021 回復アイテム <04/03(水)AM 11:03>
はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン、[山の洞窟]の1層を探索中の俺達は、通路の先の広間にて『山ゾック(斧)』LV6を2体、『ヒキ
そして『非アクティブモンスター』の『ヒキ蝙蝠』3体は無視し、『アクティブモンスター』の『山ゾック(斧)』2体を、どうにか討伐したのだった。
「ユウちゃん大丈夫だった~?」
ツカサさんが、すでに俺の治癒魔法によって回復済みではあるが、『右の山ゾック(斧)』の強烈な『ショルダータックル』を、モロに食らってしまったユウコさんを心配している。
「ありがとマドちゃん、もう大丈夫だよ。すぐ回復してもらったし、でもちょっと
「………」なんとも言えないところだろう。シノブさんの『クリティカルヒット』によって、『左の山ゾック』が大きくのけぞっていた絶好のチャンスだったし、実際それでトドメをさせたのだし、2体が健在のままであれば当然ながら、モンスターからの攻撃頻度も倍になる。
「でもやっぱり回復してもらえると助かりますね。『ポーション』は高いし、あまり効かないし、続けて使用出来ませんから」
「いえ…まぁ回復しか出来ないですから」
「………」TJOには回復アイテムは、『薬草』か『ポーション』ぐらいしか無い。
一般に言うところの『ハイポーション』、『エリクサー』等というモノが、
『ポーション-9 ~ +9』…といった『品質』になっているためだ。
ざっと簡単にあげると(色は鑑定後のアイテムネームカラーに由来、単なる通称)
-9~-1 『灰ポーション』、ゴミ、毒、HPが減る、-7以下はMPまで減る。ポーション(不確定名)を飲むとひどい目にあう事も…
0 『白ポーション』、基本、普通 200G
+1~+3 『青ポーション』、少し良質なポーション。すべてがそこそこ
+4~+6 『緑ポーション』、ハイポーションと呼ばれるレベル。かなりの回復量だが高価
+7~+8 『紫ポーション』、HP大幅回復に加え、MPもそこそこ回復させる。非常に高価
+9 『虹ポーション』、HP/MP全快、完全なる品。よほどのボスでしか使用されないほど超高価
※『薬草』は品質0で固定なので、大量に所持しておいて、戦闘後に回復の調整に使用される程度である。
今のユウコさん換算で5%回復するかどうか…戦闘中に使用するには無理がある。
それで「高くてあまり効かない」、というのは基本の『白ポーション』200Gの事で、今のユウコさんのMAXHP量であれば、白ポーション1つで20%程度であろう。
つまり先ほどの戦闘ダメージを全回復させると約3本、600Gも消費する事になる。得られたGが、196G、207G、203Gだったので、ドロップの『青銅の斧』2本しか儲けが無くなってしまう。
ちなみにTJOで『ハイポーション』と言うと、『
一応『〈通常状態〉中は、HP/MPはゆっくりと微回復する』のであるが(※〈戦闘状態〉中は神経が高ぶっているから回復しなくなる…とかいう設定だ)、『アクティブモンスター』が徘徊する様な場所では、そんなのんきな事も言っていられないので、戦闘後はすみやかに回復する事になる。
(一方で、はじまりの街[スパデズ]南口では、『バルーンラビット』LV1を倒しては、回復アイテム節約のために、その場で座りこんで回復を待つプレイヤーの姿がよく見かけられる)
※宿屋等では、3時間以上の睡眠(休憩)をとれば、HP/MPが全快する。
そんな『回復』が使い放題なのだ。『みならい僧侶』系だって凄い性能なのだ…が、今までの俺の空気感を見れば、おわかりのように、ゲーム時代は、そのなんというか…お荷物的な? おそらくミケネコが、俺に対して思ってるような…そんな微妙な感じになって、それに耐えられなくなった者が、キャラクターを削除してやり直す → さらに『みならい僧侶』系が減る…という悪循環に。
(TJOは、1アカウント1キャラのみだ。この辺については、また今後語るかもしれない)
「ご主人さま~?」
いかん、久々に長考してしまった。ミケネコさんが居て助かる。せまい
「……ユウちゃん、あそこ」
シノブさんが指差した方を見ると、壁際に宝箱だ……しかしあそこは…
「シノちゃん、もしかして?」
「……うん……ピット(落とし穴)LV18の、向こうにある」
「うわ~、いやらしい~」
「ひどいですねぇ」
うひょ~宝箱だ~! ヒュー、ストーン…である。ダンジョンマスター意地が悪い。いや…たまたまピットの向こうに、宝箱がPOPしたから残ったままなのか?
「無理そうなら諦めてもいいけど」
「……大丈夫」
「シノちゃ~ん、無理しないでね~」
シノブさんは1人で、ピットのあると思われる
戦闘前にシノブさんが 探知:罠[トラップディテクション]で、半径15m範囲の罠の存在、名称を探知したのだが、その際に発見されたトラップは、名称とともに発見した本人にはうっすらと半透明で表示されて常に見えている。そのため大体の構造などもわかり、解除や回避もしやすい…というわけだ。斥候すごい。
俺達が
「……分析:罠[トラップアナライズ]」
シノブさんが術を使用すると、前回同様に宝箱の上面部から下底部に向けて『光る板状のモノ』がス~っと降りていく。
「……罠は『仕掛け弓矢』、罠LVは12」
罠LV12か、シノブさんなら半減して罠LV6になるから楽勝かな?
