045 自由の代償、†カムイ†に何が起こったか <04/05(金)AM 05:16>
出会いの街[ヘアルツ]南口1方面で、『MPKもどき』のプレイヤー(†カムイ†)を、『盗ゾック(斧)』LV8先輩に任せて街に逃走し、そのまま睡眠をとった俺は、翌日の朝4時頃に起床して、確認のため現場に戻った。
そこで、†カムイ†の遺産の『袋』と、『賞金首の首輪 懸賞金:84,000G』を入手した俺は、予定通りに、南(↓)の川沿いから東(→)の亀裂付近を通り、北(↑)の石壁に沿って、素材収集と宝箱探しをして南口1の門へと帰りついた。
まずは俺の朝飯からだな、まだ早朝で薄暗いのだが「鉄は熱いうちに」、「お祝いも出来るだけ早く」だ。南口1前の広場には人影は無い、そのまま北に進み ミスターチキン[ヘアルツ]店へ向かう。
……はいはい、
「おっさん、ササミカツ丼だ」
「ササミカツ丼だな、500Gだ」
500Gをテーブルに置くと、分身体の様な量産型おっさんが「4」と書かれた木製の番号札を渡してくる。「4」番は…末吉だったかな?。
ふむ、そう言えば昨晩は「1」番だったなぁ。ん~、『盗ゾック(斧)』LV8先輩に運良く? 遭遇して、†カムイ†に襲われて逃走し、ダメージと回復量のデータが取れ、しかも結局は大吉以上の大儲け、と…うん、大吉の上に来るモノ、『バリ吉』だな。「1」番は、バリ吉。
そんな事を考えつつ、やって来たササミカツ丼を美味しくいただき、ミスターチキン[ヘアルツ]店を後にした。
ミスターチキンを出てすぐの場所には、多くの露天があり『
まぁ『良い成果』があった後に、しっかりお楽しみの時間があるのは良い事だろう。ただ…ミケネコさんに足元で ぐねぐね蛇行されると、本当に歩きにくいんですけど。
「1つもらおう」
「羊饅頭、1つ300Gだよ」
前回と同じ量産型おばちゃんに300Gを支払い、小さな紙袋に入った羊饅頭を受け取って、インベントリに放り込む。
「毎度~」
約束通り『羊饅頭』を購入したのでUターンして、足元のミケネコさんを踏まない様に気をつけながら宿屋に向かう。宿屋前の量産型おっさんをスルーして、受付の量産型おばちゃんに鍵を貰い、借りている部屋に戻る。
ざっと部屋を見渡したが異変も無さそうなので、椅子に腰掛けてミケネコを机の上に呼ぶ。『インベントリ』から紙袋を取り出し、ホカホカの羊饅頭を一口分ほど ちぎって、かぶりついた。
う~ん、『真・羊饅頭』は、生地がもちもち、しっとりで、中の餡は、肉汁たっぷりでジューシィだ、タケノコ? のシャクシャク感もやはり良い。
ふと良い笑顔の饅頭ひつじが「ウメェ~」と鳴く姿が思い出される。…くっ、殴りたい。
「ご主人さま~ぁ」
ミケネコさんが「待ちきれないよ~」とばかりに、机の上の俺の左手を、右前足でトントンと叩いて催促してきた。いかんおあずけをするつもりは無かったのだが…。
「すまんすまん」
せっかくアツアツなのだが、ミケネコさんは『猫舌』である。昨日と同様に包んでくれた紙袋を広げ、その上に羊饅頭の中身の
指先で少し触れて温度を確かめてみる。ひつじまんとう?(不確定名)が出来たかな?
