第12話
人生とは、諦めることだと思う。いっそ悪魔に愛されていると言われたほうがしっくり来る。なぜ、こうまで面倒なことが続いて起きるのか……。
偶然など存在せず、人が行動することによって起きる必然がすべてだと言うものもいるが、非現実的なまでの現実に対面した時、彼らはどう思うのか。
結局なにが言いたいのか――
「あの、進さんはいらっしゃいますか?」
――生徒会長様の登場です。
「……おーい、進くん。生徒会長が呼んでるぞー?」
す、すざ……すざく? ……ダメだ思いだせねぇ――じゃなくて、なぜこのタイミングで俺を呼ぶ!? せめて弁当食わせろっ。せっかくノノが走ってどっかいったのに、これじゃ昼休みが終わっちまうだろ?
どこからか椅子を調達してきた正栄がにやにやと笑っている。……こいつは役にたたねぇ、下手したら敵に回る可能性すらある。基本的に面白いこと第一主義者だからだ。
呼ばれはしたがまだ見つかってない。となると……この場を切り抜ける方法を、最初からいなかったように見せかけるしかな――
「……ねぇ……ボクを…………連れて来る意味、あるの……?」
「いいからいいからっ。あさがいるだけで、進はおとなしくなるからねー。色々とやり易いんだ♪」
まさかの、こんなタイミングで
拒否られたのがそんなにショックだったんですか…………。まさか、あささんという強力なカードをこのタイミングで使うとか、恐ろしいです。
「あら? あささんにノノさんではないですか! 何してますの? ノノさんの教室はここですわよね……あぁ、あささんを迎えに行ってたんですのね」
二人を見かけ話掛ける生徒会長。並んで歩いているのを見て、すぐに二人の状況を理解したらしい。…………これで進が逃げることは出来なくなった。というか、せっかくあさと話せる好機なのに、みすみす逃したくはない。
「おろろ? 会長さん、こんなとこで何してんのさ?」
「……先輩………………帰っていいですの……?」
「だからっマネしないでくださいましっ! しかも私に聞かないでくれません? 帰りたかったら帰ればいいじゃないですの?」
「だ~めですの! あさはですね、居てくれるだけで効果を発揮してくれる置物ですからっ!」
わお、友人を置物扱いって…………え? なんでちょびっと嬉しそうなんですかあささん。頬が少しだけ緩んでますよ? いやホントにちょっとだけですけど。
居てくれるだけでいい、という言葉が琴線に引っ掛かったのだ。あさはノノに頼られることを、なによりも嬉しく思っている。基本的にあさは口下手で無表情と、他人から嫌われる要素がてんこ盛り、それを自覚してはいるが直す気はない。たとえ、どれほど煩わしいことが起きてもだ。
色々と煩わしい問題を、ノノが引き受けてくれたり解決してくれたりしたのだ。その恩返しが出来るならば、大抵のことはするつもりでいる。
……決して、レズではない、ないのだ。百合の花を咲かせたりはしない。ノノもあさもノーマルだし。ただ恩を感じているだけなのだ。
「あ、あなたもですの? な、なんで私のマネをするんですのっ。私だって怒る時は怒るんですのよ!?」
「それはもちろん、生徒会長がおもしれーからだっ」
「ノノさんっ。いい加減にしなさいなっ」
「は~い」
不満そうに口を尖らせながら、態と伸ばした返事を返す。
「……お腹、すいた…………」
「あなたはあなたでマイペースですわね、あささん……」
「私の席にいこー。椅子は適当に持ってくるねー」
「………………おね、がい…………」
「そうですわね。続きはお弁当を食べながら話しましょう」
あさのペースに巻き込まれる形で話が纏り、とりあえずお弁当を食べながら続きをすることにしたらしい。……生徒会長は、ここに来た目的を完全に見失ってます。
「そういや、先輩は何しに来たの?」
ノノが話を切り出す。
「……あっ」
思い出して、慌てて席を立つ。
「どうしたの生徒会長?」
「私、進さんにお礼を言いに来たんですわ!」
生徒会長は叫ぶ、それも教室に響き渡る音量で。そろそろ話かけようと機を窺っていた進が硬直する。出鼻を挫かれた形だ、物凄く話しかけづらくなった。
「ほぇ? それなら私が言っといたよ?」
「いいえ、直接会ってお礼を言いたいのですわ」
キリリッとなんだか凛々しい顔になる。
「そなの? それなら、進はあそこにいる――」
「やああささん。お久しぶりです!」
「――え……?」
驚愕の表情を浮かべ固まる生徒会長――その光景をクラスメイト達が見逃さないとばかりに見ている。まるでテレビにくっつく主婦のようだ。まぁドラマやアニメみたいな出来事になってますし。
「え、あの、ぅぇ?」
「残念ながら」
彼はもう助かりません、と説明する医者のごとく重々しく告げるノノ。生徒会長は「そんなっ」と漏らし顔を俯かせる。……好意を寄せた男がストーカーだと知り、大きなショックを受けているのだろう。それが普通のはん――
「私、諦めませんわ! そもそもあささんに、これっぽっちも相手にされていないですの! いくらでも入り込める余地はありますわっ」
――のう……………………お嬢様は普通ではなかったらしい。
「――!」
ちなみに、今の言葉はもう一人の乙女にも突き刺さりました。だって悩んでいたことをまるっと解決してくれましたし。ノノさん内心で「そっか、べつに付き合ってるわけじゃないもんね……」って思っています。もう、顔真っ赤です。
クラスメイト達は砂糖を吐き出しそう、と苦いお茶を飲み干す。正栄は床を転がりながら爆笑してました。
ついでに言えば、我がヒーローは、
「あさはパン派なんだな、菓子パン一つくんねぇ? こっちのおかずも取っていいからさ」
「…………………………………………」
と話掛けているのだが、まるで無反応。進の存在そのものがなかったかのように菓子パンをもそもそと食べている。……小さいお口で、必死にもそもそやっている姿は可愛いなんてもんじゃない。小動物系です、とっても癒されます。この愛らしさはやばいです。
クラスメイト達も箸を止めてぼーっとしちゃってます。……………あさ、罪な女です。……………………動物園のリス的な扱いですけどね!
その光景を見て、二人の乙女は決意を固めました。――これは脈なしだっ、と。
まぁ、実際にないですからねぇ、今のところ。未来はどうなるかわかりませんけども、今のままであれば確実に脈はないです。哀れ進くん、そんな君を狙っている二人の猛獣――もとい乙女がいますよ?
あまり興味を持ってないみたですが、気がついたら……ぱっくんちょっ! なんて結末にならないように気をつけてくださいね?
「なぁなぁ、プチトマトいらない? なんか知り合いのおばさんが育てたっていう自家栽培ってやつらしいんだけど、甘くておいしいって結構評判なやつだぜ?」
……………………進くん、いくらなんでも女性を口説くのに食べ物って――
「……………ん、貰う…………確かに、おいしい……」
――あれ? 今なんか幻聴が聞こえてきましたね。
「「!!?」」
あ、幻聴じゃないみたいです。だって二人の乙女が羅刹の顔になってますし。まさか受け取って食べるとは思ってなかったみたいですね。や、個人的には、ストーカーから渡された食べ物を口に入れる奴がいたという事実に驚きですが……。案外食いしん坊キャラなんですかね……………………。
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