第9話

  なにか行動を起こせば、それに見合ったというモノが発生する。例えば、今回のことで起きた代償は簡単なモノだった。ただの停学だ、それも一週間ほどの短いモノだ。

 こんな時期に問題を起こしたわりには、随分と軽い処罰だ。どうせ教室内で浮くだけで、大した問題は無い。っつか、誰かが助命してくれたのか……? もし、してくれたとするのならあの女子生徒だろう。金髪のお嬢様っぽい女の子を思い出す。……あのあと――ぶっ倒れて、起きてみたら病院だしなんか担任は来るしで色々と大変だった。

 

 ……ちなみに、体の傷は全身の打撲と擦り傷、ただし出血が多く色々とまずい状況だったらしい。電話してくれた女の子に感謝しなさい。と言われたが……相変わらずに名前しらねぇんだけど…………。あ、倒れた理由も血の流しすぎだそうです。擦り傷っても、結構酷い怪我らしくて、わりと本気で命の危機だった……みたいだ。


 両親には「女を守るために戦ったのさ」ってカッコつけたら爆笑された……キャラじゃないのはわかっている。かと言って、あの状況で見捨てたら完全に後悔してたよ? そんな後味わりぃのは流石に嫌だ。だからこそ、体を張ったのだから。

 



 まぁ、浮くっても……元々、教室で話してる奴らは二人だけだしなー。青空を眺めながらぽつりと漏らす。

 なんだか疲れた。この五日だけで、どれだけ濃い日々を送ったか……正直、考えたくもない。や、あさに出会えた奇跡にはどれだけ感謝してもしたりないが…………それ以外の出来事が重い。めちゃくちゃ腹に溜まる。


 


(正栄の奴にお礼しなきゃなあ)


 今回、喧嘩で勝てたのは彼のおかげと言っても過言ではない。正栄は中学の頃荒れていた……という表現は正しくない、そう――両親への怒りをぶつけられる相手を求めていたのだ。深夜に街を徘徊し、出会った奴と殴りあう、そんな日々を送っていたらしい。その辺はかなり誤魔化して伝えられたから詳しくはないが。


 で、なんで彼のおかげかと言うと、

「いいじゃん? 喧嘩においては相手に呑まれないことがもっとも大事じゃん。つか、第一に度胸、第二にやせ我慢。この二つがあれば問題ないじゃんよ」

 と貫禄たっぷりに教えてくれたのだ。……あまりにもカッコよさが滲んでいたから思わず水をぶっ掛けてしまったがな。

 

 スマホを取り出し、操作していく。ラインは使わない。あれはあんまり好きじゃないのだ。……というか、いちいち音がうぜぇ。

 それはともかく。


(お前の、おかげで助かった、っと)


 送信ボタンを押し、送信完了表記を確認する。……あぁ、空が青い。


 …………す、進くんがまるで、公園でゲートボールをしていて疲れてベンチに座り込んでいるお爺さんのような顔になってます!? というか生気が抜けてますよ!! このままぽっくり逝かないですよねっ? 公園のベンチで空を見つめるとかどうしたんですか? 最近らしくねーですよ? あなた、ただのストーカーだって覚えてます?


 帰るか……。


 ちょっホントにどうしたの進くんっ? ……今思うと、そんな体中にぐるぐると包帯を巻いた姿でよく外に出れましたね。周りの人達がすっごく怯えてますけど……。両腕、首、額に巻いてますし、見えてる場所で包帯を巻いてないのは目、口、鼻だけですよ。わりと重症ですよね? よく表に出歩けますね……。


 実際には表皮が破れているだけで、そこまでの傷はない。しかし、感染症やら出血やらと諸々のことを考えて強制的に巻かれました。


 ピロン♪


「ん? ……え?」


 正栄から送られてきたメールを開くと、写真が添付されていただけで、文字はなかった。

 写真には、正栄とノノ……そして生徒会長――今だ名称不明な人だ。あさと仲よく話してたし、あさノノと同じ寮っぽいし、会う機会は多いだろう。……でもなんで? 正栄のスマホから送ってくるんだ? ……謎だ。


 ……………それにしても、力関係がわかる写真だなあ。真ん中でピースしているノノ、その隣に生徒会長が恥ずかしそうに、こじんまりと映っている。……正栄は……端っこにちょびっと映ってる。喧嘩に明け暮れていた頃と比べたら、かなりおとなしくなったのだろう……むしろ、牙を抜かれすぎじゃねぇの?


