第41話


 ようやく家に辿り着いた俺を待っていたのは、

「遅いっ」

 鬼のような顔になった妹だった。


 弁解はさせてもらえず、長々と説教を受け、油断したところに女装をさせられそうになった。

 なんとか回避したが……やはり、シュークリームだけでは足りなかったのか。

 怒った顔でムシャムシャ食べて、

「おいしかった! ありがとうっ。次からはもう少し説明してよね!」

 と言い切り自室に戻ってしまった。


 その後は一切話をしてくれず、地味に悲しかった。









「ていうことがあったんだけど、誰の妹だと思う?」

「誰でもいいじゃん」


 興味なさ気にぼそりと呟く、正栄。


 酷いじゃないか!

 シスコンが妹に無視されるってことはなぁ――かなりきついんだぞ!



「おはよー」

「おうノノか、聞いてくれよノノ! 正栄のやろうがひでぇんだよ」


 教室に入ってきたノノに話を振る。

 え、そこでそいつに振るの? という顔をした正栄を無視して話を進める。


「なになに? なにかあったん?」

「それがよぉ――――」


 正栄にも話した昨日の出来事を伝える。


「あぁ、このみちゃんかぁ……そういや昨日来たねぇ」

「そこはどうでもいいんだ。問題なのは妹に無視されたことだ」

「え、そっち?」


 驚いた顔で正栄を見やる。それにたいして静かに首を横に振る。進のシスコンは重度なものだ。治ることはないだろう。


「で、今朝も目すら合わせてくれなかった……どうすれば許してくれると思う?」

「話がずれてるじゃん。誰の妹か? じゃなくなってるじゃん」

「ふっ、些細な問題だ。このみが誰の妹でも、そこまで会うことはないだろう。――それよりも、難題がある」


 重々しい顔つきで告げる進を、ノノと正栄の2人はどうしようもない馬鹿を見つめる瞳で、進を見つめています。


「なんじゃん?」

「聞きたくないけど、聞くよ」


 どこか投げやりな正栄と、何かの覚悟を決めたノノ。2人とも、どんな話題が出てくるのか、ある程度予測はできている。


「いも――――イタッ」

「ふんっ」


 正栄に頭を叩かれ、言葉の途中で止まってしまう。


「まぁわかってたけどね」

「馬鹿じゃん。自分でなんとかしろじゃん」

「お前だって姉と――いたああっ」


 ボギッていった! 今腕の関節やられたって!?


「おお、凄いね」

「感心してないで止めてっ!? 痛いんだけどっ? ちょっと洒落にならないくらい痛いぃぃいいいい!?」


 感心しているノノを横に、めしめしと間接からはしてはいけない音が響き続ける。額に脂汗を浮かべて必死に抵抗するが、虚しい結果に終わる。

 対人経験が違いすぎる正栄の拘束を解くことができず、限界まで腕を曲げられる。



「よ、容赦ねぇ……」

「人の家庭事情を勝手に話そうとするからじゃん」

「で、結局は妹と仲直りするのに協力しろ、ってことでいいの?」

「あぁいや、単に門限決められた」


 朝起きたら、テーブルにでかでかと「門限7時」と書かれた紙が置いてあった。昨日家に帰れたのは9時だからなぁ。晩飯を食わないで待っててくれたっぽいし。うん、可愛いわぁ。



「……で?」


 口を開いたのはノノだった。

 意外だったのだろう。正栄は未だ硬直している。


「あんまり遅くまで活動できなくなった」

「死ねぇぇぇええええ」

「え、なんで殴りかかって――へぶっ」

「チッ。どんな展開なの。家に帰るのが遅れて門限定められるって」


 鼻を殴られて、あまりの痛みにうめきながら地面で暴れてる進を、教室にいるすべての生徒が無視する。



「おーい、チャイム鳴ったぞー? ……またお前か」


 教師の呆れたような瞳に、

「違います!」

 真っ赤になった鼻を押さえながら反論する。


「お前以外は皆席に着いてるのにか?」

「へ?」


 慌てて立ち上がり、教室内を見渡せば――進以外、全員が席に着いていた。先ほどまでふざけていた連中も座っているし、別クラスの奴はいなくなっていた。それどころか正栄とノノはきっちりと授業の準備までしている。


「い、いつのまに……」

「いいから席に着け、この馬鹿者」

「あてっ」


 出席名簿でポコと叩かれる。








 最後のチャイムが鳴る。

 すべての授業が終わる開放感。


 全力で背を伸ばした。


 「うおっ」


 あまりにもやりすぎたのか、椅子が後ろに倒れた。大きな音をたてて真後ろに倒れた進は、いい笑い者だ。……実際に笑っているのは正栄とノノだけだったが。


「なにしてるじゃん」

「そうそう、なんでいきなり倒れてるの?」

「う、うるせぇ」


 正栄の手を取り立ち上がらせてもらう。

 その際にあがった歓喜の悲鳴に背筋が凍った。

 あの類は気にしなければ、なにも問題はない。……いやまぁ、あれですよ。だいぶ世の中に受け入られましたからねぇ。


「でぇ? 門限のついちゃった進はどうするのかな?」

「普通に活動するな。門限ついたっても、6時に解散すりゃあ平気だしな」

「あぁオレ、今日は活動できないじゃん」

「そうなのか?」

「やめい、人を進の金魚のフンみたいに見るんじゃない」

「あぁ自覚はあったんだ……」


 まぁずっと一緒にいますし、基本的に進が積極的に問題を起こしますから、見ようによっては…………どうみても進くんの金魚のフンでした。


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壊れたアイの物語 くると @kurut

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