第25話

 人が変わるのはいつだって恋の所為。


「でだ、妹よ」

「なぁにお兄ちゃん?」

「くはっ」


 こてんと首を傾げる仕草が最高に可愛いこいつが、俺の妹である愛だ! ……進くん? あの、誰に言ってるんです? 


「と、友達に菓子を作りたいんだ。……今日の分のおやつ、減らしていいか?」

「え? 全然構わないけど、友達って誰にあげるの? あ、正栄さんのことかな」


 唇に指を当て考え込む動作に萌えながら、否定しておく。妹には女性としての意見も聞きたいからな。


「いや、あいつにじゃない。女の友達が……さ、三人だ」


 今の間はあれですかね。女友達二人に好きな一人、とでも言いたかったんでしょうかね。あ、相変わらず初心な青春してますね!


「へぇ…………………え? お兄ちゃん、女の人に友達なんていたの!?」

 興味なさ気に聞いていた愛だったが、まさかの女友達に驚きを隠せない。ただでさえ変人過ぎて友達の少ない兄に女の友人が出来ているとは、本気で思わなかった。


「うん? そりゃあいるぞ、この間のクレープを誰と買ってきたと思ってるんだ?」

「いや、正栄さんのお姉さんがクレープ屋さんなんでしょう? この前来た時に言ってたし、その関係と思ってたの」


 ……そうだね。この間、正栄が止まりに来た時に言ってたね。姉ちゃんの作るクレープ美味いから、今度食べに行こうじゃんって。人の妹をナンパするんじゃねぇ! って跳び蹴り食らわせてやったが。


「ま、まぁあれだ。お兄ちゃんにだって、女の友達くらいいるって事だ」

「うーん。……嘘、ついてないよね?」

「どんだけ疑ってんの!? いいよ、今度連れて来てやるよ!」

「あ、無理やり連れ込んじゃ駄目だよ? ちゃんと相手の同意を得ないと」

「なんの心配!? え、同意を得るのは当たり前だろ?」

 普通に、今日家に遊び来ない? いくいく。みたいな感じになるだろ。むしろどうやって無理やり家に連れてくるんだよ! わりと不可能じゃね?


 少なくとも、ノノを相手にしても負ける気がするぞ! あいつ、妙にパワフルだから。いや性格じゃなくて強さで。

 この間、平気そうな顔で人を振り回してた。……それも男を。最低でも50kは超えてそうな奴だった。う、腕相撲したら負ける。


「なんか心配だなぁ」

「てか、お前はさっきから何を心配してるんだ?」

「お兄ちゃんが変態さんのオオカミさんに変わっちゃわないか」

「本当に何を心配してるんだ……」

「いっそ女装すれ――」

「しません」

「ぶー。ケチー」

「ケチで結構だ」



 妹と割かしくだらないやり取りを交わし、菓子を作る準備に入る。まぁ準備と言っても、精々材料を取り出しテーブルに並べるだけだ。後はエプロンつけて、器具を確認する。

 

 うん、問題ないな。


「何を作るのー?」

「クッキーは作ったしなぁ、何がいいと思う?」

「ホットチョコ!」

「それはお前が今飲みたいだけだろう……少し待ってろ、3分で作る」


 ボウルにお湯を流し込み、熱を通しやすい器に入れたチョコをボウルの中に入れておく。これでしばらく放っておけば溶ける。時折、固まらないように混ぜてやればいい。


「ほらよ」

 出来上がったホットチョコをコップに入れて愛に手渡した。


「わーい♪」


 嬉しそうに笑い、こくこくとコップを傾ける姿に癒される。この時が一番幸せかもしれない。

 ……じゃあ、ストーカー止めたらいいんじゃないですか? いっそ妹に突っ込んで玉砕しなさいって。


「それでは愛くん、女性としての意見を聞かせてくれたまえ」

「んくんく。……ん? 口調が変になってるよ?」

「そこは気にしなくていい」

「そ、そう? まぁ女性なら、カロリー少なめで甘いのがいいと思うよ」

「おぉそうかそうか、ありがとう。……で、どんな菓子がいい?」

「さらっと流された!」


 だって知ってるし。お前にどれだけ菓子を作ってやったと思ってる。そのホットチョコだってカロリー低めの奴で砂糖を使わずに作った物だぞ。

 お兄ちゃんがどれだけ気を配ってると思っているんだ。


 し、思考がストーカーよりですね! 流石は進くん。分かってますよ。あなたは昔からそういう気質だったんでしょうね。


「んー? じゃあ林檎飴!」

「今は祭りじゃないんだ。それにあれはあんまり美味くない。祭りでだけ美味く感じる魔法が掛けられてるからな」

「そうだったの!?」

「嘘だ」

「なんでそんな嘘を!?」

「お前の反応が可愛いからだ」

「お、お兄ちゃんの変態!」

「知ってる」

「知ってるの!? え、変態なのは認めちゃうんだ……」


 ショック! 椅子から立ち上がり、ふらふら~とソファーに倒れこむ愛。どうやら、兄が変態だった事が衝撃的だったらしくうつ伏せに倒れこんだまま起き上がらない。


 

「どうした、妹。なんで寝転がる? チョコ飲んですぐ横になるのは止めた方がいいぞ、かなり太るからな」


 いくらカロリーを気をつけていると言っても、チョコはチョコ。結構なカロリーをもっている。


 俺の言葉にやばいと思ったのか「うっ」と苦しげに呻いて、もそもそと起き上がりソファーに座る。……どうやらこっちには戻ってこないらしい。


 俺が立つキッチンのそばにあるテーブルから、だいぶ距離のあるソファーにまで逃げるとは、そんなにショックだったのか?


「……お兄ちゃんって、デリカシーないよね」

「ぐはっ」


 拗ねた瞳でこちら上目遣いで見上げ、渾身の一撃を放ってきた! エグイ攻撃が進の体力を削る! 上目遣いのせいでダメージが底上げされた感がありますね。


 胸に突き刺さった言葉の刃。……結構、ダメージでかいわぁ。

 妹に言われたくない言葉ベスト3を放ってくるとはなぁ。あぁやばい、胸が痛い。


「す、すまんかったぁぁぁああああ」


 そりゃあ土下座の一つや二つ、喜んでします。妹に許してもらうためならば。


「ふんだ」

 私、怒ってますから! というアピールだ。


 これは本当に怒っているわけじゃない、ないのだが……対応を間違えると酷い事になる。前に間違った対応をしてしまった時、三日は相手にしてくれなかった。……や、妹と遊ぶ約束をすっぽかしてしまった俺が悪いのだが。


「い、一緒に菓子を作らないか? ほら、その方が楽しいし」

「……うむぅ。私、太ってないよね?」

「ないよ、太らないように俺も気をつけてるし。食事もカロリーの少ない奴ばっかだろ?」


 実際菓子を多く食べた日の晩飯は、かなりカロリーを減らしている。……一回、豆腐だけの食事にした事がある。もちろん、妹に付き合っても俺も豆腐オンリーの食事だ。かなりきつかった。あそこまで餓えたのは、あの時が初めてだった。


「うん。そうだよね! ようしお兄ちゃん、なんでも来いって気分だよ!」

「そうだな、早速作るか!」


 どうやら機嫌を取る事に成功したらしい。

 満面の笑みを浮かべて手伝ってあげる! とこっちにてくてく歩いてきた。うむ、可愛い子だ。

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