EX ユウコ Side 001 <04/03(水)PM 04:04>


今回は なかよし3人組の ユウコさん視点 でのお話となります。


※人によっては『ショッキング』な内容を含みます。ご注意下さい。


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 はじまりの街[スパデズ]周辺で、唯一のダンジョン[山の洞窟]の探索をする事にした私達3人は、回復の出来る人〔※1〕を臨時で募集する事にしました。

 そして出会った三毛猫のミケネコちゃんを連れた『みならい僧侶』(LV不明)のマサヨシさんに、「1.パーティは組まない、2.回復するだけ、3.ドロップは全ていらない、4.宝箱は4個目ごと」…という不思議な条件で同行してもらう事になりました。

 1層の途中でピンチになったり、2層の探索を諦めたり、宝箱を諦めたりしながらも、[山の洞窟]1層の探索を終え、なんとか無事に街まで帰りついたのです。



 ここは最初に私が募集をしていた はじまりの街[スパデズ]北口広場。時刻を確認すると午後4時を過ぎている。募集してた時は…まだ9時前だったはずだから、あれから7時間ぐらいかかった事になる。結局は1層だけしか探索していないのに…。


「とりあえず無事に探索が出来ました。ありがとうございます」

 ともかく彼にお礼を言う。3人だけで『白ポーション』や『薬草』だけだったら、危なかった場面がいくつもあった。やはり同行してもらえて良かったと思う。


「いえ、こちらこそ、[山の洞窟]の見学も出来たし、経験値もたくさん稼げたと思うので助かりました、ありがとうございます」

 彼はそう言って笑っている。ミケネコちゃんは彼の足元でじゃれていた。かわいいな。


「結局~、宝箱2つだけだったね~」

「そうなりますねぇ」

「……むねん」

「そうだねぇ」


 「………」宝箱は3つ発見したけど、最後のは危なすぎたから諦める事にした。

 このサウザンド・ジョブ・オンライン(によく似た世界?)では、「決まりきったアイテムしか出ないと、つまらないじゃないですか」とかの理由?で、普通のゲームなんかと比べて、LVにそぐわない様な強めのアイテムが、時々出たりする様になっている。

 その代わり、しっかりから、ゲーム時代でも、何でもかんでも宝箱を開けたりしていると簡単に全滅していた。


「ね~、早くLVUPの確認に行こうよ~」

 マドちゃんがそう言って催促している。『LVUP』と『転職』とかの判定は、『クリスタルでしか行えない』様なので、冒険中にLVが上がったりしないから、こまめにチェックしないといけない。(途中で転職条件を満たしていたのに、LVUPした時には転職先が消滅している事もあるとか)


「あぁ、俺は少し早いけど、晩飯にしようと思うのでこれで… お疲れ様でした~」

 彼はそう言って南の宿屋の方に歩いていっている。あの辺りには お食事処が多い。


「あ、はい、ありがとうございました。また機会があれば一緒に探索しましょう」

 とっさに私はそう言った。確かに色々と変なところがあったが、信用は出来そうな人に思えたからだ。


「はい、また同じ条件で良ければ~」

 そう言って彼は そのままミケネコちゃんと歩いて去っていった。



「ん~、ユウちゃ~ん、あの人? 胡散臭うさんくさくなかった~?」

 彼の姿が見えなくなったからか、マドちゃんがそう言って不審そうな顔をする。


「う~ん、確かに色々と… というか、むしろ『妙なところしか無い』人だったよねぇ」

 「………」素手、布の服、既にペット購入(普通は装備が最優先で、荷物が持ちきれなく(50/50)なった頃に買う)。パーティを組まない、ドロップいらない、宝箱は4個目ごとでいい。よくわからない『武器』と『宝箱の中身』の交換、水分補給、食事、VIT全振り。ミケネコちゃんのネーミングセンス……


「……猫飼いたい」

 そう言えばシノちゃんは、ずっとミケネコちゃんに夢中だったなぁ。


「それにさ~ あの人キレる様で~抜けてるよ?」

「え? どういう事?」

 「………」確かにマドちゃんの言う様に、食事や復活の話とか、色々考えてる人に見えたけど…抜けてたかなぁ?


