第13話
突然行われた行為、人権を完全に無視した一方的な裁判。
なぜ、唐突に始まったのかはわからない。しかし、これだけは言える。というか言いたい。
「俺はやってないっ」
「あさにプチトマトあげた!」
ばんっと机を叩き、ぐいっと身を乗り出してくる。……すらっとした細い両腕でどうやってあの果実を支えてるのか…………一部の男子生徒が前傾姿勢です。んっ世の中の不思議は置いといて、視点を戻しますと。
「あ、あのっ、私のこと覚えて……」
「え? あぁ覚えてますよ」
「そうですかっ、あの時のお礼がしたいんですの」
覚えてくれたという一言にっしゃあああ、と内心でガッツポーズを取る生徒会長。いよいよ末期――おほんっ、盲目的に恋をしているらしい。
「もらったああああああ」
「させるかっ」
弁当箱の上空でノノと進の腕が交差し、ノノの腕を見事進が掴んで見せた。
「それでですね、今度お買い物にでも一緒に……」
「ひゃっはー、確かにこれはおいしいぜ!」
「……………うん、おいしい……………………」
「あってめぇっ。それはあさにやる予定だったってのに!」
「いいじゃんいいじゃん! あさだっておいしい物は共有したいはずだよっね?」
「……そだね……………うん、ノノと一緒なのは、嬉しいかな」
「い、いつなら空いてますの? 出来れば丸一日は欲しいんですの、その、ゆっくり見て回りたいですし」
「ぐっあさがそう言うなら……え? 空いてる日、ですか?」
カオスッ。一言で言うと、ノノさんがいい具合に掻き回してますね。上手いこと進とあさが二人で話さないようにしてます。……生徒会長の空回りっぷりがやべぇですの。……というか名前ぇ。
「悪いんですけど、空いてないですね(あさのストーキングするために)」
「そ、そそ、そうです、の……」
それはもう落ち込んだ。目に見えてわかるレベルで。ここのところ、女泣かせになってきた進を快く思わない連中……というか、嫉妬に溢れたクラスメイトの一人――彼がやってきた!
「おい進、面ぁかせや」
ババーンッ
彼は帰って来た! バージョンアップを果たし、見事舞い戻ったのだ!
余計カオス展開になりましたね……。
「すまん、誰だ?」
「くそがあああああああ」
やはり泣きながら飛び出していく。……進くん、鬼ですねぇ。彼ですよ彼。…………あれ? 誰でしたっけ? なんかごちゃごちゃとしたアクセをたくさん付けてましたけど……。
「州崎くん、なんだったんだろうね? なんか、急にシルバーアクセを大量に付けて、はまったのかな?」
そうだ州崎だ! と進が思い出す。どうやらノノは覚えていたらしい。ついでに言えば、目立ちたかっただけです。ただ進に名前を覚えて欲しかっただけなのです。まぁ哀れな人ですね。
「あぁ、そういやぁ、あんた名前なんて言うの?」
「え? ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたわ」
進の言葉にはっとなる生徒会長、ようやく名前が明かされるらしい。
「私の名前は――」
「おっおいしそーなハンバーグが残ってるじゃん! ねね、ちょうだい?」
「ダメに決まってるだろう! それが弁当のメインだぞ? 食われたら俺の昼飯がなくなっちまうっ」
ノノの言葉に慌てて弁当を死守し始める。もちろん、生徒会長の言葉は聞けてない。
「う、うぅ」
「…………ボクも、欲しいな……」
「――半分でよければ」
即座の掌返し、素早い行動に周りからため息がでる。どんだけあさに惚れてんだよっと白い目に晒されている。
「わかっていたけど、あさと私で対応違いすぎない? ねえ、ねぇ?」
「ええいっぐいぐい来るなっ鬱陶しいわっ」
額を押さえつけて、こっちに近づいて来ようとするノノを無理やり押し留める。……………進くん、ぶるんぶるんっ揺れている果実にはまるで目もくれません。これは、本当にただのロリコンなんですかね? もしくはぺったん好き?
周囲の男子が、特等席で見ているはずの進に対してガン見です。めっちゃ見てます。……どれだけ羨ましがってもあの席に行くことは出来ませんからね。
「……ん、ありがと…………ノノ、半分こにしよう……」
「!」
「わーい♪」
お礼を言われたことに、感動した進はこれからも毎日弁当を作ろうと決めた。……なぜでしょうね。自分で作ると言ういい話なのに、ストーカーが惚れた女に貢ぐためって、全部を台無しにしてくれます。
「くっ、現状ですと、私が一歩劣ってますのね……なんとかして食い込めないかしら………」
……意外とぐいぐい行きますね、生徒会長。まぁ現状だと一歩どころか二、三十歩遅れてますけどね。未だ名前すら伝えられていませんし。
それぞれが食べ終わり、これからなにする? 見たいな空気になる中、一つのグループが異様な空気に包まれていた。言わずもがな、というか進くん含むあささん達のグループです。
で、なにをしているかと言いますと。
「邪魔をするなノノ、俺にはやらなければならないことがある」
キリッとカッコいい表情で言い放つ進。
「や、ダメだから。普通にダメだから」
それをばっさりと切って捨てるノノ。
「あのー、私とお買い物にいきません?」
まだ諦めてない生徒会長。頑張れ、君の努力はいつか報われるさっ……たぶん。
「なぜダメだと言うのだ!」
「いや、なんで君があさのお弁当を作るんだよっ。意味わかんないよ!」
「今日の放課後なんてどうですの? 晴れていて、出掛けるには適してると思うんですけど」
「……ボクは、おいしければ……いいや…………」
相変わらずも関心のない? いや、意外と気にはしているマイペースなあさと、なんとしてでも阻止しようとするノノ、空気を無視してデートに誘う生徒会長。
「ダメだよあさ、そこまで甘えちゃいけないの」
「……そう、なの……あさに任せる…………」
「べつにいいじゃねぇか、俺が苦労する以外にデメリットはないんだから」
「ダメに決まってるじゃない! あのね、君にそこまで甘えてしまえば、色々と面倒なことになるの。というかね、家事やその他諸々のことを考えても、甘えすぎる関係ってのは良くないの」
……複雑な乙女心だけではないのです。ノノさんは子供っぽいくせに、色々と考えているのです。意外と現実的な大人の面も持ち合わせているのです。や、好きな人――もとい気になる人がべつの女の子に弁当を作ってくるなんて許せない! という乙女心もあるのですけど。
「むっ。一理ある……」
「わかったなら諦めなさい」
なんだかノノさんが大人ですね! ノノさんの大人回ですね! たぶん、珍しいです。
「生徒会長はさっきから何言ってるの?」
「お礼にお買い物で、何かをプレゼントしようと思ってますの。一緒に行きませんか?」
「遠慮しときます」
進は断る。なぜなら、放課後はあさを追うという大事な使命があるからだ! ……ただのストーカーですよねぇ、あささんはなんで気にしないでいられるのか、不思議ですね。
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