026 右ルートの探索 <04/03(水)PM 00:32>
はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン、[山の洞窟]2層の探索を、その危険性から諦めた俺達は「それなら1層の敵を一掃して、『ヒキ
「ん~、やっぱり出なさそうだね」
「まぁ、激レアですからねぇ」
「まだわかんないって~」
広間の天井にぶら下がっていた『ヒキ蝙蝠』2体を、「ユウコさんがFA〔※1〕取った後、再度攻撃してから、シノブさんがFB〔※1〕を取る」…という『1層一掃作戦(改)』により問題無く討伐した。
そして戻る途中に再POP(出現)していたらしい、1体の『山ゾック(斧)』LV6と、『ヒキ蝙蝠』2体も、1体ずつ確実に倒して寂しいドロップを回収し、俺達は『最初の分岐地点』、シノブさんが「罠がある」…と察知した場所に戻ってきていた。
最初の段階ではシノブさんの
※言ってみれば草(不確定名)の様に、罠(不確定名)みたいな状態である。
そこで、探知:罠[トラップディテクション]を使用して、もう少し詳細な形状、名称などを識別し、罠LVを半減させた後で、解除により無力化する。
しかし宝箱の罠とは違い、この手のトラップは『解除すると安全に進めるようになるだけ』なので、不要であれば迂回したり、避けて通ったりする事も多い。先ほどの広間の落とし穴(ピット)はLV18と高い上に、どうにか
「………」ヤマコウにしては珍しく、リスクとリターンがつりあって無い様に思えるが、ダンジョン全体で見れば、そういったトラップや強力なモンスターなどの
それから、
・探知:罠[トラップディテクション]や、使い捨てアイテムのスクロール[探知:罠]等を使用して、形状、名称などを識別した時
・罠を解除した時
以上の場合にはしっかり経験値が得られる。パッシブスキルでの察知や、何もせずに罠にかかる、解除に失敗する等で『罠が作動した場合』は経験値は得られない。
そうこうしているとシノブさんが罠を解除する事にしたようだ。2人と『BADもーびる』について話しながら、ミケネコの背中を撫でていた俺も撫でるのをやめ、何かあればすぐ回復出来るように、治癒魔法[ヒーリング]の射程範囲である10mにシノブさんが入る様に位置取って、すぐに唱えられる準備をして見守る。
「……解除」
キンッ!
宝箱の罠と同様の、謎の金属音(罠解除成功音)がして、罠があったらしき場所にシュワシュワと煙が上がる。それを見て、シノブさんの元にみんなが集まっていく。
「シノちゃん、お疲れ様」
「ぐっじょ~ぶ」
「(先生)お疲れ様です」
「しのぶさん、すご~い」
「……よゆう」
シノブさんもVサインをしながら、やってきた俺達と合流する。
「それでは右ルート(最初の時の話、現在は正面に見えている)に、行ってみましょう」
「『BADもーびる』手に入れよ~」
「……とどめさす」
「出ますかねぇ?」
そんな事を言いながら、俺達は今まで通りユウコさんを先頭に、周囲を警戒しながら進みはじめた。しばらくまっすぐな直線が続く、途中で『2体のヒキ蝙蝠』を倒したが、『ヒキ皮』が2つと『81G』、『78G』…という、なんとも微妙な成果だった。
「ま、まだまだ、これからだって~」
「そうかなぁ?」
ツカサさんとユウコさんが、そんなやりとりをしていると、前方が左(北方向)に急に曲がっているのが目に入った。それと同時にシノブさんが、
「!! ……そこの曲がり角に罠」
シノブさんの
「え? そこの曲がり角? シノちゃんお願い」
「……うん …探知:罠[トラップディテクション]」
シノブさんが察知した罠を、より詳しく調べるためにスキルを使用する。
「……『毒針LV11』が、その角の左の壁にある」
「え、壁に?」
「うわ、意地悪い」
「なんか~、最初のダンジョンなのに、やらしくな~い?」
そこの左の曲がり角の、左の壁である。『みならい斥候』のシノブさんが居なければ、これまでの様にユウコさんが、毒針のある左の壁に添って、角の向こうの状況を覗いて確認しようとしたはずだ。
「罠LVも低いし、シノちゃんお願いね」
「……うん」
シノブさんが1人で曲がり角の左の壁に近寄っていく。
……う~ん、丁度手をつきそうな場所だ。
「……解除」
キンッ!
