022 アクティブモンスター <04/03(水)AM 11:35>


 はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン、[山の洞窟]の1層を探索中の俺達は、通路の先の広間にて『山ゾック(斧)』LV6を2体、なんとか討伐し、広間の右隅の落とし穴(ピット)LV18の奥にあった2個目となる宝箱を回収した。

 そして広間から先に続く(来た通路から見て)左の通路へと進み、大きく右に曲がった角の先に1体の『山ゾック(斧)』を発見、問題無いだろうと戦闘を開始したのだが…



 ツカサさんの『樫の杖』の先から、ソフトボール大の火の玉が直進し、『山ゾック』の背中に直撃して燃え上がる。


「ACYAAA!」

 よし、いい調子だ。そう思った瞬間…シノブさんが”ハッ!”とした様な表情で叫んだ。


「……ユウちゃんっ! 通路の向こうから2体来る!」


 シノブさんの『みならい斥候せっこう』の常時発動パッシブスキル、警報:急襲[レイドアラート]が、通路の向こうでこちらの物音(戦闘音など)に気付き、〈戦闘状態〉に切り替えたらしいを、いち早くした。


「「「2体!?」」」


 「………」[山の洞窟]1層のモンスターは、『非アクティブモンスター』の『ヒキ蝙蝠コウモリ』LV4と、『アクティブモンスター』の『山ゾック(斧)』LV6である。

 『非アクティブモンスター』である『ヒキ蝙蝠』は攻撃されない限り〈戦闘状態〉にならないため、のに〈戦闘状態〉に切り替えたのであれば、『山ゾック(斧)』が2体であろう。

 先ほどの戦闘で『山ゾック(斧)』LV6は、1体であれば『さほど脅威では無い』が、2体になると『かなり手強い』事が判明している。それが3体となると、『ピンチ』と言っても過言では無いだろう。


「とにかくコイツを早く倒しましょう」

 ユウコさんがそう言いながらも、『山ゾックA』(混乱を避けるためABCと呼称する)が振り下ろしてきた『斧』を、『青銅の盾』の角度を調整して見事に受け流している。『山ゾックA』の『斧』は、ドゴンッと、むなしく地面を叩いた。


「わかった~」

「……うん」

「了解です」

 リーダーのユウコさんの指示で『山ゾック(斧)』1体+2体との連戦をする事が決まる。


「あ~、かけとけば良かったかな~。とりあえずシノちゃんっ…まやかしの切れ味[フロードシャープ]〔※1〕」

 長丁場ながちょうばになる事を覚悟したのだろう。ツカサさんがシノブさんの『鉄の刀』に魔法をかける。


 「………」これは仕方無いだろう。まやかしの切れ味[フロードシャープ]は、両者が〈戦闘状態〉でないとかけられない。相手が1体であれば〈戦闘状態〉に切り替えたなら、そのまま攻撃魔法を使用した方が速い。

 しかし長期戦が予想される場合、切れ味(品質)上昇による威力UPと、クリティカルヒット発生率UP…は馬鹿にならなくなる。


「……やぁ」

 ツカサさんの魔法の支援をうけたシノブさんが、『山ゾックA』の背後から逆手に持った『鉄の刀+1』で、無防備な『山ゾックA』の背中を横一文字に切り裂いた。


「UGIII!」


 『山ゾックA』が悲鳴をあげた。もうそろそろ倒せても良い頃だと思うのだが…


「……ユウちゃんっ、来るっ」

「GURIIII!」「GURAAAAA!」


 前方の通路の陰から『2体の山ゾック(斧)』が姿をあらわした! 間に合わなかったようだ。『山ゾック(斧)』LV6 3体との戦闘になってしまう。

 ユウコさんが『青銅の盾』を構えた状態で叫んだ。


「まずはコイツをっ、(新手の2体に)狙われても反撃しないように注意してっ」


 「………」こういう乱入の場合、一番問題になるのが『誰が最初に見つかったか?』だ。

 物音や異変に気付いて、とりあえず〈戦闘状態〉にしたものの、言ってみれば警戒状態に過ぎず、その後で最初に見た敵(プレイヤー)に対して、「なんだコイツ?」ぐらいにヘイト憎しみが若干上昇し、攻撃をしかけようとしてくる。