 その辺は複雑な乙女心ですよ、進くん。もう少し女心を学びなさいな。じゃないとあささんとくっつくのは無理ですよ? 生徒会長さんも必死だったんですよ。救急車を呼んで進くんを病院に連れて行きましたし、もちろん付き添いで。あと、正栄くんが喧嘩をしなくなったのには君も絡んでますからね? ぶっちゃけ牙を抜いたの、あなたですし。

 

 ま、それはそれとして。

 

 担任の緑坂先生が来たことでクラスを確認し、ノノと一緒のクラスだと、すぐに看破しました。その後、もう遅いからと無理やり返され――本人的には目が覚めるまで一緒にいたかったみたいですが――て、どうすればまた会えるか……考えた結果としてノノに相談を持ちかけたのだ。


 その結果がこの写真だったりします。……ただし、名前は相変わらずに載ってませんけど。……なぜだろう、と頭を悩ませてる進くんには一生わからないかもしれませんね。


 ピロン♪


 再度、着信音が鳴る。このタイミングなら、彼女しかいませんね。乙女している彼女です。なにせ新しいライバルの登場ですからね、内心穏やかじゃないでしょう。


『あさに報告していい?』


 書かれていたのは一文だった。……というかなにを報告するんだ? いまいち理解出来ない内容に、首を傾げる進。


 わぉ! ぶっこんで来ましたねっ。いきなり最終手段ですか? 進くんは気づいてないみたいですが、それをやっちゃうのは面白そうだから? もしくは乙女心の暴走ですか? 

 

 ライバルの登場がよほど驚きだったのでしょうね。それも生徒会長が目からラブ光線放っちゃうくらいハートを撒き散らしてますし、一目で気づけたでしょう。生徒会長、浮かれまくってますし。もうね、あれです。ふわっふわっです。雲みたいに飛んでっちゃいそうなくらいふわふわしてますよ。


 それを目の当たりにしたノノさんの乙女心に火でもついたんですかねー? まさかのところで三角関係ですよ! ……未だに、そう未だにメインヒロインが鉄の処女状態ですけども!!


どうするんです、進くん? いっそ別の女の子に惚れちゃいます? ……まぁ無理でしょうけど。だって進くん、あささん以外を見てないですし。

 きっとが寄せる好意に気づいてませんよ? べつに鈍くないくせに、今はあささんに夢中ですから、仕方ない気もしますけどねぇ……時には周りを見ることも大切ですよ?


「?」


 いいけど、なにを? と当たり障りの無いメールを返す。……報告っても、彼女は俺に興味は持たないだろう? いったいなにをするつもりなのか……。


 そうですよね! あささんは進くんに一片の興味もないでしょうねっ。あささんの周りは落としてるのにね! ……あれ? 将を射んとすればまずは馬からって奴ですか? 意外と策士――ないですね! 進くんに限ってそんなことはないでしょうとも。


 今だって、生徒会長の名前を聞いてませんよ? 彼女にあんまり興味持ってないですよね?


『今日の放課後、遊びに行かない?』


 おお! 甘酸っぱさが滲み出てます! やばいくらいヒロインしてます!! なんですかノノさん、明確な好意を寄せるライバル登場に焦ったんですか!?


「無理。俺には使命がある、と」


 ……ぉぉ。こっちは救いようのねぇアホだ。あの暴走娘からのお誘いですよ? たぶん、本人は今頃、ちょー真っ赤ですよ? 恥ずかしさのあまり、廊下を爆走するくらいには恥ずかしがってますよ? ……それに比べて…………はぁ……こっちはストーカーですか…………………。


 ノノさん、恥ずかしかった分、修羅になってますよ? しっかし、小学生並みの価値観を持っている暴走娘が、随分と乙女チックですねぇ。や、小学生並みだから乙女チックなのか……悩ましいところです。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る