先ほどと同様、謎の金属音(罠解除成功音)がして、罠があったらしき場所にシュワシュワと煙が上がる。それを確認してシノブさんが戻ってくる。
「ありがと、シノちゃん。それじゃ角の向こうを確認してくるね」
罠を解除したシノブさんと入れ替わりに、ユウコさんが左の壁に近寄って行き、そっと曲がり角の先を確認する。
「………」ちなみに毎回ユウコさんが確認に行くのは、『リーダー』というのもあるが、万が一発見された場合に、そのまま「『仮ヘイト』が『壁役のユウコさん』に向くから」である。
索敵、罠察知に関してだけなら…スキル、ステータス的には、シノブさんの方が適任ではあるかも知れないが、発見されてシノブさんに『仮ヘイトが集中』すると、防御力的にもHP的にも非常に危険である。
曲がり角の先を確認したユウコさんが戻ってくる。
「『山ゾック(斧)』と 『ヒキ蝙蝠』が1体ずつ。まっすぐ10mくらい通路が続いてて、その先はまた左右に分かれてるみたい」
10m…乱入があるか無いか微妙なところだ。
「とりあえず~、『山ゾック(斧)』から倒してけば~大丈夫でしょ~?」
「うん、大丈夫だと思う」
「そうですね」
「……ん」
先ほど曲がり角で、シノブさんが 探知:罠[トラップディテクション]を使用したので、15m範囲に他の罠は無い。10m先の左右の分かれ道あたりまでは安全だろう。
――そんなわけで特に問題もなく『山ゾック(斧)』から順番に片付けた。ドロップは『青銅の斧(通常)』と、『ヒキ肉(レア)』だった。(これより『G』については省略する)
ツカサさんが微妙な笑顔で『インベントリ』に収納する。
そのまままっすぐ北方向に進み、左右の分かれ道にやってきた。俺達は少し手前で待機して、ユウコさんが軽く左右の通路の先を確認して帰ってくる。
「ん~、どちらも緩やかに、こう向こう(北)に向かってカーブしている感じですね」
ユウコさんは手振りで通路の向こうの様子を説明しながらそう報告した。
「どっち行っても~ 同じ感じ~?」
「うん、どっちからでもいいと思う」
「ふ~ん…… それじゃ~『杖』倒して決めちゃおう」
そう言うとツカサさんが、『樫の杖』を取り出して、立てて持って手を離した。”カランッ”と、小さな音をたてて杖が倒れる… う~ん? どちらかというと左寄り? か?
「う~ん、左?」
「まぁ~どっちでもいいんだし? 左から行ってみよ~」
「そうですね」
「……ご~」
「そうだね。それじゃ左から行ってみよっか」
意見がまとまったので、ユウコさんを先頭に左の通路を進んで行く。ユウコさんの言う通り緩やかに右にカーブしている。結構先まで見えているので突然襲われる様な事は無さそうだが、逆に向こうからも、こちらは見つかりやすいわけだから何とも言えないところだ。
「『ヒキ蝙蝠』が…1体ですね」
先頭のユウコさんが最初に『ヒキ蝙蝠』の影を見つけた。シノブさんも特に罠などに反応していない様なので、そのまま『1層一掃作戦(改)』により討伐する。『ヒキ皮』だった。
「ユウちゃ~ん、あそこにドア? っぽいのが~」
ツカサさんが指差す方を見ると、右の壁の先に確かに”木製のドアの様なモノ”が見える。
「部屋になってるのかな?」
「たぶんね~、とりあえずドア? の前で、シノちゃんに罠調べてもらお~」
「……うん」
「そうですね」
何かのドラマの様に調べもせずに、ドアを蹴り破って突入などして、入った瞬間に『落とし穴(ピット)』や、『吊り天井』でもあってはたまらない。
「……探知:罠[トラップディテクション]」
木製のドア?の前までやって来ると、シノブさんが突入前に部屋内の罠をチェックする。
「……15m範囲に罠は無い」
「ありがと、シノちゃん。それじゃ中に何体居るかよね…」
これがドアが無ければ、広間の時の様に壁の影から、こっそり中の様子を
「覗ける様な隙間ぐらいあればいいのにね~」
「ですねぇ」
かなり古びた感じのドアで隙間も無く、ゆっくり開けようとしても大きな音が鳴りそうだ。
「ん~通常状態のまま? ユウちゃんが蹴り開けて~、山ゾック(斧)が3体以上居たら? 来た道まっすぐ戻って~、なんなら洞窟から脱出しちゃおっか」
「そうですね、2体なら大丈夫でしょう。最初から3体以上は危険そうです」
「ん~、入り口からここまで、他にパーティも居なかったし…大丈夫かな?」
