第26話 

 時には飛び込む勇気だって必要になる。いや、飛び込まねば見えてこないモノがあるのだ。



「……これはない」

「だよね」

 妹と二人、出来上がったモノを見てダメだしする。

 そもそもこれらは学校にもっていけないだろうよ……なぜ作ったんだ。


 テーブルに並ぶプリンとコーヒーゼリー。

 もって行くには、器がないよなぁ。

 下手にもって行けば形が崩れそうだし……。崩れたプリンは食べたくねぇな。



「妹よ」

「なに?」

「明日でも平気かな」

「だからなにが?」

「友達を連れてきても」

「いんじゃないの。どうせあの二人はいないし。あ、でも……Hな本は隠しときなよ? あ、でもいいのかな。どうせ来るのは正栄さんでしょ」

「――まぁ待て。俺はそんなモノはもっていない」

 妹の言葉に心臓がばくんっと一瞬跳ね上がる。

 ……見つかりたくないし、全部PCに保存してある。フォルダの奥へとしまい込んでロックまで掛けてあるのだ。そうそう見つかるモノではない、はず。


「え? お母さんが言ってたよ。あいつはパソコンに隠してるって」

「………」

 おぉう、なんで知ってるっすかね、お母様。あなた、別に俺の部屋に入らないじゃねぇですか。なんで知ってっすか、泣くぞこらぁ。

 じっとりとした汗が背中を伝う。


 そもそもなんで妹に伝えやがった? 俺がこの子を溺愛してる事は知ってるだろうにっ。嫌がらせか? 嫌がらせなのか?


「ま、まあ大丈夫だ。お兄ちゃんはそんな物をもっていないさ!」

「いや、別にいいんだけどね……妹モノは止めてね?」

「いやそれはない」

 いくら溺愛っても、家族愛だし。異性に向ける愛じゃねぇよ?


「そ、そう……断言されるのはなんだか、ムカつくね」

「家族としては、これ以上ないってくらいに愛してるぞ?」

「うん、知ってる。……お兄ちゃんって好きな人いないの? 彼女でもいいけど」

「―――」

 プリンとコーヒーゼリーを仕舞う為に冷蔵庫の場所を確保していた手が止まる。


「え、固まった……え、えぇ…………い、いるんだね!」

 なんだか気まずげに目を逸らす愛。

 ちょっ、待ってっ。待ってほしい!!


 なんで妹に好きな人がいると暴露しなければいけないんだ? 

 そうだ、冷静になれ。冷静になって――


「――お兄ちゃん!? そこは冷凍庫だよっ。そんなとこに入れたら大変な事になっちゃうよっ!?」


 冷静に肯定しよう。茶化されないようにクールに決めていこう。


「ふっ、大丈夫だ妹よ」

「なにが!? プリンもコーヒーゼリ-も冷凍庫に入れたらまずいと思うんだけど……」

「俺には好きな人がいる」

「今それどころじゃないよっ。いいから冷凍庫に入れてくのを止めて! ホントに止めてよっ」

「そんなわけで、好きな人を明日連れてきます」

「どんなわけ!? あぁぁぁ、最後のプリンが……………冷凍プリンなんて流行らないよ………」

 愛が冷蔵庫を前にがっくりと倒れ込む。

 私には止めるだけの力がなかったよ……。と、泣き崩れている。






「誰だっ冷凍庫にプリンとコーヒーゼリー入れた馬鹿は!?」

「お兄ちゃんだよ!!」


 冷凍庫に入っていた事に気付いた進は、叫んだ。そして妹に返怒鳴り返される。え、俺が? と戸惑いながらも仕方ないので、また別に作りました。……凍らせたプリンって、あんまし美味くないね………。コーヒーゼリーは、ポーションも牛乳も混ざらなくて、凄く微妙だった。






 

「と言うわけで、暇な人挙手!」

 授業が終わり、閑散としてきた教室で唐突に叫んだ進くん。

 周りからの視線が痛いですね。本人は気にしてないですけど。


「はいは~い。私ってば暇だよぅ」

 ノノさんがぴょんぴょん跳びはねながら手をあげる。……なんで、あそこまで跳ねてるのにスカート捲れないんですかね? 女の子のスカートって、時折鉄製なんじゃないかと思う時があります。


「そうか、1人は確定、と。他は?」

「オレも暇じゃん。今日って何かあるんじゃん?」

「あぁ、昨日菓子を作るって言ったろ」

「!」

「その話、私も参加してもよろしくて?」

 どこからか現れた生徒会長とノノさんが激しく食いつきました。……怖いくらいの食いつきでしたね。……生徒会長、どこにいたんですか? さっきまでクラスにいませんでしたよね?


「大丈夫ですよ」

「今から進の家で作るんじゃん?」

「あぁ違う違う。もう出来てはいるんだ。ただ作ったモノが持ち運びに適さなくてなぁ……なんであの二つにしたんだっけ?」

「知らないじゃん。愛ちゃんにでも聞けじゃん。んで、あの人は誘わないんじゃん?」

 正栄くんの言葉に、ノノさんと生徒会長が――ビクンッ。と反応しました。どうやら、あささんの事を言っている。のだと理解してるのでしょう。


「そ、そうだな。昨日一緒にいたし呼ぶカァ」

 ……声が裏返ってますよ、進くん。緊張しすぎです。いや確かに、好きな女性を家に招くんだから多少は仕方ないと思いますが、変なミスをしないでくださいよ。


「………」

「さてと、連絡を取りたいんだけど。ノノ、あさの連絡先しらねぇ?」

 それをノノさんに聞く辺りが、妹にデリカシーないって言われる所以だと思いますよ?

 すんごい無言で進くんを睨んでるじゃないですかぁ、めっちゃ怖いです。


「…………はい」

 苦い顔でスマホを差し出してくる。


「お、サンキュ」

「……あささんだけ呼ばないのも、変ですわよね」

 生徒会長の言葉に頷く一同。そりゃあねぇ、約二名ほど呼びたくない理由もわからなくもないんですけど、それはやっちゃダメですよね。……人として。



『……どうしたの?』

「お、繋がった」

 進の声を聴いたあさは怪訝そうに、

『あなた、誰?』

 と問い返してきた。

 まぁ、友人からの電話に出たら男の声って、普通に驚くわな。


「俺だよ俺、忘れちゃったか?」

『………………詐欺なら、他所でやって』

「違うぞ!? ノノと同じクラスの進だよっ!」

『………………………………誰、だっけ?』

 さっきよりも長い沈黙ですね!? 完全に進くんの名前を認識してないです。たぶんですが、ストーカーの方が通じますよ。


「ま、まぁいいや。ノノに代わるよ」

『…………ん』

 自分での説得を諦めて、ノノにスマホを手渡す。

 ……ノノさんが複雑な乙女心で、電話に出たくなさそうにスマホを受け取りました。凄く苦い顔ですね。


「あ。あさ? 昨日の話覚えてる? ほらあれ、お菓子作ってくれるって言う奴」

『……覚えてるよ』

「もってこれない類のお菓子らしくてね、今から食べに行くんだけど、あさも来ない?」

『………………いくっ』

「了解、今から私のクラスに来れる?」

『……問題、ないよ』

「じゃ来て」

『すぐ向かう!』


 電話を切り、はぁっ。と一際大きなため息を吐き出し、進に視線を向ける。


「……あさ、来るって」

「しゃあああああっ」

「「………」」

 二人の乙女が戦闘態勢に入っているが、嬉しさのあまりその事に気付かない進。どうやら、好きな人が家に来てくれるってのは予想以上に嬉しかったらしい。

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