「あのね~『みならい斥候』のシノちゃんが、罠とか敵とか? 察知するじゃ~ん」

「うん」

「……する」

「アタシも『みならい魔法使い』だから? 魔法感知[マジックパーセプション]っていう、常時発動パッシブスキルで~半径30m範囲の? 魔法の存在って察知できんだよね~」

「あぁ…… なんか前にマドちゃん言ってたねぇ」

 「………」なんでも遠距離から魔法攻撃されても、対応出来る様に半径30mと、シノちゃんとかのスキルよりも少し範囲が広いらしい。


「それでさ~ 洞窟に入る前に~突然後ろから? あの人がさ~ な~んか魔法使ってるの察知したんだけど~」

「え! そうだったの?」

「ん~、まぁ害は無さそうだったから、多分何かの防護系魔法?だとは思うんだけど~。何も言わずに? 突然そんなんされると~マジあせるっていうか~、ムカつくっていうか~」

「そうだねぇ」

「それで思わずにらんじゃったら~「なんで睨まれてるの?」みたいに焦ってて~」

「ん~、でも私もマドちゃんが『魔法察知出来る』って、覚えてなかったし」

「でも~、多分? あの人さ~TJOの攻略情報とか? かなり詳しそうだったから~そこは知っとけよって~」

 「………」なんだろう…期待してるの? 期待はずれでイラッとしたの? 抜けてたのが許せないの? マドちゃんの気持ちが よくわからないよ。


「でも色々な事も教えてもらっちゃたし、復活の事とか? それにマドちゃん助けてくれたし、悪い人じゃないと思うよ?」

「う~ん、まぁそう…… なんだけど~……」

 「………」マドちゃんも こう見えて、色々と考えすぎる方だから……

 同属嫌悪どうぞくけんお的な? あれなのかなぁ?


「それより、ほらっ、クリスタル行こっ」

「あ~―― うん、そうだね~楽しみ~」

「……がんばった」

 「………」とにかくせっかく危険なダンジョンに行って来たんだから、LVUPの確認は一番の楽しみだ。転職は…次の 出会いの街[ヘアルツ]で、もう少し頑張らないと難しいかな。



 北口からまっすぐクリスタルの前にやって来て、さっそく3人一緒にぺた~っと触れる。目の前に、システムメッセージが表示され、ファンファーレが頭に響いてくる。


《おめでとうございます!LVが上昇しました! LV7 →LV8》

《おめでとうございます!LVが上昇しました! LV8 →LV9》

《このクリスタルではLV9までしかチェック出来ません、以降は別のクリスタルでチェックを行って下さい。》



▼▼▼▼▼ 補足、解説 ▼▼▼▼▼


TJOには【4大都市】が存在している。


 ゲーム開始時には全プレイヤーが、はじまりの街[スパデズ]よりスタートするのだが、ここは小さな半島にあり、周囲のモンスターも弱いため、ほとんどのプレイヤーは早々に、出会いの街[ヘアルツ]に拠点を移す。


 というのも4大都市とは名ばかりで、実際には 1村、1街、1都市、1街…という感じなのである。それでも4大都市と呼ぶのは、【クリスタル】が存在するからに他ならない。

 TJOの世界において”クリスタル”は無くてはならないものである。特に成長過程の若者にとって、こまめなクリスタルでのLVUP、昇格、転職チェックは欠かせない。


 それなのに世界でクリスタルは4つしか存在が確認されていない。

 当然その4つのクリスタルには若者が集い、周囲には冒険者ギルドをはじめとする様々な施設が整備される。4大都市にクリスタルが設置されているわけでなく、4つのクリスタルがあった場所に街が出来たのである。


 しかし4つのクリスタルの内、はじまりの街[スパデズ]のモノは、他3つに比べて力が弱い。具体的にはLV9までの間しか、レベルアップのチェックが出来ないのだ。

 つまりLV10以上になりたければ、他の3つのクリスタルのある都市に行くしかない。


 LV9になってしまうと、はじまりの街[スパデズ]周辺には、貧弱なモンスターしか生息せず、半島とはいえ周囲は断崖絶壁で、物流も良くないため品揃えも悪い。

 ほとんどの者はLV9どころか、レベルが上がり辛く感じれば、さっさと 出会いの街[ヘアルツ]に向かってしまうため、単身残ろうとすれば、パーティも解散したりして満足に組めなくなってしまう。

