第28話

 不可解な事が起きると、人はそれを認識できない事が多々ある。それは視認できていても、脳が認識する事を拒絶するからだ。






「あささんって、プリンとコーヒーゼリーのどっちが好きなんですか? 私はコーヒーゼリーが好きですよ。兄はプリンが好きみたいですけど!」

 妹の言葉を妙に真剣な顔をした2人が一言も逃さないっとばかりに耳を傾けて聞いていた。……誰が、とは言いませんけど。いい加減気づきなさいよ。っと進くんに言いたいですね。と言いますか、仲良くなるの早いですね。愛さんがリビングに入ってきてから30分と経っていませんよ。

 兄の好みをばらし乙女2人のハートを掴み、あささんとは食べ物トークで仲良くなったのですが、兄とは違ってコミュ力高いですね。



「………そうなの? ボクは、プリンが……好きかな」

「そうなんですかぁ。……お兄ちゃん暑苦しいよ、踊るなら外でやって」

「踊ってねぇよ!? ただ、そのぅなんだ。あれだあれ、嬉しくて我慢できずに体が動いただけだ」

「そっちの方がダメだと思うじゃん」

「せりゃあああ」

「うおっ。急に跳び蹴りするなじゃん!」

 ちっ、避けやがった。ソファーに座ってるくせに生意気な。



「ささ、そこの馬鹿2人は無視して残りも食べてしまいましょう。なぁに大丈夫です。私にだだ甘な2人ですから、きっと許してくれますよ」

 にっこりと小悪魔のように微笑む愛。……お兄ちゃん、まだ一個も食べてないんですけど?



 きっと、何か言っても「そなの? おいしかったよ!」と笑顔で言われれば何も言えなくなってしまうのだ。……ちなみに、正栄くんも愛さんには甘いですよ。進くんにロリコン疑惑を掛けられる程度には。



「あささんって可愛いですねぇ。あーん」

「―――あむっ。……そう? ありがと」

 愛が差し出したスプーンを躊躇なく食べに行くあさ。無表情なのに頬が薄らと赤くなっている。どうやら可愛いと言われた事が嬉しかったらしい。



 それを見ていた進の八つ当たりがすべて正栄に向くのは必然的だった。


「ちくしょーっ、愛めっ羨ましいぞこらぁ!」

「知らないじゃんっ。つか本人に言えじゃん!?」

「言えるか馬鹿ああああ」

「う、うぜええええええ」



 背後から聞こえてくる馬鹿2人の声は無視する。と言うか、誰も見てませんね。



「それではここで、質問ターイム♪」

 デデンッ。と自分の口で呟く。



「誰がお兄ちゃんと付き合ってるんですか?」

「「!?」」

 い、いきなり爆弾ぶっこみましたね。

 周囲の微妙な空気を理解してないのか……いや、あの小悪魔フェイスは理解したうえでやっていそうです。


「あささん、お答えを!」

 進の態度を見ていて、あさに惚れている事に気づいていた愛はこの空気を楽しむ事にした。どうやら、あさにその気はないようだし。これは遊べそうだ、と。


「……振った」

「おおっと、それは残念っ。しかぁし、まだ美人さんが2人もいますからね! 次々行って見ましょうっ」

 振った、と言う単語を聞いた瞬間、進が泣きながら地面に倒れた。それを横目で確認した愛は内心で「あちゃー。もう振られてたかぁ」と呟き、別の2人に矛先を向ける。

 明らかに好意をもっている様子だ。これなら問題ないでしょ、という判断で。



「ではでは~、ノノさんお願いします!」

 ターゲットが自分だと分かった瞬間――バクンバクンッと心臓の音が煩いくらい聴こえてくる。

 き、聞かれてないかなっ。と進の方を真っ赤な顔で見やる。……馬鹿な進くんは泣き崩れてそれどころじゃないのですが。


 一連の動作を見ていた愛の表情が、にっこりと笑みを深める。……あれですね。犬が好物を目の前に置かれた時にする顔とそっくりです。



「ノノさん、ノノさん。お兄ちゃんと付き合ってみません?」

 もうすでに質問じゃないです。



「え、あのっそんな……」

 動揺して言葉にならない声を必死にあげるノノ。愛はその様子を凄い楽しそうに見ていた。

 この展開、愛とノノ的にはいいが……しかし、彼女は黙ってはいない。



「お待ちなさいなっ!」

 そう、もう1人の乙女――生徒会長だ。



 その反応を見た愛がぽつりと漏らした。

「お兄ちゃんモテすぎじゃない? や、告白した人には振られたっぽいけど」

 なんだか微笑ましい気持ちになってくる。今まで友達の少なかった(いなかった)兄に男友達が出来て、そのうえ女の人にも好かれているなんて。

 気づいてない感じなのが、またおもしろ――ラブコメっぷりに応援したくなっちゃうなっ!。



「愛さん、進さんの女性の好みってなんでしょうか?」

「胸が小さくて、自分より背の低い女性だってお母さんが言ってたよ」

 ニコッと笑顔でとんでもない事を言ってくれる。



「待てっ、何故母さんがそんな事を知っている!」

 流石に正栄とじゃれている場合じゃないと、進が慌てて戻ってくる。その際、正栄は疲労困憊って感じで床に倒れてました。



「パソコンの中身を確認したって」

「嘘だろ!?」

 なに、なんで? 息子のエロを確認する為に隠したファイルを態々探して、掛けていたロックを解いたとでも言うのか? そんな馬鹿な――



「続きをお願いしますわっ!」

 興奮した生徒会長が先を促した。ノノは聞きたいけど聞きたくない、と複雑な気分に襲われていた。

 ぶっちゃけノノさん純情ですし。今だって、顔が赤いなんてもんじゃ……耳まで赤くなってますからね。

 しかし生徒会長さん、あなた意外と積極的ですね。どこぞのお嬢様だったんじゃないんですか? 寮暮らしで色々と知っちゃいけない事まで知ってません? 



「んー、了解。なんでも、年上で包容力がある女の子か、年下で背の小さい女の子が多かったって」

「のおおおおおおおおっ」

 完全に見てるじゃねぇか!? 人のコレクションを完璧に把握してるじゃねぇか!? 何してくれてんのっ。と言うかいつ調べた!? 

 パニックになって床をのた打ち回る進。正栄が横で「ざまぁ!!」とちょー嬉しそうに言っている。



「お、同い年! 同い年のはなかったの!?」

 ノノが愛に迫りながら聞く。


「ちょちかっ、近いです! 近いですよ! はな、はなれろぉ!」

「きゃん」

 唇が触れるほどに迫ってきたノノを無理やり押し退けた。あのままでは唇同士が触れそうでまずいと思い、押し退けたのだ。


「あぶ、危なかったぁ……私は、ノーマルです!」

 唇を死守した愛がノノにそういい切る。

 

「私もノーマルなんだけど……まぁいいや、それよりも同い年のはなかったの!?」

「さぁ、私が直接見たわけではありませんので。でも、お母さんの口振りじゃ、なかったんだと思いますよ?」

 ガーンッと音が聞こえるようなほどショックを受けたのか、よろよろと進の近くまで歩いていき、進に寄りかかるようにして倒れこむ。……めげませんねぇ。


「私の時代来ましたっ?」

 ノノさんとは真逆に、ちょー嬉しそうに叫ぶ生徒会長。……まぁ、好み的に言えば、年下の次に多いそうですからね。今のところ、ノノさんよりはチャンスがありますよね。


 しかし、ちゃっかりと進くんに寄り添っているノノさんを見逃しているんですけどね。

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