030 武士道 <04/03(水)PM 09:21>


 はじまりの街[スパデズ]周辺で、唯一のダンジョン[山の洞窟]の探索を終了した俺達は、3人が募集していた北口広場にて解散し、俺は宿屋に戻り仮眠を取った。

 宿屋から北口広場に向かう途中で、クリスタルに触れ『LV6 →LV8』に上がった俺は、LVUPボーナスの『2ptポイント』をVITに割り振り、北口の門を抜け、道なりに北の森の端にやって来た。



「ミケネコ、もう暗いから素材はそこまで気にしなくてもいい。『宝箱』をざっと探しつつ西に向かう」

「は~い」

 そう言ってから『北の森の端』を宝箱を探しつつ、目についた素材はミケネコのストレージに放り込む。謎のゲーム的仕様? のおかげで、何故かプレイヤーの周囲は(ロウソク程度)


 「………」ゲーム時代であれば、夜間はプレイヤー付近が一番明るくて、離れるほど徐々に暗くなっていき、画面の半分程度(周囲約10m)以降は真っ暗…みたいな表現になっていた。『ホラーゲームとかでよくあるアレ』だと考えていただけるとイメージしやすいだろうか。

 この10mというのは〈戦闘状態〉の範囲みたいなモノだから、プレイヤーの索敵さくてき能力は格段に落ち、先制攻撃される可能性がハネ上がる…という具合だ。


 ちなみに『周囲を明るく照らす』スキルや道具などもあるのだが、それによって【拡大された明かりの範囲】に入った、『アクティブモンスター』は『問答無用で襲ってくる』ので、使うべきか? 使わないべきか? 判断に困る面がある。

(軍人さんの映画などで『夜間に不用意にライトを点灯させよう』…とした新兵を、「馬鹿っ明かりを付けるなっ」などと叱る場面があったりするが… まぁそんな感じである。)

 無論『みならい斥候』系なら夜間だろうが、シノブさんみたいに15m範囲の〈戦闘状態〉の存在を察知出来る…ので、他職より夜間の急襲などにも強い。斥候すごい。



「ご主人さま~、ぶたすきのこ~」

 木の根元をひっくり返していたミケネコさんが嬉しそうに報告してくる。すでに『既知のアイテム』であるため、かわりに、『鑑定代も不要』なので、そのまま売って 1,240Gの収入だ。


「おお、やったなミケネコ」

 うんうん、雌豚でも無いのにミケネコさんは頑張るなぁ。

しばしアゴの下をコショコショしてやる。


「えへへ♪」

 ミケネコは尻尾をウネウネとウェーブさせている。うんうん、ミケネコはやれば出来る子。『ブタスキノコ』は、そのままミケネコのストレージに放り込んだ。



 しかしその後は、これと言って何も無いまま(『辻ヒール』は2回あったが)、街の周囲を大回りし東口から街に戻った。

 まぁ大体1周して『宝箱』か、何か『目ぼしい素材』が1個出ればいいなぁ…みたいな感じだろうか。初回の『鉄の長剣』(20,000G相当)がいかに『大アタリ』で、的なアレだったか、おわかりだろうか? 「3」番凄い。


 さてその『ミスターチキン』での、おっさん札占いだが「4」番だった。ちょっと縁起悪さを感じながらも、を美味しく頂いた。


 このササミカツ丼であるが、『運』に関しては多分偶然だとしても、『ステータス上昇効果』に関しては、ゲーム時代の攻略サイト情報によると、『MAXHPが約10%、1時間上昇し、その後は徐々に効果が薄れていき、食事の2時間後には元に戻る』…という感じらしい。

※ササミカツ丼程度では大した効果、持続時間では無いが、『最高級料理とかの絶大な効果』が、突然一気に元に戻ると『事故死してしまう』から、徐々に薄れるのだろう。


 『ミスターチキン』を出て、視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)PM 10:26>と表示されている。辺りは暗く人通りもあまり無い。

 そのまま予定通り、街の右上、『北東部の森の切れ目辺り』に行くため、[スパデズ]東口の門を抜けて、まっすぐ ずんずんと東に進む。

 人気が無く、あまり狩られないため、辺りには多くの『シマブタ』LV2達が群れてブーブーフゴフゴと鳴いている。暗いためスイカ畑の様でもある。

 周囲をさっと見回す… 他のプレイヤーの姿は無い様だ。



「……よし、ミケネコ」

「な~に~?」

 腰をおろした俺の足元へ、首を傾げたミケネコが寄ってくる。俺は首から提げている『ギルドカード』を取り出し、ミケネコを抱き上げてその狭いひたいにあてる。ミケネコは〈戦闘状態〉に切り替えた時と同様に、ギルドカードの中に吸い込まれる。