……シノブさんもそう判断したのかそのまま解除に移った。
「……解除」
キンッ!
また謎の金属音(罠解除成功音)がして、宝箱の前面の錠前がポトリと地面に落ち、そのまま錠前は霞んで消滅した。
シノブさんは宝箱をそっと開けて、中から何かを取り出して腰にさし、またゆっくりとピットのあると思われる
「お疲れ様、シノちゃん」
「シノちゃん、おつかれ~」
「お見事です(先生)」
「しのぶさん、すご~い」
「……らくしょう」
シノブさんはみんなの方を向いて、やはり少し照れながらVサインで答えた。そして腰に挿して取ってきたモノを、みんなの前に差し出す。
「……これ」
「これは、『鉄のメイス』?」
「ですねぇ」
「う~ん、まぁまぁ~?」
危険な所にあるから、苦労して入手したから、良い、高い物ばかりとは限らない。なんと言ってもあの嫌がらせの様な場所にあったのは多分たまたまだろう。罠LV的には12だから、『鉄のメイス』(14,000G)は妥当なところだ。
ユウコさんが1度チラッと、こちらを確認するように見てきたので、「問題無いですよ、そちらでどうぞ」という風に掌を上にして、ユウコさんの方に水平にして動かし首を縦に振った。
「とにかく宝箱2個目だね、マドちゃんお願い」
「それじゃ持っとくね~」
そう言ってシノブさんから『鉄のメイス』を受け取ったツカサさんは、そのまま『インベントリ』に収納した。
2個目の宝箱も無事回収し、広間を見渡しても『ヒキ蝙蝠』が3体、天井にぶら下がっているだけだ。――宝箱はとっくに消滅した。
入ってきた通路から見て左手にまた通路が続いている。
「この通路しか無いみたいですし、進んでみましょう」
ユウコさんもそう判断したのだろう。俺達にも異存はない。また同じフォーメーションで緩やかに右に曲がる通路を慎重に進む。
しばらく前進すると大きく急に右に曲がっている。先の様子がわからないので、代表してユウコさんが右壁の陰から、そっと向こうの様子を覗いて戻ってくる。
「山ゾック(斧)LV6 が1体居ますね、先の方はまた左に曲がっていて見えません」
『山ゾック(斧)』1体ならいい獲物…かな?
「シノちゃん、また罠があるか調べてくれる?」
「……うん、探知:罠[トラップディテクション]」
この付近で戦闘しても問題が無いか? シノブさんに罠を調べてもらう。
「……半径15m範囲で、罠はさっきの(広間の)ピットのみ」
位置的にこの右の壁の向こうは、さっきの広間になる。あのピット(落とし穴)が、また 探知:罠[トラップディテクション]に引っかかったのだろう。
「ありがと。えっと私がFA〔※1〕を取って…後はさっきと同じ感じでいい?」
「いいんじゃな~い?」
「……うん」
「いいと思います」
「よし、それじゃ行くよっ」
ユウコさんが〈戦闘状態〉に切り替え、戦闘中BGMが聞こえはじめる。『青銅の盾』と『鉄の長剣』を構えて通路を曲がり、足早に『山ゾック(斧)』に突撃する。
今回も確実にFAを取るためだろう。ユウコさんは『青銅の盾』を左手で構えた状態で、右手の『鉄の長剣』を引き、山ゾックが避けにくい腹部を目掛けて、隙の少ないモーションで突き刺す。
「GUAAAAAA」
突然腹部を刺された『山ゾック』が、怒声をあげてユウコさんをにらみつける。FAを取ったユウコさんは『青銅の盾』を構えて反撃に備えている。
「……えぃ」
ユウコさんに
「UGAAA!」
背中を斬られ怯んだ『山ゾック』だったが、やはり最初に攻撃(FA)をしてきた、憎い(ヘイトが高い)ユウコさんに対して、右手に持った『斧』を振りかぶる。そこへ、
「シノちゃん、はなれて~……火球[ファイヤーボール]」
ツカサさんの声を聞いて、シノブさんがサッと離脱したのを確認すると、そのまま無防備な『山ゾック』の背中を目掛けて、火球[ファイヤーボール]が唱えられた。
ツカサさんの『樫の杖』の先から、ソフトボール大の火の玉が直進し、『山ゾック』の背中に直撃して燃え上がる。
「ACYAAA!」
よし、いい調子だ。そう思った瞬間…シノブさんが”ハッ!”とした様な表情で叫んだ。
「……ユウちゃんっ! 通路の向こうから2体来る!」
シノブさんの『みならい斥候』の
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LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:525G
武器:なし
防具:布の服
所持品:8/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)75%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ
〔※1〕TJOにおいて、『最初の攻撃』を、『ファーストアタック』(略されて『FA』と呼ばれている)という。この最初の攻撃(FA)をしたプレイヤーは、そのモンスター(達)からの
分析:罠[トラップアナライズ] 宝箱等に仕掛けられた罠の種類と罠LVを識別し、罠LVを半減させる(小数点以下切捨て)
補足:ミミックだった場合は、そのミミックのLVも識別する。ただしミミックのLVは半減出来ない。
火球[ファイヤーボール] ソフトボール大の火球を作り出し、対象1体にぶつけて炎と衝撃によるダメージを与える。
警報:急襲[レイドアラート][P] 半径15m範囲の〈戦闘状態〉の存在を察知する。
「やっぱり しのぶさんすご~い」
「もう全部シノブさんで、いいんじゃないかな」
「ご主人さま~、そのいきやよし~!」
「違う、そうじゃない」
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