「はい、どうぞ、熱いかも知れないから気をつけてな」
「きをつける~」
ミケネコは慎重に顔を近づけて、舌でペロペロと餡の温度を確かめながら、少しだけハグッハグッと口にした。
「ひつじまんとう、おいし~♪」
ミケネコさんは満足そうだ。俺は残ってしまったもちもちしっとりの外側の生地を、さっさと食べてしまってから、『インベントリ』から バリ好きー(お得用)の袋を取り出す。
袋に手を入れて掌に小盛りにしてから、ひつじまんとう?(不確定名)、を食べている最中のミケネコさんの前に、バリ好きーも差し出す。
「ほら、こっちもあるぞ」
「やった♪」
ミケネコさんは、ハグハグ、カリポリ…と大忙しだ。大変しあわせそうなので何よりである。バリ好きーの袋は、さっさとインベントリに戻す。
さて……と、俺は「オプション設定」、「処罰」と念じる。
《損害に対する対応を選択して下さい。残り2件》
《ブラックリスト登録と処罰をする場合は、先にBL登録を行って下さい》
(※ブラックリスト=迷惑プレイヤー登録)
《名:†カムイ† 損害:負傷 処罰 BL登録 許す <保留> 07:39前》
《名:†カムイ† 損害:負傷 処罰 BL登録 許す <保留> 07:40前》
…「†カムイ†」を「BL登録」と念じる。そこっ、BLと聞いて変な反応しない。この作品のキーワードに無いですよ? …まぁそんな事はどうでもよい。
《†カムイ† をブラックリストに登録しますか? yes / [no] 》
《ブラックリストに登録すると、相手からの全てのアクション(発言、ささやき、取り引き要求、パーティ勧誘等)が無視されます》
全く問題無いので すぐに「yes」と念じる。
《†カムイ† をブラックリストに登録しました。》
《解除するには、ブラックリスト一覧から行って下さい。》
《損害に対する対応を選択して下さい。残り2件》
《ブラックリスト登録と処罰をする場合は、先にBL登録を行って下さい》
《名:†カムイ† 損害:負傷 処罰 許す <保留> 07:39前》
《名:†カムイ† 損害:負傷 処罰 許す <保留> 07:40前》
…「†カムイ†」、「処罰」と念じる。
《†カムイ† を処罰しますか? yes / [no] 》
《処罰後に取り消しは出来ません。また処罰するとリストから削除されます。》
これも全く問題無いので すぐに「yes」と念じる。
《†カムイ† を処罰しました。》
《損害に対する対応を選択して下さい。残り1件》
《ブラックリスト登録と処罰をする場合は、先にBL登録を行って下さい》
《名:†カムイ† 損害:負傷 処罰 許す <保留> 07:40前》
同様に、もう1件も「処罰」して、終了する。そして、所持品の『賞金首の首輪[†カムイ†]』を確認してみると……
懸賞金:84,000G →懸賞金:94,000G
よしよし、しっかり処罰2回分、懸賞金が増額されている。首輪に”引き渡し期限”等は無い。つまりデスペナルティ対策としても、優秀な『換金アイテム』なのである。まぁ『冒険者ギルド』でしか換金出来ない…という欠点はあるが、些細な事だろう。
ハグハグ、カリポリ…アグアグ……
「………」それでは、昨晩からの一連の『†カムイ†事件』の解説といこう。
まず俺は、『盗ゾック(斧)』LV8との戦闘中に、突然末期色の†カムイ†に斬りかかられた。この瞬間、
『イエローネームで末期色』だった、『LV14 †カムイ† 双剣使い見習い』
は、『累積ペナルティ』により、イエローネームの許容範囲をオーバーし、
『レッドネーム』の、『LV14 †カムイ† 賞金首:168,000G』
へと『強制転職』させられる。
TJOの1000職の中で『最弱』である『賞金首』に、『強制転職』させられた†カムイ†は、それまでの『みならい戦士』と『双剣使い見習い』の職補正、職ボーナスが全て失われる。
そのため、俺への『双剣使い見習い』での、最初の1撃は『35%のダメージ』であったのに、『賞金首』での2撃目を食らっても、HPが『半分ほど』にしかならなかった。
つまり、2撃目ではたったの『15%』しかダメージを食らわなかった…のである。
(『斧』攻撃や、クリティカルを食らうとマズい…というのは『盗ゾック(斧)』LV8先輩の話だったわけだ)
その後、俺だけが『逃走が成立する地点』に逃げ出したため、『盗ゾック(斧)LV8』先輩にとって、『自分の戦場に居る
LV14の『双剣使い見習い』だった†カムイ†にとって、『盗ゾック(斧)』LV8は雑魚であったろう、…だが、
>ゲーム時代、大まかな目安として、昇格すると「約 5LV分程度の強化に匹敵」する、と言われていた。
…ように、『みならい戦士』と『双剣使い見習い』、という2つ分の職補正、職ボーナスが消失してしまった†カムイ†は、一気に2ランクも降格し「約 10LV分程度の『弱体化』に匹敵」してしまった。
とは言え、武器、防具などはそのままだった様だし(高級装備などは、『降格』により装備要求を満たせなくなる事がある)6~8LVダウン相当くらいだろうか。
