第6話
絶望と希望は紙一重。そう、手を伸ばせば届きそうな場所に希望があるのに、足元には絶望が広がっている。
うん? なにが希望と絶望かって? ははっ。それは――希望は女子寮にいるであろうマイエンジェルあさ様! 絶望は足元に――ってか、木の下に!
ばれたらやばいっ。や、まだ女子寮の敷地に入ってないから問題ないっちゃないのだが………普通に考えて、女子寮近くの木に潜んでいる男をどう思う?
あぁ答えはわかっているから言わなくてもいいです。
しかもちょろっと休憩しようかな的な気分なのか、女子寮住まいと思われる女の子がよりにもよってこっち来ちゃったもんだから、慌てて木の上に隠れちまった……――うん? あれ、別に隠れる必要なかったんじゃね? え、動揺しすぎてやらかした? そのまま帰ればよかっただけじゃね? むしろ状況悪化させちまった?
(――――すっごい気持ち良さそうに本を読んでるんだけど! なにこの娘っ。すげぇいい娘っぽい!! ざ、罪悪感で胸が……)
ノゥ! 進くんの発想がどんどん危ない人になってる気がします……。
ま、それは横に置いといて、この状況をどう打破するんでしょうかね? 気になるところです。
それにしても、今だに罪悪感とかあったんですね! そっちに驚いちゃいます。
「~~♪」
パラ、パラ。とページが捲られる音と、風が吹く音が辺りを包む。
確かにこの辺は人の気配もなく静かで、一人で本を読むのに適してると言えるだろう。
しかし、こんな人の気配のない場所に一人でいるのは危ないだろう? どこに不審者がいるのか、わからない世の中だぞ。注※)あなたのことです。
鼻歌を口ずさみながら読書に夢中になる少女、そこまで面白い本なのか?
いったい何を読んでいるのかちょびっとだけ気になります。
角度的に確認するのはそう難しくありません。ならばやるしかない! と妙な使命感に燃え、本のタイトルを心の中で読み上げる。
(……あ、お石、も、のが、たり? 青石物語?)
めちゃくちゃファンタジーでした。というかなにそれ? 聞いたこともない名前に興味が惹かれる。や、なんでわかるかって? だって冊子に魔法使いっぽい人とドラゴンが描かれていましたし。
これでファンタジーじゃないと言われたら驚愕モノです。
瞳をキラキラと輝かせながらページを捲る姿は、冒険に憧れる小学生のようでした。……純真というべきか、単に冒険譚が好きなのか。
まぁどっちでもいいのだがな! というかエンジェル《あさ》の情報以外はあんまりいらねぇ。
進くん、ゲスですね! 女子寮付近の木に隠れてるしやってることはストーカーだしでいいとこなしですよ? そろそろ主人公として活躍してくれません?
「………先輩? ……なに、してるの?」
ビクンッ
「うん? あぁ、あささんですの……本を読んでいたのですわ」
「……ふーん」
「相変わらず、興味のなさそうな顔してますわねぇ」
「…………そんなことないよ、?」
「嘘おっしゃいな。まったく……あら? そう言えばあなた、私の言葉の途中に告白されてましたわね……あれからどうなったのかしら? 私の晴れ舞台を壊したんですから、それくらい教えてくれてもいいでしょう?」
う、うぉ……これは俗に言う聞いてはいけない系の話ではないだろうか? いや盗み聴きしていい内容なんて一つもないけど!
唐突に現れたあさと女生徒の会話の内容に冷汗が止まらない。
これでばれたら本格的に終わるかもしれない……。……………………ん、途中で? 晴れ舞台…………あれ、なんか見覚えが………………まぁ思い出せないし、いいや。
す、進くん……もちっと思いだす努力をしましょうよ、ほら、彼女ですよ彼女。思い出せません? 名前はわからないですけど、生徒会長さんですよ。
「……振った、恋とかありえないし…………」
「それは知ってますわ。あれだけ大事になったんですもの。むしろ、学校で知らない者のほうが少ないですわよ」
そ、そこまで広がっちゃいました?