 しかし あくまでなので、FA(最初の攻撃)を取れば、その相手に「よくもやりやがったな!」…と、一気にヘイト憎しみが集中し、生半可な事では後から攻撃をしてきた、他のプレイヤーに攻撃目標ターゲットが移動しなくなる。


 つまり『ただ発見されただけ』の、言うなれば『仮FA』みたいな状態の時に、反撃でもしてしまうと『本FA』となり、ひたすらようになってしまうため、『壁役』以外のプレイヤーはうかつに行動出来なくなるのだ。


 しかも本来ヘイトを集中したい『壁役のユウコさん』は、まだ最初の『山ゾックA』のヘイトを受け持ったままで自由に動けず、俺達も うかつには動けず…という難しい状況となる。


 たまたまユウコさんを最初に見てくれる(仮FA)と、隙をついてユウコさんが『本FA』を取れば、ヘイトを集中出来るのだが…

 正直なところ発見された時に『モンスターが誰を見るか?』…は運である。


 これがおそらくユウコさんが今後なろうとしている『騎士職』等であれば、「相手を挑発し、ヘイトを強制的に集中させる」…といったスキル等があるのだが、俺達はまだ みんな基本4職の『みならい』なので、そこまでのスキルは無い。



「ユウちゃんもいくよ~ …まやかしの切れ味[フロードシャープ]」

 ツカサさんが、ユウコさんの『鉄の長剣』にも魔法をかける。


「ありがとっ、てやーっ!」

 ユウコさんが、ツカサさんの魔法を受けて、右上段に振りかぶった『鉄の長剣+1』を思いきり振りおろす。


「ugoooo」

 ユウコさんに袈裟斬りにされ、ようやく『山ゾックA』が倒れ… !! マズイッ!


 俺はとっさに走っていって、ユウコさんが『山ゾックA』にトドメをさす様子を、補助魔法をかけた『スキル使用後の硬直状態』のままで見ていた、ツカサさんを突き飛ばすっ。


「きゃっ」


「GURIIII!」

 次の瞬間、ツカサさんと入れ替わった俺に、『山ゾックB』がそのまま強烈な『ショルダータックル』を食らわせてきた。


「ご主人さまっ!」

「マサヨシさんっ!」


「ガハァッ……」

 ドガッ! という物凄い衝撃とともに、モロに俺の腹部に『山ゾックB』の右肩がヒットして、大きく吹き飛んで地面に叩き付けられ、そのまましばらく転がってから止まった。

 一瞬で肺の中の空気が、全て無理矢理に吐き出されたかのような感じで息が出来ない。…鳩尾みぞおちに当たった…か?

