第14話

 物事はいつだって始まり、いつだって終わる。そのサイクルに俺達はいるのだ。そう、授業は必ず終わり、放課後はやってくる。




「っし。じゃあな正栄。俺は戦いに行って来る」

「ストーキングを戦いって……救えないレベルじゃん」


 進の言葉を聞いた正栄は、というか手遅れだな。と漏らす。


「させはせぬぞ!」

「ぐおっ!? ――だからてめぇはどこから湧いて来るんだ! 毎度毎度、てめぇの席からここまで結構な距離あんぞ? どうやって移動してるんだ……」


 席を立とうとした進に、ノノの体当たりが決まる。一部の男子達がちょー羨ましそうにしている。まぁ、擬音にすれば「ばい~ん」「ぼい~ん」って感じの自己主張の強い一部分が当たりましたからね。……進的には邪魔なだけで、ちっとも嬉しくないのだが。


「ふふっ。それは秘密だよ?」

「……野坂が女の顔になってやがる。吹っ切れたのか?」


 ノノを見て、不思議そうに首を傾げる正栄。……最近、口調忘れがちになってません?


「まあいい、退け。大事な用があるんだ」

「いかせないよっ。どうせあさを追うつもりなんでしょ!」


 ズビシッと指を突きつける、探偵がよくやるポーズだ。


「そうだけど?」

「もう、色々と……終わってるじゃん」

「あさはあんまり気にしてないけど、君変態さんだよ?」


 正栄とあさが、可哀相なモノをみる哀れんだ目で進を見つめる。実際、相当に終わっている行動を取っているのだ。ぶっちゃけ警察のお世話になってもおかしくない話なのだ。


「進さん、一緒に帰りませんか?」

「……ノノ、一緒に帰ろ…………」


 あまり来て欲しくないタイミングで、二人の女生徒が同時にドアから入ってくる。


「おろ? べつにいいけど、珍しいね。あさが誘ってくるなんて」

「ん。……なんとなく?」


 不思議そうに首を傾げるあさ。なぜ迎えに来たのか、ノノでもちょっと予測できない。それだけ珍しい事態だ。

 いったいどうしたのか、と問うてもよくわからない返答しか帰ってこない。


「や、すいません。生徒会長、これから用事があるものでして……」

「わかっていますわ。だから、あささんを誘いましたわっ」

「「「なっ」」」


 三人の顔が驚愕に染まる。


「はーん。なるほどねぇ、食べ物に釣られたんだ?」


 ビクッ


「……そんなこと、ない」


 いつのもの無表情に、少しだけ動揺が映る。その少しをノノは見逃さない。


「ふむぅ。――悪くないよっ。私も賛成!」

「野坂が流れに乗るつもりじゃんっ。つか会長あざといじゃん! まさかあさをダシに使うとは、恐れ入ったじゃん」

「ふふっ。ありがとうですわ」


 ノノはこの話に肯定的らしい。生徒会長と野坂のやり取りを見て、女ってすげぇな。と正栄が漏らす。


「わかりました。俺もお供しましょう」


 当たり前だが、進に断るという選択肢はない。まさに、進があさに惚れているという事実を上手く突いた誘導だ。これに抗う手段を持ち合わせていない進には効果的としか言いようがない。


「では、さっそく参りましょう」

「おけおけ。あ、今日の晩御飯も買っていこ」

「……ん」


 あさ達が暮らす女子寮は自炊が基本だ。なんでも「女は料理が出来たほうがモテるのよ」という管理人の言葉で、自炊が当たり前になっている。まぁ、そこまで在籍している人数が多くない寮だからこそ、とも言えるが。ちなみに、ここにいる三人を含めても、全員で七人しかいない小さな寮だ。



 学校の帰り道にある繁華街、そこに五人は来ていた。


「……なんでいんの?」


 進の疑問に笑いながら、

「え、だっておもしろそーじゃん?」

 と返してきた。


「どこから行きますの?」

「んー、晩御飯の買い物は最後がいいし……あ、クレープ屋から行きましょうよ。近くに公園もあったはずですし、座りながら食べれますよ」


 ノノの提案に「行く」とあさが食いついた。クレープはあさの好物だ。それを知っている生徒会長にも異論はない。……なにせ、クレープを奢るから一緒に帰りません? と誘ったのは他ならぬ生徒会長なのだから。


「クレープじゃん? んー、まぁ行ってみればわかるじゃん」

「どうしたんだ、正栄?」

「なんでもねぇじゃん」


 含みあり気に言う正栄を軽く無視する三人。まぁ、彼女達にとって大事なのは進くんですしねぇ。や、一人はクレープですけど。発展がなさすぎて、泣けてきますね。


「歩いてどれくらいなんだ?」

「んー……十分はかからないよ」


 進の疑問にノノがしばらく考えたあと、答える。


「そっか。なぁ、クレープって持ち帰れるのか?」

「たぶん、大丈夫だけど。君って、持ち帰るほど好きなの?」

「ん。ん! 同士……!」


 なぜか目をキラキラと輝かせたあささんに見つめられる進くん。たじたじになりながらも「ちが、違うっ。妹に持って帰りてぇんだ!」と叫ぶ。

 それを聞いて残念そうに目を伏せ「……同士……じゃない」と悲しげに呟く。それを聞いた進くんは慌てて、


「い、妹が大好きなんだ!」

 と叫ぶ。

 やばい意味で聞こえなくもないですが、単に妹がクレープ好きなだけですよ? 変な意味じゃないんです。


「ん。妹さん、同士?」

「あぁ同士だ」

「ん!」

「――おおっ」


  何故か握手された。進は大喜びではしゃぎ回る。……それを面白くなそうに見ている乙女が二人。


「……うーっ。……あれ、君ってば妹いたの?」

「妹さんですの!?」


 進の新情報に驚く二人。あさは同士だということが聞けたので嬉しそうにしている。……え、無表情なのになんでわかるかって? そりゃだてにストーカーしてないのだ。わかり辛いだけで、結構感情が動いたりしているのだ。……まぁ無表情だけど。


「あれ、二人とも知らなかったんじゃん?」

「松永は知ってたの?」

「そうなんですの?」


 ギラリと燃えている瞳を前に、正栄は逃げ出したくなる。……やべぇ、こいつらの前で迂闊なことは言えねぇ。と自覚する。


「あ、あぁ。中三で結構可愛い子だよ」


 びびりすぎて口調が元に戻っている。しかし、冷汗をだらだらと流している正栄にそこまで気づく余裕はない。


「なるなる」

「そうですの……クレープをお土産に持っていけば家族から落とせるかしら……」


 まさに獲物を狙う二人の猛獣。あさと二人で前を歩いていた進がぞくりと嫌な悪寒を感じて振り返るが、二人はにこにこと笑みを浮かべている。

 どうやら、進より先に家族から攻略するつもりらしい。……それを間近で見ることになった正栄は「女性恐怖症になるかも……」と漏らしていた。








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