 はっきり言ってLV9になって、クリスタルの意味が無くなった時点で、『ただの僻地へきちの村』…と化してしまうのが、はじまりの街[スパデズ]なのであった。


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



 「………」[山の洞窟]2層に行かなかったけど、代わりに1層でたくさん倒したからか、はじまりの街[スパデズ]では最大の、LV9になる事が出来た。

 マドちゃんとシノちゃんの方を見てみると、2人もLV9になっていた。


「みんなLV9になれたねぇ」

「……うん」

「そうだね~ 『BADもーびる』~とか? 言った甲斐があったよ~」

 ん? …どういう事?


「マドちゃん『BADもーびる』欲しかったんじゃ無いの?」

「ん~? まぁ手に入れば~? 売ってユウちゃんの防具代?ぐらいには なったかもね~」

「え? 売っちゃうの?」

 マドちゃん、あんなに欲しそうだったのに……


「あ~―― シノちゃんだけ? LV6だったじゃん。まぁアタシは? そのうち強い範囲魔法とか? 大魔法とかで? いくらでも経験値稼げる様になると思うんだけど~。ユウちゃんとシノちゃんは~基本的に1体ずつしか倒せないじゃん」

 確かに私達はそれぞれ、『騎士』、『魔法使い』、『忍者』を目指している。

私もシノちゃんも『攻撃担当アタッカー』のマドちゃんと比べるとあまり火力が無い。


「それでも~ユウちゃんは? FA取るから経験値ボーナスあるし~、たまにFBも取るから~大丈夫だと思うんだけど~。シノちゃんはFA取るわけに行かないし~FBも? 3人で分け合う感じになっちゃうし~。ダンジョン行かないと~やっぱりシノちゃんだけ? 経験値が不足気味になっちゃうじゃん?」

「そうだね」

「……うん」

 「………」『みならい斥候』系は、ダンジョンでは『探知』や『罠解除』で、多くボーナス経験値が得られるけど、フィールドでは、FAを取るには防御力やHPが頼りなく、FBもそれほど取れるわけでも無い。

 不足しがちな火力を、切れ味の良い武器で、柔らかい部位を、背後から狙って、クリティカルヒット率を上げる事でカバーしている様な感じなのだ。

 もちろんフィールドでも『察知能力』は強力なんだけど、のでLVUPは遅れがちになってしまう。(実際ダンジョンに入る前には遅れちゃってたし)


「だからさ~、シノちゃんの運(LUC)が良いから? 「『激レア』ドロップ狙いで全部倒そ~」…とか言えば? 経験値いっぱい稼げるし~。FBボーナスは~ シノちゃんが取りまくれるでしょ~?」

「あ…、それで『BADもーびる』だったの?」

 まぁ突然マドちゃんがのも、考えてみれば おかしかったのよね。


「うん、まぁ~あの人が? 攻撃しないイコールFB取らない、回復だけしてくれる、ドロップいらない~。大体こっちで決めていいって~ 凄く都合が良かったっていうか? 出たら出たで~アタシらが貰っちゃって構わないわけだし?」

 うわぁ…… マドちゃんくろっ……


「……わるいおんな」

「いいじゃ~ん、みんな揃ってLV9になれたんだし~。出会いの街[ヘアルツ]行ってさ~、『青銅の斧』とか? あんなの全部売っちゃって~いい防具とか買おうよ。あの人のおかげでぇ? ポーションとか補充しなくていいしさ~」


「まぁ… みんなでLV9になれたのは嬉しいんだけど、ちょっと彼に悪い気が… 悪い人じゃなかったよ?」

「気にしない、気にしない~、お互い同意の上でしょ~? まぁ『鉄の長剣』貰っちゃったし~、な~んかアタシ達が得ばっかり~? な感じだけど~」

 ……うん。今度彼と同行する事があったら、もう少しドロップとか回してあげよう。それと、ちょっとマドちゃん酷くない? 彼の事が嫌いなのかなぁ?



