第10話
現実はいつだって理不尽だ。どんなに足掻いても、どうにもならないことだってあるのだ。そう、このわけのわからない状況を、どうにかする手立てが俺にはない。
停学明けの学校、俺は周りから見られていた。……どうやら、俺が喧嘩したことが大袈裟に広まっているらしい。
なんでも、俺が一人で十人を相手に大立ち回りし、相手を殴り殺したとか。告白しても振られた哀れな奴とか。振った女を追いかけまわす最低のストーカーだとか。女を犯そうとして他の男たちに止められたとか。……最後のは逆だよね? むしろ守った側のはずなんだけど? や、なんだか本当のことが混じってたりするけど、概ね悪評……だと思う。
まあいい。とにかく、なんだか俺の悪評が学校中に広がっているらしい。……や、物凄くどうでもいいのだが。それを向かいの席でカップ麺を啜ってる男――正栄が教えてくれた。
「……あぁ? べつにどうでもいいだろ、俺に直接的な害はねぇんだろ? だったらほっときゃいい」
実際、気にするほどではない。なにか行動を起こしてきた場合は報復をするが、遠くから囀ってる分には興味が無い。正直、耳に入ってはいても、脳に記憶されない。だいたい、そんな奴らにかまけてる暇があるなら、さっさとあさのとこへ行く。
「進はなんでそんなに落ち着いてるじゃん? 怖くねぇんじゃん?」
「そうだなー、べつに怖くは無いな。周りからはぶられても、大した興味はねぇし……やる気がでねぇし、ほっとけゃあいい」
「大物じゃん」
呆れたような感心したような複雑な目で進を見つめる。
そして、進――その背後からノノが襲来する。
「――うおっ」
「おっはよう! 久しぶりだねっ。元気してた?」
背中に乗ってくるノノ、思いっきり前につんのめる。……あぶっ危ねぇ! あと少しで椅子から落ちるところだったわっ。
「おぉっ。羨ましいじゃん、進。どうだい、柔らかいじゃん?」
「重いし邪魔だわっ。退け!」
「きゃんっ」
……正栄くん、男の子ですね。まぁ、ノノさん中身はあれですけど、外見は巨乳で可愛いですからねぇ。
全体的にぷにっとしてそうな見た目ですし。べつに太って見えないのに、肉つきがいいんですよ。普通の男の子はまず反応しちゃいます。……ぺったんこのあささんに惚れた進くんだって胸、好きですよ? ただ、あささん以外の女に興味ないだけで。
「おまっ……すげぇな……」
ほら、正栄くんが賞賛の目で見てますよ。進くんがあっさりとノノさんを引っ剥がしたから。
「もうっ。女の子を扱うならもっと優しくしてよね?」
「あ? やだよ。俺はあさ以外、女扱いする気がねぇんだ」
「おおっ。この男、ストーカーのくせにちょー一途じゃん! ある意味凄いじゃんっ」
言い切りましたね、進くん。実際、ノノさん相手にまるで興奮してませんし、本当にあささん一筋なんでしょう。
「むぅ……ね、停学中なにしてたの?」
…………………なんだか、ノノさんの口調が柔らかくなってません? や、より乙女チックになったと言いますか……自分の中で恋が目覚めたりでもしたのでしょうか? 生徒会長の登場で。
「なにって言われてもな……正栄と遊びに行ったり、正栄の家に泊まりに行ったり、正栄が俺の家に泊まりに来たり…………なんか、ずっと正栄といた気がするな」
「おう。なんだかんだで暇じゃん? ちょうど帰りの駅で通るし、遊びに行くのにちょうどいいんじゃん」
……………………………………こいつら…………………仲よすぎじゃ、ないですかね? …………………ちょっとひきます。
べつにホモじゃないんですよ? あんまり友達のいない連中ってだけなんです! 正栄くんはぐれててろくに友達いませんし、元々変人で通ってる進くんにも友達はいませんでしたし…………………ぶっちゃけ、初めての友達に二人とも舞い上がってるだけです。
「…………………」
ノノさん、絶句です。男同士で? と言う視線がやばいです。ついでに言えば、今の話を聞いた一部の女子が騒いでますね。どういう連中かは言いませんけど。
「どしたん?」
無言のノノに声を掛ける進。
「いいないいなっ。私も呼んでよねっ。ちょー楽しそー」
「は?」
「え?」
………………………どうやら、絶句してたのは自分を誘ってもらえなかったからみたいです。まぁノノさん、基本はお子ちゃまですし。元気が取りえの小学生――ただし巨乳ってだけなんですよ。
どこぞの無表情ロリとは違って、背丈は普通なんですけどね。むしろ、普通だからこそでかさが目立ってるですけども。
「…………………呼ぶってマジで?」
「…………………や、流石に気まずいじゃん。それに親が許さないんじゃん?」
机の下に潜り、互いに顔を近づけひそひそ話。一部の女子達がさらに盛り上がります。なんせ燃料の投下ですからねぇ。や、この場合は、燃えてる火事現場にだばだばと爆弾を投げ込んでるみたいなモンです。やべーです。もはや取り返しのつかないレベルで話が加速してますよ、あれ。
「なに話てんの? わーたーしーもーまーぜーろー!」
「うげっ、制服引っ張るんじゃ――」
ゴンッと鈍い音がなり、進は後頭部を押さえて地面に転がる。
「だ、大丈夫かっ?」
「ごめっごめん…………………」
正栄がすぐに立ち上がり、進の状態を確認する…………………加速しますね……………。
ノノさんがしゅんっと小さくなっちゃってます。結構珍しい光景です。クラスメイト達もしゅんっとなっているノノさんに見惚れちゃってますよ。…………………暴走娘のぽんこつ――もとい小学生……でもなくて、わりと元気娘なんで、基本的に落ち込むことがないです。そんな子が落ち込んでるギャップと素の良さが合わさって劇的なまでの可愛さです。教室にいる生徒が男子女子区別なく、全員見惚れてますから、よほど効果的だったのでしょう。……本人はまったく意図してませんけど。…………………あと、二人だけ気づきもしてなかったりします。
「でっけーコブになってんじゃん」
「本気でいてぇんだけど……柔らかくはなってねぇよな?」
「大丈夫そうじゃん。でけーけど、硬いじゃん」
…………………ノノさん以外、誰も聞いてなかったのが幸いでしたね。一部の女子達も、今はノノさんに見惚れてますし。や、コブの話ですよ? やだなーもー当たり前じゃないですかー。いったい何の話だと思ったんですかー?
…………………話の内容がわからない綺麗な人はそのままでいてください。決して両親に聞いちゃダメですよ? 聞いちゃうと、あなたの将来がとっても心配されちょいますから。
「そうか、ふぅ。ノノてめぇっ。なにすんだよ!」
痛さが収まってくると、次第に怒りへと変わる。その怒りのままにノノに怒鳴りつける…………………あなた、ラブコメ主人公がそれでいいの? あ、なんか前にも言った気がしますね。
「「「「「「「「……………………………………」」」」」」」」
場が痛いまでの静寂に包まれる。と言うか、進に対して「お前、こんな可愛い状態のノノになに言ってんの?」って感じになっている。つまり、凄い白けた目で進が見られているのだ。
「ごめん…………………」
「な、なんだこれ? お、俺が悪者なのか?」
「なんか知らん間におもしれー空気になってんじゃん」
ってか、進くん。あなた、この前「泣いてる女を見捨てられるかっ」みたいなこと、言ってませんでしたっけ? ノノさん相手だから特別に気安いのか……それとも単にノノさんを女扱いしてないのか……後者っぽいですね。
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