 以前に設定したためだろう。視界全体が真っ赤にそまって、心臓の音がバクバク、ドクドク…と大きな音をならしている。

>《表示項目の設定:危険演出表示 :<ON> / OFF 》


「ガハッ……コホッ…クフ……」

 息が…出来ないので、回復が、出来ない…痛……苦しい。とに…かく、呼吸を、整えないと…治癒……魔法が、使えない。


 今ので…70%くらいのダメージか…俺で残りHP30%、ツカサさんや…シノブさんだと、危なかったかも…しれない。


「…う、ク…コホッ……、ち…治癒魔法[ヒーリング]」


 体のあちこちも痛むが、とにかく胸部に手をそえて、肺の辺りの回復を優先する。く…治癒魔法[ヒーリング]1回で、俺は25%くらいしか回復しないのか…


「…ケホ……治癒魔法[ヒーリング]」

 二度目の治癒魔法[ヒーリング]で80%ほどまで回復し、ほとんど問題なく動けるようになってきた。真っ赤だった視界もクリアになり、激しい心音も聞こえなくなる。


「マサヨシさんっ、大丈夫ですかっ!?」

 ユウコさんがおそらくFAを取ったのだろう。にらみつけている『山ゾックB』と向かいあって、『青銅の盾』を構えたまま心配してたずねてくれた。


「大丈夫…です。そっち(戦闘)に集中してください …治癒魔法[ヒーリング]」

 返事をしながら三度目の治癒魔法[ヒーリング]を唱えるとHPが完全に回復した。


 『山ゾックC』はシノブさんを最初に発見していた様で、シノブさんは上手く回避しつつ、ユウコさんの方に誘導しようとしていた。


「ユウちゃん、気をつけてっ ……火球[ファイヤーボール]」

 すでにユウコさんがFAをとって、ヘイト憎しみが集中している『山ゾックB』めがけて、ツカサさんの『樫の杖』の先からソフトボール大の火の玉が飛んでいく。

 警告を聞いたユウコさんは、巻き添えを食らわない様に『青銅の盾』をしっかり構えている。そのまま火の玉は直進し、外す事なく『山ゾックB』の背中に直撃して燃え上がる。


「WACYAAAA!」

 『山ゾックB』の悲鳴が響く、その隙にあわせる様にして、ユウコさんが振りかぶった『鉄の長剣+1』を思いきり振りおろす。


「てやぁーっ」

 勢い良く振り下ろされた『鉄の長剣+1』が、「ザシュッ」という効果音とともに、『山ゾックB』の左首すじあたりから、右わき腹あたりにかけてズバーッと切り裂き、があがった。『クリティカルヒット』だ!


「guriiiii……」

 『山ゾックB』がその場に倒れ息絶える。しかしそれを見届ける事なく、すぐさまユウコさんは『青銅の盾』と『鉄の長剣+1』を構えて、シノブさんを追いかけていた『山ゾックC』に向かって突撃し、背後から無防備な背中に斬りつけた。


「やーっ」

「GURAAAAaaa!」

 突然の背後からのユウコさんの攻撃(FA)に、怒りの雄叫びをあげてふり返り、『山ゾックC』のヘイト憎しみがユウコさんに集中した。

 これで最初のに戻ったかたちとなる。後は油断せずに冷静に戦えばいいだろう。俺達は乱入などでバラバラになっていたフォーメーションを元に戻す。


 『山ゾックC』の正面に『青銅の盾』を構えたユウコさんが陣取って、ヘイトを引き受け、攻撃をいなす。背後からシノブさんとツカサさんが攻撃し、『山ゾックC』のHPを削る。隙があればユウコさんも攻撃を仕掛ける。


 俺? ……もう、某外人さん4コマみたく、見ているだけですが?


「……てぃ」

 シノブさんが背後から『鉄の刀+1』を逆手に構えて、『山ゾックC』の背中をスパーッと横一文字に斬りつけると、「ザシュッ」という効果音とともに、があがり『クリティカルヒット』した。


「guraaa……」

 それがトドメとなって、『山ゾックC』もその場に倒れ、息絶える。どうにか『山ゾック(斧)』LV6、1体+2体の連戦にも勝利できたようだ。

 やれやれ、これだから『アクティブモンスター』が居る場所では油断出来ない。



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LV:6(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:525G

武器:なし

防具:布の服

所持品:8/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)75%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ



〔※1〕まやかしの切れ味[フロードシャープ]

 半径10m範囲内の〈戦闘状態〉の対象1人が装備している武器の品質を、『その戦闘中に限り+1する』(効果は重複しない、+9には効果が無い)

 魔法力により対象の武器の鋭さを増し、切れ味をあげる。あくまで切れ味だけであり属性などは付与されない。何故か切れ味の無い武器でも効果はあるので安心。


 『戦闘時の専用魔法』であるのと、『〈戦闘状態〉の相手にしか効果が無い』ため、両者が〈戦闘状態〉にならないとならず、戦闘前にあらかじめかけておく事が出来ない。

 (おそらく悪用しての交換サギなどの防止のためであろう。〈戦闘状態〉では取り引き行為は出来ない)

 低品質では+1の効果はさほどでも無いが、元が高品質であるほど効果が高くなる。また長期戦が予想される場合には、使用する、しないで総ダメージにかなりの差が出てくる。



「ご主人さまは、なんでの~?」

「死ねば良かったのに――、みたいに言うな……」

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