第5話

 人は皆、愛に生きている。そう、それに気がついていないだけで。俺こと佐藤進は気づいてしまったのだ。人は愛の奴隷であると。だからこそ、俺は彼女と話せるタイミングを窺うのだ。 


 ……なんか変なこと言い出しましたけど、ようはストーカーですよね。物陰からチラチラと見ている怪しい人になってます。進くん、ラブコメ主人公としてそれでいいんですかね?



 放課後、進は校門を窓から眺めていた。彼女は学校指定の寮住まいだ……流石に途中で切り上げてるぞ? この情報はノノからもたらされたモノだぞ? そもそも昨日は途中で見失ってしまったし、追いかけはじめたのも昨日からだし。

 

 必死に心の中で言い訳してますけど、人としてだいぶ終わってます……。いくら途中で切り上げていると言っても、途中まで追い掛けてたらただの変体です。



「……よし、行くか」

「ねぇ馬鹿なの? 君ってばお馬鹿さんなの?」


 あさを追いかけようとしたところで妨害が入る。――ノノが立ちふさがったのだ!


「……なんのマネだ? ノノよ、俺にはやらねばならんことがある」


 キリッと妙にカッコいい顔で言い切りましたね! でもいくらカッコよくてもやることはストーカーですからね。人としてゴミですからね?


「いやいやいや! 行くってどこにさっ」

「決まっているだろう? ――戦いに、さ」


 もうなんか、あれですね。口調も変わってるし男らしさが溢れてるし、変なオーラまでまとってますよ。進くん、どんだけ本気なんですか……いくらカッコよくてもストーカーはストーカーです。一方通行の愛はただただ重いだけです。……嫌われますよ? もう手遅れな気もしますけど……あささんは無表情だからわかりにくいんですよ~。なんですか、鋼の処女アイアンメイデンとでも言えばいいんですか? 無表情ロリのボクッ娘って……これで青髪だったら完璧でしたねぇ。

 

「…………………はっ。変なカッコよさに見とれちゃったじゃないの! まったく、いい? 君ってばあさのことが好きなんでしょう、なら正面から落としにいきなさい!」

「ふっ、無理な話だ」


 なんで鼻で笑ったんでしょうね? というか、なんでそんなに態度でかいんですか、進くん?


「あのね? 普通はストーカーされて喜ぶ女の子はいないんだよ?」

「彼女が普通だとでも?」

「…………ストーカーするくらいなら真正面から行きなさい!」

 

 普通じゃないですよねー。普通の女の子が恋を理解できないって理由で男を振ることはまずないでしょうし……無表情ロリですからね~、一般カテゴリーから離れてます。その証拠にノノさんが会話を流しちゃいました。


「無理な相談だ」


 キランッとそのうち妙に白い歯でも見せ付けてきそうです。いったいいつまでそのキャラで通すのでしょうか……正直、見ていてきついです。


「もう! いいよいいよ、私にだって考えがあるんだから……じゃじゃん!」

「スマホを出してどうしたんだ?」

「私のスマホには通報アプリが入っているのだ!」

「……はぁ」

「反応薄いね!? まぁいいや、これを使えば警察さんが数分の内に駆けつけてくれるという素晴らしいアプリなのだよ」


 妙に仰々しく説明しだすノノを横目に、あさを追いかけるために駆け出そうと――


「ポチッとな♪」

「……マジもん?」

「もちろん」

「わお………」


 ピーポーピーポー


「………わお」

「ふははっ。今日一日、牢屋で頭を冷やすといいのだよ! ふぁーはっはー」


 ……もし翼があったら? 校舎の窓から飛び出します。


「あばよ!」

「はーっはっは……へ?」

「とぅ」

「ホントに飛んだ!? どうしようっ――ん? ……んぅ? あぁ、なんだびっくりしたぁ」


 ちなみ、一年の教室は五階です。一年上がるたびに階層が下がっていく仕組みで、卒業前は三階になるという感じです。……余談ですが、留年組――もとい四年生は二回です。職員室が真横にありますよ。まさに地獄な一年間を過ごすことになります。


 閑話休題。


 窓から飛び出した進くんは排水パイプを伝い、するすると降りて行きました。かなり危険な行為ですが、わりと慣れている進くんにとってこの程度は障害でさえないのです。……小学校の頃から校舎を飛び出していた進くんです、もはや慣れました。危険な行為を行う、その度に親を呼ばれ大変なことになったのですが……本人的にはそんなことよりもあささんの方が大事なのです。


 それにしてもノノさん、あなたは進くんの恋を応援しているのか妨害しているのか……というか、あささんと仲がいいんですね。なにせノートの貸し借りをする程度には、隣のクラスなのに。中学が同じだったんですか?


 まぁそれはともかくとして、無事に地面へと降り立った進くんはあささんの追跡に移ります。正門とは反対のほうに降りたので、平気でしょう。……まぁネタばらしをすると、ホントに警察を呼んだのではなく、すぐ近くで待機していた正栄くんがパトカーの音をスマホでだしただけです。正門辺りから聞こえるように色々と手間を掛けたらしいですが、ただのドッキリでした!

 

 進くん、それに気づかず命を張っちゃいましたけど。ぶっちゃけ二人とも顔を青くしてましたよ? 悪戯で命を落とされていたら堪ったものじゃないですし、最悪罪悪感で登校拒否ですよ。

 まぁ、進くんは昔からやんちゃ坊主で色々と危ないことをしてきてますので、この程度は危険でもなんでもないんですけど。



「くっ見失ったか……」


 そりゃ、あれだけ遊んでれば帰っちゃいますよ。ノノさん、あぁ見えてちゃっかりと妨害はこなしていたんですよ? あれで仕事はきっちりとこなす女ですから。


「寮に向かうか? ……いや、女子寮に向かっても途中で捕まる………だが、諦めたくはないっ」


 むしろ、なぜ行こうとしているのか……蛮勇通り越してただのアホです。


「そうだ、ばれなければいいんだ!」


 …………………犯罪者の理論です。進くん、あなたホントにラブコメの主人公なんですか? 心配になってきましたよ……。




 ところ代わり場所代わり。

 着きましたは女子寮! やっべ……まさか本当に見つからないとは思わなかったんだけど……。

 アンティーク調のマンションを前に足が震える。自分でもここまで来れるとは思ってなかった。今更だが、果てしない後悔に襲われている。……いっそ自主してしまうか?


 ガサッ


 音がした瞬間に、進くんは木に登っていた。見事なまでの早業だ。そして枝の間に隠れる。……立派な変体です、というかこれでは覗き魔です。


「……あれ、誰かいらっしゃるかと思ったんですけども……気のせいかしら?」


 木の下に女子生徒がやってきた! 涼みに来たのか、木陰に座りゆっくりとした動作で本を開き始めた。うぇええええ!? まだ春だぜ? 寒くないのか? 長袖でも木陰で本を読む気候じゃねぇだろっ。

 頭の中に様々な疑問が浮かんでは消える。というか現状を打破出来る手立てがない。いやまて! しっかりと薄い布を用意しているぞ! あれなら風邪をひく心配もないな――じゃなくて! めっちゃ長居する気じゃんっ。え、どうすんの? これってどうすりゃいいの?


 息を殺しひっそりと自然に紛れる……紛れているわけだけど、心臓がいてぇ! 


 相変わらずに間が悪いですねぇ、進くん。ま、これも天罰ってやつです。しっかりと反省してくださいね。女子寮まできちゃったからこういう目に合うんですからね。ぴぷっ……あひるじゃないですよ?



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る