▼▼▼▼▼ 補足、解説 ▼▼▼▼▼


戦闘時における経験値について

 モンスターとの戦闘時における、経験値の取得方法は『ダメージを与える』事である。しかし例外として『ボーナス経験値』が獲得できる行為が存在する。それが『最初の攻撃』(ファーストアタック、FA)と、『トドメの一撃』(フィニッシングブロウ、FB)だ。


 それぞれ『そのモンスターに設定された経験値を100%』として、『FAを取ったプレイヤーには30%』、『FBを取ったプレイヤーには20%』のボーナス経験値が与えられる。

 そして『FAを取った時点でのモンスターのHPを100%〔※2〕』として、経験値もその100%の割合に対し、与えたダメージによって得る事が出来る。


 つまり単独で1体のモンスターを倒した場合。『FAによる30%』、『与えたダメージによる100%』、『FBによる20%』…の『計150%分の経験値』が得られる。※『一撃で倒した』場合も、『FAでありFBである』と認められ、計150%分の経験値が得られる。



 『FAを取る』という事は、モンスターからのヘイト憎しみ一際ひときわ高く、危険にさらされるため。その勇気に対してのボーナスであるとともに、通常は『壁役』と呼ばれる非力ながらも頑強な職業が担当するため、モンスターに与えるダメージ(=得られる経験値)は、という事への救済でもある。


 『FB』の場合は、たとえ99%のダメージを与えていても、倒しきるまでは『反撃を受ける危険性』は消えていない。FBを取るという事は、これを倒しきり『危険性を完全に排除した』という事であり、その功績に対するボーナスとなる。


 これらは戦国時代などにおいての『一番槍』や、『首級をあげる、首を取る、討ち取る』…といった行為に相当すると考えるとイメージしやすいかと思われる。


補足:これらの経験値ボーナス、分配は、戦闘中においては、あくまで権利に過ぎず、『1体ごとの討伐時』に、それぞれの権利に応じて経験値として加算される。

 よって、逃走、死亡、全滅した…などで『討伐しきれなかった場合』には、全ての権利は消滅し、経験値は全く得られない。


〔※2〕

 オンラインゲームであるため、他のプレイヤーが戦闘中に逃走した、死亡、全滅した…などにより、モンスターは『常にHPMAXであるとは限らない』。

 対峙したモンスターからFAを取った時に、残り『HPが1だった』としても、FAによる30%、『与えたダメージによる100%』、FBによる20%…の計150%分の経験値が得られる


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「ほらほら~全員LV9のお祝いに? さっそく私達も食事とか? 行こうよ~」

「……お祝いする」

「うん… そうだね。行こっか」

 ともかく これで明日には、出会いの街[ヘアルツ]に向かう事になるだろう。

今日のところは美味しい晩御飯を食べてゆっくり休もう。



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LV9 ユウコ みならい戦士(CV:折笠富美子)

LV9 ツカサ みならい魔法使い(CV:田村ゆかり)(※マドちゃん)

LV9 シノブ みならい斥候(CV:小倉唯)



〔※1〕多種多彩な職が存在するTJOにおいて、僧侶だけが回復出来るとは限らない。

 そのためTJO経験者であった3人は、ゲーム時代の癖で はじまりの街[スパデズ]にも関わらず、「回復出来る方」という条件で募集していたのである。

 逆にTJO未経験者には「みならい僧侶の方~」といった募集が目立つ。


 ちなみに主人公が(LV不明)でも特に何の反応が無かったのも、TJOではゲーム時代から、『LV非表示』、『職偽装』は当たり前だったからである。(ただし彼女達自身は、そういう行為に必要性が感じられないので、ゲーム時代から一切していない)


魔法感知[マジックパーセプション][P] 半径30m範囲の魔法の存在を察知する。



「……ご主人さま~?……」

「…………」

「ご主人さま~、しあわせになろう ね?」

「……あぁ、そうだな」

 ※この後、2人(1人と1匹)は、このエピソードの記憶を無くします。

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