第34話

 



「でぇ? 結局何があったんじゃん?」

 正栄の問いかけに、気分を落としながら答える。


「いや、昨日ぶっ倒れる直前だったんだけどさ、妹に危ないから帰れってタクシーで家に送られた」

「…………ホントに、何してんじゃん」

 正栄が呆れたため息を吐き出し、どうしようもないモノを見るでこっちを見てくる。その後、チャイムが鳴るまでなにっすかなぁ、と呟く。


 その時――


「おっはよー♪」

 元気な挨拶――ノノの声が聞こえてきた。……へ、平常心、平常心。……ここまで動揺しているとすでに平常心ではない気がする。

 内心でため息を吐き出す。

 はぁ、いつも通りとか覚えてねぇ。なに、俺ってばどうやってノノと話してたっけ? ダメだぁっ思い出せないぃ。

 


「何してるの?」

 ちょこちょこと近づいてくる。そのまま俺に話しかけてきた――ピシリッと音を発て固まってしまう。


「あ、進。オレ、飲み物買ってくるじゃん」

 席を立ち、この場から逃げようとする正栄。

「まぁまて正栄。俺も買いたい物があったんだ」

「え、なになに? 私もいくよっ」

 すぐさま反応してくるノノ……あなたから逃げたいのだと思いますよ?


「進、今日は奢ってやるじゃん。だからここに居ろ」

 目がマジだった。もし付いてくるようならぶっ殺すぞ? と、目が本気で俺を睨み付けていた。口調すら元に戻っている。――しかし、ここで引いてしまえば俺だってきつい事になる。ならば犠牲が欲しい。俺の被害を減らす為の盾が欲しい。



「いやいや、そんな悪いって。それに俺もちょっと買いに行きたい気分だったんだ」


 ………。


 ―――ゴスゴスッ―――ガッガッ―――


「いてぇだろ!?」

「先に殴ったのはお前じゃねぇかっ!?」

 

 引っ掴み合いの殴り合い。しまにゃあ至近距離での蹴り合いに発展する。近すぎて大した痛みではない。しかし、かなりの近距離での掴み合いだ。あえては言わないが……きっと誰かしら喜んでいる。



「ねえ、買いに行かないの? そろそろチャイム鳴っちゃうけど……」

 どうするの? と眉を吊り上げ、不満そうに聞いてくる。しかし馬鹿二人はその事に気づかず今だ取っ組み合っている。



 ――――――痺れを切らしたノノが正栄に近づいていき蹴飛ばした―――ドパンッ―――馬鹿みたいな音がした。音に負けず、結構な威力があったようで進を巻き込みゴロゴロと転がっていく。……お、恐ろしい威力ですね。ノノさん、何かしてたんでしょうか?



「ほらっ。早く買いに行くよ! チャイムが鳴る前には戻って来なきゃダメでしょ」

 …………い、言ってる事は正論なのですが………蹴られた尻を押さえて痛みにのたうち回る正栄くんに、頭突きをもろにくらった形の進くんが頭を押さえて蹲っていますよ? これじゃあしばらくは動けないと思うのですが……。


「早くしなさいっ!」

「「はいっ」」

 ノノの命令に―――シャキンッ。と直立になる二人。よほど怖いらしい。


 問答無用とばかりに怒鳴りつけるノノ。まぁ馬鹿してた二人ですし、無視された形のノノさんが怒るのは当たり前なんですけど……鬼ですね、ノノさん。

 

 










「そうだっ。部活を創ろうっ!」


 時は昼。

 午前授業がすべて終わり、教室に残った者達が弁当を広げている横で―――進が吠えた。


 教室中の視線を集めているが、そんなモノは些細な問題だ。とばかりに無視して正栄に話しかけている。



「やっぱり高校生ったら部活だと思うんだっ」

「お前……前に妹の事があるから無理って言ってなかったじゃん? それに安形さんのストーキングもしてるんじゃん? 時間的に無理じゃん」


 正栄の正論―――あれ、正論だよね? 進くんの行動がおかしいだけで、正栄くんが言ってるのは正論だよね? ……まぁ進くんの行動をあっさり受け入れてるので、普通ではないですけど。



「馬鹿めっ。俺は気づいたのだよ、あさを部活に引き入れてしまえばいいのでは? という事になっ!」

「思考がやばいじゃん。末期だったのに―――進行したじゃん」

 

 そうですね。普通に考えて、彼女が入ってる部活に入るならまだしも、新しい部活を創ってそこに入ってもらうって……いったいどんな思考回路から生み出されたのでしょうか。



「まぁ聞けって。何も変な部活を創ろうって訳じゃねぇんだ」

「ふーん、まぁ聞いてやるじゃん」

 聞くだけならいいか、と話を聞く正栄。


「その名も―――愛の出会い!!」

「却下じゃん」


 馬鹿みたいな言葉が聞こえてきて即座に否定する。なんだその怪しげな名前は。出会い系サイトかっての。それも金を根こそぎ奪ってからポイ捨てする類の奴だ。


「な、なぜだ?」

 心底不思議そうにしている進に、正栄の方が驚きだ。


 むしろその名前でどうやって申請書を通すつもりだったのか。どう頑張っても無理だろう。そして部員はどうやって集めるつもりなのか。少なくとも自分は絶対入らない、と正栄は決めた。



「やっぱり、部員が集まらないからだと思うよ」

 ひょこっと現れたノノさん。あささんは放って置いていいですか? いつも一緒に食べてるみたいですけど……。


「ノノか、昨日は悪かった。今度埋め合わせする…………ところで―――お前に一つ、頼みがある」

 進が、どこからか出てきたノノに向けて重々しく口を開く。


「あぁ気にしなくていいよ。愛ちゃん良い子だし。あさとすんごい仲良くなって、驚いちゃったよ。―――で、頼みってなになに? お礼と態度次第では引き受けるよ」

 ようやく進とまともな会話ができて嬉しげなノノ。……恋する乙女って一直線ですね。



「あさを部活に誘って―――


 ―――ペキュッ


 そんな音が右腕から聞こえてきた。あまりの衝撃に腕がもげるかと思った。何今の? 痛みなんて通り越して―――一瞬、やばい領域に入っちゃったんだけど? なんか友達になりたくない類の連中がたくさん見えたぞ? 黒マントで浮いてる奴とか鎌もってた、それもデカイの。他にはカタカタ頭を震わせてる奴がうじゃうじゃ居たし。すぐにでて来れたけど……ナニアレ?

 ―――き、気にしない事にしよう。

 深く考えるのは危険だと、頭のどこかが叫んでいる。



「す、進!? しっかりしろっ! おい、意識をしっかりさせ―――」

 あぁ、しかし……眠い。

 どこか遠くから正栄の声が聞こえてくる。



「――――――む、り……」


 その言葉を最後に、全身の力がくてっと抜けて意識が落ちた。

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