 「………」サポートペットは〈戦闘状態〉に切り替えると、契約魔法により『自動でギルドカードに吸い込まれる』のだが、実はこうして『に出し入れ』する事も出来る。

 プレイヤーの中には、「【単なる持ち運べる大容量倉庫】として利用したい」 …という人達も居たため、無理にいつも『連れて歩かなくて良い』様に、ペットが実装されて、しばらくしてからアップデートされたのだ。



「ご主人さま~?」

 突然ギルドカードに収納されたミケネコが疑問の声を上げた。


「これから戦闘になる。ミケネコは危ないから、そこで大人しくしていてくれ。 …なんなら寝ていてもいいぞ」

「ん~? ご主人さま、たおせるの~?」

「あぁ、倒せなくていいんだ」

「んん~?」

 そうミケネコの疑問に答えながらも、俺は東の端から北の森に向かって足早に進む。真っ暗な北の森が見えてくる。さすがに薄気味悪い。

 そして『痛み』と、復活出来るかわからない『死』への恐怖は当然俺にもある。

 だが…『冒険者ギルド』に入る前にも考えたはずだ。なるべく早くあの職に就く… そのためには死亡リスクは避けては通れない。



 …武士道とは死ぬことと見つけたり… 死中に活を求めるべし…


 俺はそんなを思い出しながら、1人真っ暗な森の中へ入っていった。

我ながら厨二病くさいが、まぁ今の俺は15歳(という設定)だしな。

 「いつ厨二病を発症するの?」…… 「今でしょ。」



 人目を避ける為にも、いつもの森の端では無く、もう少し内部へと暗い森の中を歩く。そしてその途中で適当な木の棒を拾い、おもむろにその辺りの木をコーン、コーンと叩く。


「ご主人さま?」

「いいんだ」

 木を叩いて周囲に音を響かせながら、しばらく歩いていると、ガサガサガサ…と右前方から音が聞こえてきた。俺はすぐに持っていた棒を投げ捨てると、南方面に逃走を計る。

 ガサガサガサ…と音が追いかけてくるが、気にせず『森の端から少し森の中に入った辺り』…を目指して逃走する。


「ギニャアァァァ」

 丁度良い場所に到着したか? と思ったあたりで「逃げまわりやがって」とばかりに、『イルカモネ山猫』LV5が1体飛びかかってきた。とっさに顔と首を庇う。


「ご主人さまっ」

「つうぅぅ……」

 イルカモネ山猫の一撃が、俺の背中に鋭い爪跡を残し、血が吹き出す。しかし俺も『LV8』に上がり、VITに振り、ササミカツ丼まで食べてHPを上昇させている。食らったダメージは15%程度だった。

 帰りに食らったのと感じの攻撃なのに、『25% →15%』とかなり減っている。『痛み』もそれほどでも無い。

 やはりゲーム?だから、この『痛み』も鈍くなっているのだろう。そうで無ければ、『HP1』では微動だに出来なくなってしまう。(まぁ出来ないのかも知れないが)


 LVUPによる治癒補正上昇での回復量のチェックなどもしておく必要がある。すぐにでも回復したい気持ちを抑えて、『イルカモネ山猫』の攻撃を待つ。


「ウニャアァァ」

 ユウコさんと違い、俺が特にからか? からか? すぐさま『イルカモネ山猫』が飛びかかってくる。


「っいっ、つ…」

 右の爪によるひっかきが、身体をよじった俺の右肩にヒットして、3本の爪跡を残しバッと血が吹き出る。HPゲージを確認すると計30%程度のダメージだ。念の為もう一撃…


「ニャアァァァッ」

 素早い動きでイルカモネ山猫が、俺の左太もも辺りを引っ掻いて後ろに抜ける。


「ってぇ…」

 太ももにも3本の爪跡があらわれ血が吹き出る。これで約半分くらいのダメージだ。色々な部分を引っ掻かれたので、かなりの『痛み』がある。

 やはり『HP残量で”痛み”が増加する』感じか……


「…治癒魔法[ヒーリング]」

 右肩に手をそえて回復する。HPは…は? …20%も回復していない。[山の洞窟]で『山ゾック(斧)LV6』の『ショルダータックル』を食らった時は、25%は回復していたはずだが?