「あそこまでど派手なパフォーマンスをする馬鹿がいるとは思ってなかったですわ。ある意味感動しましたもの。それで、あのあと何か進展はあったのかしら?」
「…………ない、と、思う。あ…………でも、ストーカーされてる」
「あら? ……え、ホントにですの?」
「………………ですの」
「あなた、人の語尾を気に入ってらっしゃらない? じゃなくて! ど、どういうことですの! ストーカーって立派な変質者じゃないですか!」
あんまりな言いように、進くんのメンタルはボロボロです。
そのうち、壊れて廃棄処分にでもされそうです。………ノノさん辺りが危機として処分してくれますよ。笑顔で。
「…………昨日は、追いかけられた、けど……ノノちゃんが追い払って、くれた………………今日、仲良くなってたのは、不思議だった、けど……」
ストーカーを撃退してくれた友達が、なぜかストーカーと仲良くなってたら色々と驚愕モノですよね。
興味なさそうにしてた無表情ロリのくせに、しっかり見てたんですね。
あれですか?
ストーカーの事はどうでもいいけど、友達に関わられるのは嫌だと? 意外と粘着質なんですねぇ。
「そうなの…………不思議なことも起きるものですわね―――暴走娘のやることですから、全然不思議じゃないですわ……」
彼女の中に、自然と納得が生まれる。
なにせ彼女事だ。きっと面白いとか楽しそうだからとかに決まっている。
……ところであなた? 誰ですか? 誰も名前を言わないってどう言うことでしょう、秘匿? 秘匿されてるんですか? ってか、今、ノノさんを暴走娘ってすご~く小さい声で言いませんでしたか?
上級生にも暴走娘って広がってるんですねぇ。驚きです。
「………先輩、ノノちゃん知らない? …………まだ、帰って来ない……」
「――もしやストーカーの餌食になったのでわっ!」
「!」
ちょっとまてや無表情ロリ! もとい、あささん!
何を驚いているんですか、あなたさっき言ってたじゃないですか。
ストーカ――おほんっ、進くんを邪魔してるって! 仕掛けた物の回収をしているから遅いだけですよ。そもそも進くんはあなた達の真上にいますから!
…………これはこれでホラーじゃなかろうか? や、ホントになんであなたが主人公なんでしょうねぇ。
「……電話、してみる………………」
「………………」
「…………」
『あ~い、どったの?』
「「!」」
『もしも~し? あれ、あさ? どうしたの?』
「…………う、うん。……今、どこ?」
よほど繋がったことが意外だったのか、二人して一瞬言葉につまりましたよ。…………そこまで進くんは警戒されてるんですね……ヒロインに警戒されるラブコメ主人公……それで、いいでしょうか、進くん…………。
『学校だよ! やあ、進で遊んでたんだけど……逃げられちゃってねぇ。まさかあんな手段で逃げるとは思わなかったよ、ん? 何してたかって? あんね、松永おど――手伝ってもらってさ、パトカー音拾ってきてもらったり。松永が鳴らしたパトカーの音が妙にリアルで、そしたら進くん五階から飛び降りるんだもん。心臓止まるかと思ったよ! なんかやけに手馴れてたし、あれは常習犯だね!』
正栄くん脅したって、何をしたんですかノノさん……。というか正栄くんが立派なぱしりになってますよ。
今日、初めて話したはずなのに。……ノノさん、ちょーこぇーです。
「「「!?」」」
ほら、三人とも固まっちゃったじゃないですか。あささんが生徒会長にも聞こえるよう音量を上げてモードを変更したから、木の上にいる進くんにまで声が届いちゃったんですね。……個人的には無表情ロリが、口を小さくぱかって開いちゃってるのが可愛いです。あなたでも驚くことがあるんですねぇ、あささん。あ、進くんがそんなあささんを見て、悶えてますよ? あんまり動かないようにしているぶん、物凄くきもいですけど……。
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