他の冒険者やパーティが居る場合にこんな事をすると、『トレイン行為』でMPK〔※2〕をしかねないのだ。
※TJOでは一応は違反行為では無い。画面外で知らない内にモンスターが付いて来ていたりするので、『故意』なのか? 『事故』なのか? 判断がつかないからだ。
(ただし『何度も繰り返す、あまりにも悪質、どう見ても故意である』…と判断されれば処罰対象となっていた。何事にも限度はあるのだ)
またほとんどの場合、POPした場所から”20m”(ゲーム時代の1画面分)も、引き離せば逃走は成功する(モンスターとヘイト等による)。ダンジョンの場合は狭い事もあり、10mほどでただ発見された程度の
「えっと、それじゃ〈通常状態〉のまま、ドアを蹴り開けて…、
①『山ゾック(斧)』が2体以下だったら、「戦うよ」で、すぐ〈戦闘状態〉にして、私はとりあえず近い方のFAを取る。
②『山ゾック(斧)』が3体以上居たら、「逃げて~」で、私もすぐに逃げだす」
「そうだね~、ユウちゃんも急いで逃げてね」
「いいと思います」
「……ユウちゃん、だっしゅ」
突入作戦が決まったので、ユウコさんだけがドアの前に行き、俺達は少し離れて『逃走』と『戦闘』、どちらでも出来るように構える。まぁ俺は(略
「…いくよっ」
すぐ逃走出来るように『鉄の長剣』は腰に差したまま、ユウコさんが思いきり『青銅のブーツ』で、木製のドアを蹴りこむっ!
ドガンッ…と大きな音を立てて、ドアが部屋の中へ向かって勢い良く開いた。
「……………」
?? 中の様子を確認したはずのユウコさんの合図が無い。
「ユウちゃ~ん? どっち~?」
ツカサさんがユウコさんに催促するように声をかけた。
「あ……ごめん。えっと…0体?」
ユウコさんの声を聞いて、近寄って部屋の中を覗いてみると……
そこには『ヒキ蝙蝠』が3体、地面でぼ~っとしていて、2体が天井にぶら下がっていた。
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LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:525G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×5、バリ好きー(お得用)70%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧
〔※1〕TJOにおいて、
『最初の攻撃』を、『ファーストアタック』(略されてFAと呼ばれている)という。そして『トドメの一撃』を、『フィニッシングブロウ』(略されてFBと呼ばれている)という。これらはどちらも討伐時に『経験値ボーナス』が加算され獲得できる。
戦国時代などにおいての『一番槍』や、『首級をあげる、首を取る、討ち取る』といった行為に相当する…と考えていただくとイメージしやすいかと思われる。
〔※2〕トレイン行為とMPK(モンスタープレイヤーキルorキラー)
『トレイン行為』とは、大量の『アクティブモンスター』などを、引き連れて移動する行為である。その様子が「”電車ごっこ”みたいだから?」…らしいが諸説ある模様。
『MPK』とは、そうして引き連れて来たモンスターを、他のプレイヤー等に
TJOで例を上げると、北の森でイルカモネ山猫LV5に遭遇し、そのまま街の付近まで引き連れて
そうすると突然
『PK』が(プレイヤー自身の手で)他プレイヤー(P)を殺害(K)する行為であるのに対し、『MPK』はモンスター(M)により、他プレイヤー(P)を殺害(K)させる行為なのである。
TJOでは一応POPした場所からは、原則あまり離れないようになっているので、実際には北の森から、街の入り口までプレイヤーを追いかけては来ない。ただしイルカモネ山猫は『他モンスターを襲う』という習性に設定されているので自発的にはやって来る。
「ご主人さま~、まだ にげないの~?」
「いいんだよっ、最悪を想定して最善を尽くすんだよっ」
「んん~?」
>うかつにドアを開けて山ゾック(斧)が100体とかいたら、どう考えても全滅する。(キリッ
「……恥ずかしっ////」
「ご主人さまは、はずかしいの~??」
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