第37話


「ふふっ」


 先ほどまでの深い暗闇を内包した瞳は消え去り、楽しげに笑うノノ。生徒会長は「あんまり話を振りたくない」と考えているが……流石に無視する訳にいかない。


「な、何かしらノノさん」

「決まってるじゃないさっ。ここは私の出番でしょ? むしろ私を指名しないで誰を指名するって言うのっ!?」

「ちかっ――ホントに近いですわっ」


 ぐいぐいと来るノノ、机など一切気にせず突っ込んでくる。当然だが、机の上に載っていた書類はだばだばと落ちていく。ノノに迫られた生徒会長にも気にする余裕がない。その為、誰1人書類を拾う者がいない。



「はぁはぁ――疲れましたの……で、話を戻しますけども、誰が副部長をやるんですの?」

 なんとかノノを引き剥がし、呼吸を整えながら進に再度問う。


「やりたがってるし、ノノでいいんじゃね? 反対なやつって居るか?」


 面々を見回してみるが、どうやら誰も反対する者はいないようだ。というか、そこまで興味をもっている者がいない。


「うししっ。これで進の相方はもらった!」

「!?」

 ノノがポツリと漏らした声に、生徒会長が――がたんっと音を発てて立ち上がる。今の発言は聞き流せなかったらしい。

「や、そういう配置じゃなくね? むしろ俺が居ない時の為の保険だし。うん、少なくとも相方ではないな」

「――っ?」

 進の否定に――カッと目を見開き、カタカタと震えだした。歯をカチカチ鳴らせているし……どこぞのホラーみたいになっている。


「うはっ……これまた面倒な事態じゃん」

 どこか諦め気味に呟いた正栄。黙ってろロリコンがっ。と生徒会長に睨まれ、肩を竦め壁に寄り掛かる。だいぶ疲れているのか、欠伸をかまし目を閉じる。……ちょっちょっと正平さん!? マジで寝る気なんですかっ? 冗談きついです。


「……お菓子、食べたいな………」

 目の前にあったお菓子の山を食べ尽くしたあさが、のんびりと呟く。いつの間にか窓を見ないでお、菓子を食い尽くしていた。それで暇になったのか、ノノに向かってお菓子を要求する。

 ……無表情ロリ、怖いですね。空気を読まない子です。ある意味では心強いが、どうにも緊張感という物を壊してしまいます。


「今日は作ってないし、帰りにお菓子処にでも寄っていこうか」

「…………うん、お菓子は正義! それさえあれば、生きていける……」

 断言してしまえるあさに、ある種の感動を抱いたノノ。


「じゃあ、そういう事で副部長は私ね! よろしくっ」

「き、決まったのならいいですけど……では、部員を5人集めてから来てくださいね」

 にっこりと笑顔で進達を送り出してくれる生徒会長、ふむ……あんな感じがいい女ってところなのだろうか?








 生徒会室から出てきて早30分。

 気づけば、残っていた生徒達もあらかた部活に行ったし、教室に残って話ていた奴らもほとんどは帰ってしまったらしい。



「さて諸君、我々の前に圧倒的なまでに困難なミッションが言い渡された」

 机の上に組んだ両足を乗せる。腕は組み、指を絡め背もたれに大きく寄りかかる。


「…………あぁ、何してんじゃん?」

 今の進は正気じゃない。そうとしか言えない謎の空気を放ち、周囲を遠ざけている。正栄とて好き好んでこいつと話たいわけではない。しかし、賭けに負けてしまった。ただそれだけの理由で話かけなければいけないのだ。


「ふっ。決まってるではないか……カッコつけたいだけだっ!」

「――――」


 その叫びに、正栄くんの顎はあんぐりと開いたまま固まってしまう。それはそうだろう。いくらなんでも馬鹿すぎる。どこからか持ち出してきたグラサンを掛け、黒いブーツを机に載せているのだ。誰が見たって怪しげな奴だ。それがなんだ? 


 どこからもって来たのか謎すぎる数々のアイテムを身につけた進くんが嬉しそうにいいます。


「だってよぉ――どうせやるならカッコよくっ、がいいんじゃねぇか」

 むしろカッコよくないのなら、無理にはやりたくない。


 突如――スコーン。と間の抜けた音が教室に響く。そこまで煩い音ではなかったが、結構いい音がしたので、他のクラスメイトが居れば迷惑に感じたかもしれない。今は居ないので問題ないが。


「馬鹿じゃん……本当に馬鹿じゃん」

 ひたすら馬鹿馬鹿と繰り返される事に、むっとなるが……今はそんな事よりも重大な事がある! と話を強引に戻した。


「いいかおまえらっ。俺達の初ミッションは部員の確保だ! この際面しろそーな奴なら誰だっていい、とにかく連れて来い!」

「オレは友達がいないじゃん」

「貴様には端から期待していない」

「酷いじゃんっ!?」

 だって俺しか友達いねぇじゃん。今も結構怖がられてるし。


「知り合いに当たってみるけど……たぶん、無理だと思うよ? 名前からして胡散臭いし」

「う、胡散臭くなんてないやいっ。ただのボランティア部だしっ」

「じゃあボランティア部でよくない? その方がまだ集まると思うけど……」

「大丈夫だし! なんとかして見せるし! ボランティア部とか俺の目的が達成できないしっ」

 うっかりと口を滑らしてしまった進に「目的?」とノノに聞かれている。


「なんでもないぞ? ただちょっと、ボランティアの合間に恋愛の事を考えようとか、小さい事しか考えてないぞ?」

 上手い事誤魔化してデートとか出来ればいいなぁ。とは思ってはいるが。


「恋愛って、何するつもりなの?」

「いやまぁ、あれだ」

「なに?」

「男女の関係について考えたり、デートスポットを回ったり」

 意図的に皆で、とは言わない。できればあさと2人きりになりたいし。


「で、でーと? いいんじゃないかなっ!?」

 その言葉に1匹の乙女が釣れたが、そこまでは考えてなかった進はなんて誤魔化そう、と内心で考える。


 そりゃあ、俺が好きだってわかってる女の子の前でデートなんて言えば食いつくよなぁ……。

 どうしたものか……。


 ろくな考えが浮かばないままあさを見やれば、もくもくと肉まんを食べていた。……まだ、寒い季節ではないのだが……つかどこからもって来たの?


 驚きで、なんか色々と頭からぶっ飛んだ。

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