第38話
だいぶ、窓の外が暗くなってきた。そろそろ帰りの時間を心配しなくてはいけない……のだが、話し合いに夢中になっている彼らは気づかない。そのうち、見回りに来た教師に怒られる事でしょう。
「でだ、何か良い案はないか?」
席を立ち上がり、皆を見回して言葉を紡ぐ。
「無理じゃん。名前からして詰んでるじゃん」
ざっくりと吐き捨てる正栄。進が無言で掴みかかった。そのまま喚きながら地面に転がる2人。
「うん無理だね。怪しすぎて誰も入ってくれないよ」
「そんな事は――ほぶっ」
起き上がり否定しようとするが、正栄に邪魔される。そのまま掴み合いに発展する。互いに至近距離ではぁはぁいいながら掴みあっている2人。……流石のノノも男相手には嫉妬をしないらしい。
しばらくの間、正栄と掴みあっていた進が突然立ち上がり言った。直前まで暴れていた疲労からか、息が乱し必死に整えているのは無視した方がいいのだろうか……。たぶん、その方が話は早く終わりそうだ。
「はぁ……んっ。でだ、部員を増やすにはどうすればいいんだ? 具体的に何をすりゃあいい?」
困惑を含んだ進の問に答えられる者はいない。ここに集まった面子で、今までの人生で部活動に精を出す、なんていう全うな人材はいない。言ってしまえば、コミュ障で残念な奴らが集まっただけだ。
「そのぅ、あれじゃん……早い内に諦めた方が傷は浅いじゃん」
ぽんっ、と進の肩に優しく手を置いて諭そうとする正栄。
「正栄……てめぇ舐めてんのか?」
その態度に、進の中にあった安っぽいプライドに火が着いた。
「いいぜ、そこまで言うなら絶対に集めてやる!」
「あれー? 一応、オレ慰めたんじゃん? なんでやる気になってるっぽいじゃん?」
突如気炎を吐き始めた進を止める手段などない。
下手に関われば暴走に巻き込まれて大惨事になってしまう。そうなる前に離れようとした正栄。しかし、すでに遅かった。
「なんでやる気になったの? いや、いいかど」
「……そろそろ帰らない? もう……結構遅いよ?」
「「「えっ?」」」
あさの言葉に全員が外を見る。確かに暗い。時計をみればすでに5時を回っている。完全下校時間の6時になる前に気づけてよかった。
危なかった、と全員がほっとした。
「か、帰るか」
皆を集めた進がカバンを持ちそう言った。その言葉に反応し各自自分のカバンを持ち上げる。どうやら、帰る事に不満はないようだ。
「じゃあ、解散。解散だ、変な事せずに帰れよ」
「進に言われたくないじゃん」
「だね。いつも誰かさんストーキングしてるよね」
「……帰りに、ピザまん食べる」
正栄とノノがばっさりと進を切り捨てる。
確かに、毎日のようにあささんをストーキングしていた――している進くんですからね。そんな人に寄り道するな、なんて言われたくはないですよね。……相変わらずずれた事を言っている人は、まぁ置いといて、家族に知られたら泣かれてもおかしくない趣味ですからね。されてる本人は至って気にしてない、という不思議なあささんだから見逃されているだけで……最悪、退学になってもおかしい事ではないですよ。
「おめぇら……まぁいい。さっさと帰るぞ、あんまり遅くなると妹が心配する」
「あれ? 今日は追わないの?」
進の言葉に、ノノが不思議そうに首を傾げる。どうやら本気で言っているようだ。
「流石に、これ以上遅くなったら家事が出来なくなる」
「え、じゃあ部活とか無理じゃん」
「いや、端からあるとわかっていれば前日にこなしておく。料理なんざすべて下拵えさえ終わらせとけばいいんだし、掃除や洗濯もどうとでもなる。遅くなるって妹に予め言っておけば問題ない」
実際、妹が心配するくらいしか問題はない。お菓子作りでさえ、前日に行える事の範疇だ。何一つ問題ない。
「――お前ら、いつまで残ってんだ? 部活してるわけでもないだろう。さっさと帰れ、後30分で完全下校時間だからな」
突然教室に入ってきた教師が時刻を告げる。それぞれがのんびり準備をして話合っている間に30分を回ったらしい。
「すんません、もう帰るんで」
「そだねー。うん、帰ろっか」
「……うん」
「早く行こうじゃん」
教師に言葉を掛けて、全員が教室を出て玄関に向かう。革靴に履き替え外に出る。結構暗い。これ以上遅くなるのはまずいかもしれない。
「じゃあなぁ」
「また明日ねー」
「……ばいばい」
「じゃ」
それぞれの家へと向かうため、校門で別れる。それぞれがバラバラの帰り道だ。ノノとあさは同じだが。
帰り道を歩きながら思う。
ホント、どうやったら人数を増やせるのか、と。自分達の悪名は理解しているつもりだ。ぶっちゃけ部活名もおかしいという事は理解している。が、だからと言っていい名前がぱっと浮かぶじゃない。いっそノノにでも考えさせるか? と思いながら歩いていると、地面に転がっていた空き缶を踏んづけて転んだ。
「――い、いてぇ……」
今時、こんな事で転ぶ奴がまだいるんですねぇ。周囲の視線もどっか哀れみの視線です。
「な、なぜ?」
腹がたったので、空き缶を拾い上げゴミ箱を探した。最近は分別の厳しい世の中だ。不用意に捨てるわけにも行かない。が、全力で空き缶ゴミ箱に叩き込んでやりたい気分なのだ。だが、周囲を見回してもゴミ箱どころか自販機もない。これでは捨てられないではないか。思わず疑問の声が出てしまった。
「つか、誰が捨てたんだ? この辺に自販機もなけりゃコンビニもねぇんだけど……」
ふと不思議に思い、空き缶を確認しようと見てみれば、可愛らしい花が散りばめられたシールが貼られていた。……な、なんだろう? 子供が買ってぺたぺた貼りまくるのを見た事はあるが、あれは男の子だったし……女の子でもやるのかな。
疑問に思ったが、大した手がかりではない。強いて言えば、持ち主が見つかっても怒り難くなっただけだ。流石に子供を泣かせる趣味はない。
ため息を吐き出し、ゴミ箱を探し始める。
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