004 量産型おっさん3号


 とにかく予定通りに『みならい僧侶』となったが、”僧侶”とは言うものの宗教的なアレコレは無い。単なる回復職、いわゆる”ヒーラー”とかいう奴だ。

 「わが国では某人気RPGの影響もあり、勇者、戦士、僧侶、魔法使い、賢者…といった名称の方が、一般の方にもわかりやすいだろうから」…等とヤマコウが雑誌インタビューで答えていた。

 ただTJO、それなのに『シーフ』や『盗賊』という名称にしてしまうと「俺達は盗むのが仕事」みたいな勘違いをしてしまいそう…という事で『斥候』という職名になったらしい。


「よう兄ちゃん、みならいだろ?まずは2Fで一緒に冒険する仲間を探すといいぜ」


 「………」さての言うように、職に就いたら普通はパーティ募集等のために、ギルド2Fの待合室、談話室でメンバーを探したりするわけだ……が、

 都合によりパーティは組まないので、おっさんをガン無視してギルドを後にする。

改良型おっさんとは言え、2度も敗北するわけには行かないのだよフハハハ。


 外へ出て周囲を見渡してみる。クリスタルの向こうに『宿屋』がある、左を向くと『武器屋』という武器防具屋が、右を向くと『道具屋』という名の雑貨屋が見える、後ろを振り返ると『冒険者ギルド』がある。

 うん、当然だけど反対を向くと反対になるんだな……ゲーム時代は常に上側に『冒険者ギルド』、左に『道具屋』、右に『武器屋』、下側に『宿屋』の、MAPからリアルになって、これもかなり違和感がある。

 上下左右だとなので、今後は東西南北で統一しておこう。”北”のつもりで「上の方にあるよ」とか言うと”北”方向でなく”空の上”の事になるだろう。


 つまり はじまりの街[スパデズ]は『クリスタル』を中心に、北側に『冒険者ギルド』、東側に『武器屋』、西側に『道具屋』、南側に『宿屋』がある…という事だ。

 そして北西には『ペットショップ』がある。ペットショップを見て思い出したが、所持金の確認をすっかり忘れていたので、『腰の巾着袋』の中身を確認するために木陰に寄った。

「人の目の前で財布やお金を見せるものじゃない」と某戦闘機乗り漫画で学んだからね。

 よし、やはり10,000Gポッキリだ…日本円で10000円相当になります、簡単ですね。

「1万円で見知らぬ街で生活してみろよ…無理ゲーすぎるだろJK」等と、ブチギレknguりたい気持ちはわかるが、物価がかなり安いので安心されたし、厳しいけど。


 とにかく宿屋が2泊3日で2,000Gだったはずなので、残り8,000Gで装備をととのえるわけだが…なんとですね、ペットを買っちゃいます。

 …いや武器とか、防具とか、道具とか買えよって話ですが。とにかくペットをゲットするため、『ペットショップ』へ向かう『みならい僧侶』(なりたて)。


「よう兄ちゃん、新顔かい?ここはペットを売ってる店だ、まずは武器屋とかへ顔を出すといいぜ」


 「………」おっさん、初心者に親切なのはいいが自分の店の商売しろよ。例によって3の口撃を受けたが、華麗にスルーしてペットを見せてもらう。


「5,000Gぐらいまでのペットを買いたい」

「なんだ兄ちゃん、お客さんか、5,000Gぐらいだとそっちの緑の棚の3つのケージだな。

詳しい事はそいつらに聞けばいいからよ」


 おっさんが右手でさした緑の棚の上に、50cm四方の正方形のケージが3つ乗っている。

左から子犬、子豚?、子猫のようだ。ちなみにゲーム時代でもかなりランダムに動物が入っていた。のだが、ログアウトする方法などわからないので、この3匹から選ぶしか無い。とりあえず左から聞いていこう。


「ハスキー犬型サポートペット 生後6ヶ月 雄 4,800Gでございます」

「イノブタ型サポートペット 生後7ヶ月 雌 4,400Gです」

「三毛猫型サポートペット 生後10ヶ月 雌 4,000Gだよ」


 「………」ん~、『ハスキー犬』型は執事みたいでいいな。オオカミの様な精悍さと、目のまわりのユニークな模様のギャップがさらにプラスポイント。ただ手足がデカい…育つと大きくなりそうだな。(昔から親父に「手足のデカい子犬は、育つと大きくなるから家では飼えないんだ」と諭されていた)

