第2話
――くそっ。なんだって、今日はこうもついてねぇんだ……?
朝、目が覚めたら……目覚まし時計が鳴る数分前に電池切れを起こしていた。それに気がついて、慌ててスマホを確認すれば時計の針は十一時半を指している。
やべぇ遅刻だ! と着替えを済ませて家を飛びだした――まではいい。不幸ではあるが、結局は自力で起きれなかっただけの話だからだ。
だが、家を飛び出してから数十分、いい加減限界だったしのどは渇いたしで、一旦立ち止まり自販で飲み物を買おうとすれば、自販が故障中で飲み物は買えないしお金は返ってこないしで――なんというか最悪だ!
あまりにムカついて自販を殴れば、手がいてぇし。警報鳴ってうるせぇしで、挙句の果てには警察に連行されかけて適当なこと言って逃げたわけです。
学校に来たら来たで、のど渇いてるのに冷たいコーンスープなんていう、余計にのどが渇くモノを飲んじまうしで……なんか、疲れた。もう体力があまり残ってない。
進はすべてを話し終え、精根果てた進は椅子の上で力尽きている。
ぶらーんと地面に伸びた腕は死人のように力が入っていない、顔からは生気が失せている。……ほっとけばこのまま死にそうな勢いだ。
「相変わらずにおもしれー人生送ってるじゃん?」
進くんの前に座るこのチャラ男は――
茶髪で制服を着崩した姿はどう見てもチャラ男なのに……名前がどこぞの戦国武将っぽい笑える奴だ。
なにをとち狂ったのか、両親が「この子は強く育てます!」とよくわからない方向に育てたようとした結果、武将をイメージして育てていたらしいのだが……見事にぐれてしまったのだという。
入学初日に色々と語ってくれた面白い奴です。
もう名前からして面白いですよね。見た目も、どこが武将ですか! って言っちゃいたくなります。茶髪に着崩した制服ですよ? 街にいるチンピラです。
「……てめぇ、相変わらずってどういうことだ?!」
正栄の言葉に怒る進。
どうやら、何かが進の琴線に触れたらしい。
「や、入学式からはっちゃけてるじゃん」
「――入学式? べつに何かした覚えは……」
何かあったか? 必死に思い出そうとするが別に変わったことはなかった気がする。精々俺がこ――
「覚えてないじゃん!? あれだけ派手にぶちかましておいて忘れてるじゃんっ」
「……ふむ……駄目だ、わからん」
キリッと言い張る進。あれだっておかしな行為ではないだろう。よくある青春の1ページだ。……行為だけを見て場所を見なければですけどね、進くん。
本当に鳥頭ですねぇ、進くん。
まぁ、彼は一度興味を失うと極端にどうでもよくなってしまう、残念な人なんですよ。
「ほ、ほんとに覚えてないのか……!?」
あまりの驚きに自分のキャラを忘れてしまう正栄。
……う、うむ。変な口調だと思っていたが、キャラ作りだったのか……気づいてないフリでもしてやるのが友情か、それとも指摘するのが友情か――俺にはわからないぞっ。
正栄くんも負けず劣らず面白い人ですね。そんなに自分の名前が嫌なんでしょうか? 実際、カッコイイ名前ではあると思うんですけどね~……くくっ。行動伴ってないのがダメダメですけどね! いや武力的な意味なら当てはまってますけど。
「――わからねぇ」
「マ、マジかっ……いいじゃん? オレが教えてやるじゃん!」
口調を取り戻した正栄は語りだす。入学式になにがあったのかを――
「一年生諸君、よく来てくれた。私達在校生全員が君達を歓迎しよう!」
体育館に集められたぎゅうぎゅう詰めの一年生。顔を上げれば、高台で演説している女生徒が見える。
リボンの色から察するに先輩。……演説している時点で先輩だろうけど。
(あちぃ……四月とは思えない熱気の篭りようだ……その内、誰かぶっ倒れるんじゃねぇの? ……ん?)
素朴な疑問に周囲を見回せば、他の生徒達もだらだらと汗を流している。――その中で、一人だけ浮いている存在がいた。
シャツの長袖を耳に当て、なにかを口ずさんでいるのだ。なんの曲か? まったく知らない。そもそも音楽になんぞ興味はない。
で、浮いている理由――彼女の周囲は見ているだけでも涼やかな空気が流れてるのだ。涼しげに口ずさむ彼女を見た瞬間に――惚れた。俺は彼女に愛を感じた。これは……告白するしかない! よく言うではないか、恋に落ちるのは一瞬だと。
「今日、ここに来てくれた皆に感謝を伝えたくて、ある物を準備――
「――あなたに心底一目惚れしました! 俺と付き合ってくれませんか!!」
高台に立つ女性の言葉を打ち消し、進の声が体育館中に響き渡る。
今は歓迎会の途中だ。当たり前だが、多少の私語でざわついていた空気が――静寂に包まれた。
完璧な無音だった。どいつもこいつもこの状況で告白した馬鹿に興味津々だったのだ。ついでに言えば、告られた
「…………え? ……ボクなの? ごめんなさい……あの、………」
「「「「「「フラれたあああああああああああああああああ」」」」」」
先ほどまでの静寂が嘘のように騒がしくなる。誰が叫んだのか? たぶん、体育館にいた奴らの大半が叫んでいた。……ちゃっかり教師が混じって叫んでいる。どうやら、わけのわからない展開に、生徒達だけじゃなく教師達も固まっていたらしい。それが振られたことによりつい叫んでしまい――はっ、と慌てて動き出した。
「な、なぜなんだ? 理由を聞かせてくれないか?」
そりゃあもう必死に言い寄る進くん、傍から見ててもダメダメですよね。個人的に、振られた理由を聞く男ってなんなんでしょうね、見苦しいです。すっぱり諦めるか別の機会にでも告りなさいって思います。
「………だって――ボク、恋なんて……信じてないんです…………」
彼女の口からだされた言葉に――バタンッ。と地面に大袈裟に倒れる……今、頭から落ちませんでしたか!? ちょっ、進くん? 生きてます!? 生きてるんですよねぇ?!
教師が生徒達を押しのけて、ようやく辿り着くと――そこにはぶっ倒れている進がいた。進くんの担任、緑坂先生です。
「なにがあったんだ!? まぁいい、しっかり……………こいつ息してねぇんだけど!??!」
冗談だろ、と胸に手を当てれば鼓動がない。……脈もない。
「保険医連れて来い!!」
そこからの行動は素晴らしかった。保険医が来るまで心臓マッサージを施し、人口呼吸を行い、見事進の命を救ったのである!
「………………忘れていたのに…………嫌なことを思いだたせてくれるな……」
ゆらり。と幽鬼のように立ち上がる進くん。
どうやら男に奪われたキスを意図的に記憶から消していたらしいです。
と言っても、キスされたところは覚えていない。というか死んでました。
「で、あの娘とは進展――――うえぇっ。なにするじゃん?! なんでキスしようとしてくんのっ……あ? 思い出せてくれた怨み? シラネェよ! むしろ傷が深くなるだけ――本気でやめっやめろおおおおおお」
注※)正栄くんは唇を死守しました。
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