第17話

人生はままならないからこそ、面白いのだ。とのたまうことが出来るのは、本当の不幸にあったことのない者だけだ。

 


 ノノが正常に戻ったあと、かなり大変だった。うきゃあああああっと叫びながら暴れるもんだから人目を引くし、二度とあの公園にはいけない……。あ、妹用にクレープを一つ包んで貰いました。案外クレープってお持ち帰りできるんですね。


「ご、ごめんなさい」

「べっつに気にしなくてもいいじゃんよ、どうせ進の甲斐性なしが原因じゃん」


 いつの間にか戻ってきて合流していた正栄が、落ち込むノノを慰めている。


「あの、私も……いえ、なんでもないですわ……」


 自分だけ乗り遅れてしまったことに落ち込む生徒会長。そうですね、あなた以外のヒロインはあ~んをこなしましたね。


 公園を出て、とぼとぼと歩く集団。しかも可愛い子多数。そりゃあもう目立ちます。目立ちまくりです。

 

「ねぇ君たち、俺らと遊ばない?」

「そうそう、そんなくれぇ奴らと遊んでてもつまらねぇべ?」

「俺らならきっちり楽しませてやるぜ? なんなら大人の体験もさせてやんよ」


 まぁ、可愛い子三人と歩いている微妙な男二人。アホが寄って来るのは仕方ないことでしょう。

 絡んできた男達はいかにも現代のナンパ男を体現したかのような存在です。メンズ雑誌に載っている服装をアレンジしたものに適度なアクセサリー、流行モノで固めたグッズ。努力の跡が見えるのはいい。いいが、絡む相手を間違えた。


「あぁ……どうする?」

「面倒じゃん、どうせ俺を知らないなら新参じゃんよ」


 この街で暴れまくった男がいるのだ、それを知らないって――ご愁傷様としか言えない。


「お断りしますわ、これでも楽しんでいますので」

「だねぇ。うーん、落ち込んではいるけど、つまらないわけじゃないし」

「……興味ない…………」


 ちっとも興味を示さない無表情ロリは置いといて。生徒会長がきっぱりと断り、ノノもチラッと顔を上げて否定の言葉を漏らす。


「ふーん。あそう、そんなこと言っちゃうだ、へぇ」

「俺らのこと舐めてね? なに、俺らよりそっちのダセェ男どもがいいわけ?」

「無理やり連れてって呑ませればいいよ。そっちのが面倒なさそうでよくね?」

「お前、頭冴えてるぅ」

「だろ?」


 なんだか物騒な話をしているが、もう哀れとしか……。だって正栄くん一人で蹴散らせますし、この前の喧嘩で人を殴ることへの抵抗が薄れた進くんもいます。


「で、帰っていいの?」

「あん? 男は帰っていいぞ、女を見捨ててなぁ」


 進の問に下種な嗤いを上げる男達。それを聞いた進は、

「帰っていいってよ、帰ろうぜ」

「そうね、行きましょうか」

「うんうん。こんな微妙な人達と関わり続けたくはないかな」

「…………晩御飯」

「そうだねぇ、途中で買って行こうね」

「くはっ。そうこなくっちゃなあ」

 と、ぞろぞろと全員で帰ろうと歩き出す。


「あ? ふざけてんじゃねぇぞこらっ!」


 近くにあった自販を思いっきり蹴りつける、バンッと大きな音を発てる。


「うわっキレちまったよ」

「あーあ、こりゃ男は死刑で女は嬲り者にされるなぁ、もったいねぇ。結構好みだったのによお」


 ……彼らは何がしたいのだろう? 進が疑問に思ったことはただ一つ。ぐだぐだ言ってるだけでなにもしてこねぇな。ということだけ。


「ああ? わかったかガキども、てめぇらはおとなしく俺に女を渡しとけばいいんだよ!」

「「「「「………」」」」」


 全員が無視して歩こうとすれば、残った二人の男が通せんぼをする。邪魔なことこの上ない。鬱陶しさだけならズバ抜けてる。

 本人的には凄んでいるつもりなのだろうか……数々の修羅場を潜り抜けてきた正栄からすれば児戯にも等しい。

 進にしたって、この程度の奴らにやられるほど柔ではない。


「い、いい加減にしろよっ」


 ついに暴力へと出たナンパ男。……もちろん、暴力に訴えられてじっとしているほど優しくはない男が一人、ここにいる。


「邪魔だ」


 正栄がギロッとナンパ男を見つめる。普段からは考えられないような鋭い瞳、厳しい声音。クラスメイト達が見ても、今の正栄に気づけるか怪しいところだ。実際に戸惑っている少女が二人。……一人は興味なさそうですね。