 『イノブタ』は……うん、ちょっと無いかな。食べるわけでも無いし。

 最後に『三毛猫』だけど……雌か~。そこは雄だろ、あれだけおっさん祭りしておいて

三毛猫は雌とか……ヤマコウ空気読めよ。


「また「メスか~」って、かおしてる…」


 「………」ん? 表情に出てたか。というかみんな考える事いっしょなんだなぁ。


「でもさ、いちばんやすいよ?この800Gで、後々なにか助かるかもしれないよ?」


 「………」とばかりに『三毛猫メス』がアピールしてくる。…というか『イノブタ』は『三毛猫メス』的には、すでに眼中に無いのか?

 しかしまぁ確かに一番安い。5,000G程度でペットを買う予定だったから、結果1,000Gも安くすむ、と考えると悪くない。

 最初10,000Gあるから勘違いしがちだが1,000Gはそこそこ大金だ。

おそらく誰もが最初に倒す『バルーンラビット』換算で100匹分程度になる。

(毛皮等が売れるので、実際は30匹程度狩れば1,000Gは稼げるが)


 それにこのペットは『性能は全て一緒で、見た目や会話に個性がある』…というだけなのだ。『グリズリー』型だろうが『サーベルタイガー』型だろうが、のだ。この世界では『三毛猫オス』だからって、100万以上の価値があったりするわけではないのだ(多分)

 でも俺が女だったら『ハスキー犬』一択だったのでは無いだろうか。頼りがいがありそうだし。そして成長した巨大な姿に恐怖するまでがワンセット・・・大型犬って迫力あるよね。


「ヨークカンガエヨーオカネハダイ「おっさん、この『三毛猫』を買う」」

「やった♪」


 「………」それ以上いけない! なんなんだこの三毛猫は!

もし人型だったら流れるように”ロメロ・チンロック”をおみまいするところだ。


「おぅ、兄ちゃん、三毛猫にしたのか、メスだぞ?」

「わかってる」

 そう答えながら4,000Gをカウンターに置く。というかおっさんも承知の上か、

こりゃオスだったとしても5,000Gでは買えなかったな。300万Gとかするのかね。


「それじゃ、この台の上にギルドカードを置いてくれ、名前はどうするんだ?」

 ギルドカードを首から外し、カウンターの上の鉄製のまな板?のような物の上に置く。


 「………」名前か…ハスキー犬だったらセバスチャンとかグレイスンとか

なんとなく名前が浮かぶのだが三毛猫雌か……


「それじゃ、ミケネコ で」

「ちょ……」

「わかった」

 ミケネコが「それはない」…的な顔をしている隙に、おっさんが手馴れた感じで、台の上のギルドカードの俺の名前の下に、彫刻刀のような物で『三毛猫雌:ミケネコ』と彫りこんだ。ちなみに結婚とかしてもギルドカードに記す事は無い。本人とペット欄のみである。


「それじゃ、ギルドカードをそのミケネコの額にあてておいてくれ」

 言われた通りにミケネコの狭い額に、ギルドカードを押し当てる。そこへおっさんが両手を前に出し、掌を広げてギルドカードへ念を送るようなポーズをとりながら、ブツブツ…と何か魔法のような言葉を発した。ギルドカードとミケネコが緑色に淡く光る。

 主従関係の契約魔法みたいな物だったと思うが…魔法というより呪い的な感じだ。


「これでこいつは兄ちゃんのペットだ、わからない事とかもそいつに聞けばいいからよ」

「大丈夫だ」

「そうかい、毎度~」


 「………」量産型おっさん3号の役目は終わった。ペットショップにもう用は無い。

さらばおっさん、ありがとうおっさん、もう会う事もないだろう。


「ミケネコて……」

 何か呆けたようなミケネコを引きつれ、『ペットショップ』を後にした。



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LV:1

職業:みならい僧侶

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:6,000G

武器:なし

防具:布の服

所持品:0/50

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