんに助けてもらった時に、こ、好意を、ですね……」
生徒会長が言い訳をしている横で、ノノがあさに問いかける。
「…………うーん、ボクって恋愛は分からないけど……最近、ノノが彼を目で追ってるのは、わかったから」
どうやら親友の挙動がおかしい事に気づいて、見ていたら、進の事を目で追っているノノがいた。と言う事らしい。……あなた、ノノさん大好きですね。
「そ、そんなに分かり易かったっ?」
「……うん。ボクが分かるくらいだし………皆気づいてるんじゃないかな」
「そ、っか。――よしっ決めた! 明日から積極的にアプローチするっ」
腰に手を当て、胸を張り、夕焼けの空に宣言する。……なんか、青春からは遠そうな人が青春してます。
「で、ですからね。進さんを――――」
2人から忘れられた生徒会長は、今だ何かを言ってはいたが、誰にも気づいてもらえなかった。……1人を除いては。
「……………困った」
我らが愛の
あささんの台詞もばっちりです。
明日からどうするのか、楽しみですね。
「い、いや待てっ。彼としか言ってない――俺じゃない可能性もあるわけだっ!」
2分の1ですし、そもそも正平くんが女の子を苦手としているのを知っているのになんて事を言うんですか。
彼が女の子を口説いてる姿が、まったく想像できませんよ?
そもそも、生徒会長が助けられたって言ってたじゃないですか、完全に黒です。あなたです。間違いなく確実に君です。それとセットで言われたノノさんも同じですよ。
まぁ、明日の対応を考える事ですね。
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