「へ……えぴゅっ」

「まず一人――お前らも戦うのか? 容赦はしねぇけど、それでもいいなら来いよ、遊んでやる」


 殴りかかってきた相手にクロスカウンターで殴り返し、一撃で気絶させた。相手の顎を打ち抜き全力で吹き飛ばしたのだ。ごろごろと転がっていき、ぼろ雑巾のごとくずたずたにされてしまった。


「ひ、ひいいいい」

「お、思い出した! 西中の戦国だっ戦国武将だ!」

「俺をその名で呼ぶんじゃねえ!?」


 どうやらマジで呼ばれていたらしい。


「ごめっごめんなさいいいい」

「ゆる、ゆるひてっ」


 さっきまで散々カッコつけて、女は薬で打って犯し、男は死刑って粋がってたのに、今やこのざまだ。……喧嘩を売る相手を間違えた。そもそも売っていい相手と売っちゃなんねぇ相手の区別も出来ないアホだ。


「うぉい、その辺で止めとけって。これ以上やったらただの弱い者いじめだろ? もっとおもしれーことしよーぜ!」

「あ? なにすんだよ」

「人間花火!」

「……は?」


 正栄は聞こえてきた言葉を幻聴だと信じ、再度問い直す。


「人間大砲!」

「どっちも大差ねぇよ!?」


 地面を這いずりそろそろと音を発てないように逃げようとしている男達の真横に足を落とす。


「下手な真似すんなよ? だりぃーことになっから」


 進が据わった目つきでナンパ男を見やり、蹴り転がしながら連れてくる。三人を薬で、という辺りから進もキレていた。


 ――俺の前であさを犯すと宣言するか、いい度胸だ。


 結果、ボロボロにされたナンパ男三人が仲良く全裸で土下座させられ、それをパシャパシャと写真に取られたのだ。まともな神経をしていたら二度と進達に絡んでくることはないだろう。


「え、っと。終わった?」


 少しだけ震えた声で、ノノが聞いてくる。どうやら表に出さないだけで結構怯えていたらしい。まぁ、中身が幼く残念なことを除けばこいつも女の子だからな。と進は考えを改めた。


「ふふっ。私は進さんを信じていましたわ。女を見捨てて逃げるなんてできないんでしょう?」

 

 生徒会長はどこか悪戯っぽく微笑みながら声をかけて来る。本当に進を信じていたみたいで、まるで恐れている様子がなかった。


「…………何にしようかな……」


 今日の献立を考えるのに夢中らしく、もはやナンパ男達のことは記憶の端にもなかった。流石はあさ、マイペースにもほどがある。


「……知ってはいたけど、正栄強くね?」


 今回、何も活躍していない進は正栄の喧嘩なれした態度と強気な口調に若干びびりました。や、そうそう喧嘩することはないだろうが、こいつと戦う時は直接的な殴り合いは避けよう。と心に誓った。



 最終的には、汚い花火が咲きました。いや、進くん達も鬼じゃないです。本当に筒に込めて花火にしたわけじゃないです。つか、それをやったら間違いなく捕まりますよ。

 ではどうしたか……狭い場所に連れて行き、そこに三人を入れます。鼠花火を大量に入れハッピー状態、這い出てきたところをロケット花火で狙い撃ちと。散々な目に遭ってもらいました。


 情けない写真は取られ、花火の餌食にされ、今日だけで大量のトラウマが出来たことでしょう。……進くんと正栄くん、やることがエグイです。

 一応は気を利かせて女子達に見せませんでしたが、まぁ何かがあった、ということは把握していますよ。




 

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