つまり、LV14『賞金首』の†カムイ†と、『盗ゾック(斧)』LV8は、あの時点でほぼ同等の戦闘力になってしまっていた……と思われる。
しかし最初の一撃、『斧』による『切断&衝撃系』の攻撃を、『無防備に』、『背後から』、まともに食らった『賞金首』(運(LUC)マイナス補正)の†カムイ†は、『不幸』にも『クリティカルヒット』を貰ってしまい、戦闘開始から大きなハンデを抱えてしまった。
それでも最後に聞いた†カムイ†のセリフから、『まだ『盗ゾック』先輩を
TJOでは、『賞金首』は『西部劇の手配書』などと同様、『DEAD or ALIVE』、つまり「生死を問わず = 生きたまま捕まえるか、無理なら殺せ」である。しかしTJOでは『逮捕だと賞金満額』支払われるのだが、『殺害だと賞金半額』になってしまう。
だがTJOプレイヤー的には、逆に『逮捕、連行すれば、現金になるが2倍貰える』という認識であった。HPを調整して『逮捕』しようとするより、殺してしまう方が楽だし、『連行』などの面倒な作業をしなくて済む。
何より先ほど述べた通り、『賞金首の首輪』は『換金アイテム』として優秀なのだ。現金で支払われる『逮捕』より、殺して『賞金首の首輪』を入手して、『換金アイテム』を確保しておきたい……というプレイヤーも多かった。
『賞金首の首輪』は入手後72時間ほどの間は、『処罰』により懸賞金が増額される事がある。先ほど俺がやったのも『処罰』して増額させたわけだ。処罰する権利? は72時間で失われるため、その後は増額される事は無い。
例によって? たまたま今回は『俺が首輪を拾って』、『俺が処罰した』から、俺の所持する『賞金首の首輪』の懸賞金が増額され、ダイレクトに『俺が得した』のだが。
本来は、『イエローネームを悪化させ社会復帰しづらくする』、『累積で赤ネームにする』。『懸賞金を増額=時効を延ばし、逃げきれにくくする』、『保釈金を増やし、保釈されづらくする』、『強制労働期間を延ばす』…と、『被害者が加害者を罰するため』の仕様である。
さて、死んでしまったので、俺が貰える懸賞金は半額となったが、†カムイ†が1週間後に払う『保釈金』は、『元の懸賞金』の2倍、つまり俺の貰える『半額の懸賞金』の4倍、376,000G である。
>そもそもこの世界で悪事は割りに合わない。神罰では無いがペナルティが重すぎる。悪人や犯罪者には厳しいヤマコウクオリティ。
…なのである。TJOは自由度が高い。しかし善には恩恵を、悪には罰をしっかり与える。誰の言葉か忘れたが「『皆がやってる』、『皆がやらない』事には理由がある」のだ。
TJOの世界(似た世界)で、ヤマコウ〔※1〕を甘く見てはいけない。
「いっぱい しあわせ~♪」
ふと気がつくと、ミケネコさんが、ひつじまんとう?(不確定名)と、バリ好きーを食べ終えて、全身を丹念に毛づくろい していた。毛づくろいが終わった後、満足そうなミケネコのアゴの下を、しばらくの間コショコショしてやった。
-------------------------------------------------------------------------------
LV:10(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:7,275G
武器:なし
防具:布の服
所持品:10/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×24、バリ好きー(お得用)90%、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ、賞金首の首輪[†カムイ†]懸賞金:94,000G
〔※1〕TJO総合統括プロデューサー 山岡 光一 ヤマコウ(通称)(CV:小山力也)
長所短所、メリットデメリット、リスクリターンといった事を重要視する。
彼の理念により、ただ得する、ただ損する、何のリスクも無いのに強力、苦労したのに儲けが無い…などといった『理不尽さ』が、ほぼ存在しないゲーム性となっている。強力な攻撃、効果には必ずなんらかのリスク、代償を伴う。
またゲーム内、ゲーム外を問わず、悪事、犯罪行為には厳しい。過去作でも迷惑行為、RMTチートbotなど、容赦なくBANしてきた実績を持つ。
「ご主人さま~、とうそうが せいりつするちてんってなに~?」
「そうだな…『繋がれた番犬』みたいな感じだ」
「ばんけん~?」
「あぁ、20mのゴム製のロープで繋がれた番犬だ。憎しみ(ヘイト)が低いと、その20mで追いかけるのをヤメて、犬小屋(出現地点)に帰っていく」
「へいとが、たかいと~?」
「ヘイトが高いと、20m過ぎても そのゴムを引っ張って、『怒りの力で20m以上追いかけてくる』、…みたいな感じだな」
「いかりがうちょうてん、なんだね~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます