第27話 

 戦場は不意に訪れる。生と死の境で人は何を思うのだろうか。




「愛いるかー?」

 家に着くと、1人で中に入り妹がいるかを確認する。いるなら、一緒に食べるか誘おうと思ったのだが……いないみたいだ。

 まぁあいつの分を残しとけば問題はないか。


「入ってくれ」

 玄関に戻り、入るように伝える。

 おじゃまします。といいながら玄関に入ってくる4人。……一度に入るのは無理だと思うのだが……あ、凄い狭そう。正栄が青い顔になってやがる。あいつって、基本的に女子と会話しねぇけど……苦手なのか?


 いやでも、姉がいるし。――そういや聞いた事あるな、姉か妹がいる奴らって女性が苦手になるって。確かに気の強そうな姉だったし……女性恐怖症ってわけでもないんだろうけど、一定の範囲は保ってる感じか。


「せ、狭いですわっ」

 生徒会長の叫びに、進は冷静に返す。


「一般家庭にある、極普通の玄関だと思うけど?」

 むしろ、3人以上が同時に入れる玄関なんてそうそうないと思う。


「す、進……オレは、もうダメじゃん……」

 女子全員が入った後、床に倒れた正栄が力なく言葉を発する。かなりダメな感じ。てか末期?


「お前、今にも死にそうだな」

「ぐっ……オレは、年が下の女の子以外は苦手なんじゃん………」

 あれな発言に進の表情がビシリッと音を発て固まる。


「い、いやっ勘違いしないでくれじゃん! ただ小さい娘なら一緒にいても辛くないってだけで、別に好きとかではないじゃんっ」

「そ、そうだよな。驚いたぁ、お前が突然性癖を暴露したかと思っちまっただろ。あ、妹には二度と近づくな」

 こいつには二度と愛を近づけない。ロリコン死すべし。……年が一緒なら、いくら相手の背が低くてもロリコンじゃないよな?

 あさの容姿が脳裏にチラつく。ちっこい背丈のぺったん娘、どうみてもロリですね。諦めなさい。


「愛ちゃんをそんな目で見たことないじゃんよ!?」

 憤慨し立ち上がる正栄、どうやら立てる程度には回復したらしい。


「ふーん。まぁ愛に手を出したら……」

 分かってるな? と目で伝える。

 出さないとは思うが、もしも出そうとしたらそんときゃあ、地獄より辛い目にあってもらおう。


 背後で必死に言い訳をしている正栄を置いて、リビングに向かう。


「こっちだ、来てくれ。あぁそこの棚に来客用のスリッパがあるから、適当に使ってくれ」

「ねね、松永ってロリコンなの?」

「ちがっ違うじゃんっ」


 正栄に止めを刺しているノノは放置する。どうせ、正栄が案内するだろ。あいつは何度も家に来てるし、特に問題はなさそうだ。





「おまちどー、冷やしたプリンにコーヒーゼリーですぜー」

 進が変な喋り方で、両手のトレイに載せて運んでくる。手馴れているのか、まったく危な気がない。

 ソファーに座る面々の前に置かれていく。……なんで家ってガラス製の机なのか、親の趣味か?


「カラメルはそこの瓶に入ってるからご自由に、あぁポーションと牛乳は今もってくるわ」

 再び冷蔵庫へと足を運び、牛乳とポーションを取り出し戻る。


「か、完成度高いね」

 若干引き気味のノノがぽつりと漏らした。

 ぶっちゃけ、普通の学生が手作りするレベルじゃない。


「進、オレのスプーンは?」

「いつもの場所に入れてあるよ、勝手に取ってくれ」

 了解ー。と告げて、ソファーから立ち上がり冷蔵庫の脇にある棚を漁り始める。その光景に愕然とする2人、もちろんノノと生徒会長――乙女達の事だ。なにせ、進と正栄、お互いが信頼し合っているのか平気で実行しましたからね。そりゃあ羨ましいでしょうよ。


 ……我関せずにプリンの容器を一つ手元に引き寄せ、カラメルをたっぷりとプリンにかけて食べているこの娘は、きっと恋愛に興味がないんでしょうね。

 無表情ロリのくせに、スプーンで掬い口に運ぶたび、とても幸せそうな顔を浮かべていますよ。

 

 それを見て幸せそうな顔を浮かべている進くんも大概ですけど。……案外、食べ物で釣ればいけるんじゃないですか?

 この娘ってば、食べる時以外は感情を動かしませんよ。あぁいや、ノノさんの事でも感情は動きました。……でも、それぐらいです。


 あ、2つ目の容器に手を伸ばした。躊躇いがちに伸ばして、進くんを上目遣いで見ています。これは……やばいですね。

 ジトッとした目でおねだり。―――今のはクラッてなりました。進くんは、



「―――っ」

 幸せそうな顔で昇天してました。あ、どうしていいのか分からず伸ばした手をうろうろさせ始めましたよ。なんだか小動物みたいな動きで可愛いですね。

 なんでしょうね。無表情なんですけど、いつもと違って感情が分かり易いです。それ程お菓子が好きなんでしょうか。


「食べても平気だと思うじゃん。どう見ても20個はあるし、たぶん多めに作ってるじゃん」

「……!」

 戻ってきた正栄が進の代わりにあさへ伝える。それにあさは、ぺこりと正栄に頭を下げて2つ目の容器を手元に引き寄せる。……今だ2人の乙女は正栄をガン見している。


 気まずかったこの空気を変えよう。という正栄の思いがあったのだが、どうやら効果がなかったらしい。



「―――はっ。なんだか、大事なところを見逃した気がする!」

 正気に戻った進が叫ぶ。が、誰も気にしない。精々正栄が呆れた目で進を見ているくらいだ。

 

 大事なところっていうか、進くんが呆けている間に正栄くんがあささんからお礼をされてましたね。

 それを進くんが知ったら、正栄くんに襲い掛かりますよね、絶対。




「たーいまー」

 玄関から愛らしい声が聞こえてくる。そして、進が無言で立ち上がり玄関に向かう。……どれだけ妹好きなんですか。ちょっと引きますよ? あささんは引かなそうですけども。


「おかえり、愛」

「お兄ちゃん、今日は友達が来てるんじゃないの?」

 首を傾げながら問い返してくる愛、最高に可愛いじゃないかっ。


「あぁ、いるぞ。正栄と女子3人が。あ、正栄と2人きりにはなるなよ?」

「え、いいけど……急にどうしたの? うん? 今、女子が3人って聞こえたけど……気のせいかな?」

 きょとんと不思議そうな顔を浮かべている。……心外だなぁ、お兄ちゃんにだって女の友達くらいいるわいっ。……………3人だけ。


「そうだぞ、驚いたかぁ?」

「――で、誰が好きなの?」

「―――」

 妹の言葉に、うっと詰まってしまう。

 

「あぁ、その中にいるんだね。よーし、私確認しちゃうぞー♪」

 ちょっまって!?


 進くんが必死に妨害しようとするが、すっごい嬉しそうにずんずん進んでいく。そしてあっさりとリビングに辿り着く。……そもそも進くんじゃ愛に手をだせないから、無理やり止めるなんて不可能です、実質妨害がなかったわけですね。




「皆さんこんにちわ! 私が妹の愛ですっ」

 とびっきりの笑顔を浮かべてリビングに入っていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る