 …あぁそうか。LVUPによる治癒補正UPよりも、MAXHPの上昇と食事効果の方が高かったわけか。食事効果が切れたら…大体20%ぐらい回復する感じだろうか? まぁいい。


「…治癒魔法[ヒーリング]」

 現在の大体の回復量が判明したので再度魔法を唱える。85~90%くらいまで回復した。もう『痛み』もほとんど感じない。


「ミャアアァァ」

 回復したと思ったら、イルカモネ山猫が背後から背中に爪を立てる。


「っつうぅぅ…」

 また70%程度まで減ってしまった。


「…治癒魔法[ヒーリング]」

 それを治癒により90%くらいまで回復する――――



 「………」まぁ何の事は無い。ゲームなどではスキル上げ、治癒回数稼ぎだ。

 TJOでは治癒行為で経験値も入るので、LVUPも出来る…のだが、普通にパーティを組んでダンジョンでも潜っていた方が、ドロップもGも、経験値も治癒回数だって稼げるので、TJOでこれをやる奴はほとんど居ない。

 当然だ。結局俺は『イルカモネ山猫1体に襲われているだけ』なので、ドロップもGも手に入らない。こればかり続けていると、宿屋代などで深刻なG不足におちいってしまう。


 そこで、それらの『G不足』をカバーするための、『地道な素材集め』であり、『宝箱狙い』である。

 そして「大ダメージを受けるため」の『全裸(布の服のみ)状態』であり、「大ダメージによって死なないため」の、『VIT振りによるMAXHP増加』なのだ。


 大雑把に説明すると、同じ「威力150の攻撃」を受けて…、

・防御力100、HP100 で、防御力で100ダメージ軽減して「50ダメージ食らう」より、

・防御力0、HP200 で、「150ダメージ食らってしまう」

 …方が、「治癒による経験値」と「治癒回数」が稼げる。


 つまりこれが『冒険者ギルド』前で、おっさんNPCをガン無視して考えていた「成長速度と死亡リスクが密接に関係してしまう」という話になる。

 『より多くのダメージを受ける(成長速度を上げる)』ために、『防具を付けない(死亡リスクを上げる)』わけだ。


 さらにお気づきの方もいらっしゃるだろう。俺は〈戦闘状態〉にした事が無い。つまり常に〈通常状態〉であるため、この『襲われている間も、HP/MPは微回復』している。

 加えて『みならい僧侶』系には『MP回復速度補正』があり、MPの回復速度が優遇されている。LVUP時にMAG(MAXMP増加)に振っていないのに、俺が【MP切れ】をおこしにくい秘密はここにある。


 それから常に〈通常状態〉であるため、普通は〈戦闘状態〉から〈通常状態〉に切り替えないと行えない『敵からの逃走』が、し放題なのだ。

 ミケネコさん風に言うと「ずるい~」であろう。


 もうひとつ大事な事だが、これだけ『イルカモネ山猫』に好きな様に攻撃をされているが、俺は反撃(FA)をしていない。 …つまり『いまだ仮FA』なのだ。

 憎しみヘイト的には今も「なんだお前?」…ぐらいで僅かである。そのため逃走すると割と簡単に、「逃げたならもういいや」と諦めてくれる。

 不測の事態(乱入、クリティカル)…などがあっても、かなり『高確率で逃走が成功する』のだ(何事にも絶対は無いが)

 また、一旦森の奥に入って、逃げながら戻ってきている事で、イルカモネ山猫の『POPしたであろう地点』から、『すでにいくらか引き離した状態』なので、逃走に必要な距離も減っている(はず)なのだ。



 『イルカモネ山猫』から攻撃を受けて、HPが80%以下になるたびに回復し、また攻撃されるのを待つ。その間もMPが微回復していく。

 ……そんな事を繰り返し、暗い森の中で時間が過ぎていった。



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LV:8(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:25G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×5、バリ好きー(お得用)65%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧



「ご主人さまは、まぞ~?」

「違うっ! 痛いのは嫌だ」

「それじゃなんで~?」

「……まぁまた、そのうちわかる」

「ふ~ん?」

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