012 不安 <04/02(火)22:02>
ここ はじまりの街[スパデズ]の『クリスタル』周辺には、
北側に『冒険者ギルド』、東側に『武器屋』、西側に『道具屋』、南側に『宿屋』がある。
(ついでに北西には『ペットショップ』がある)
宝箱、素材収集を切り上げて東口から帰ってきた俺は、『武器屋の看板裏』の辺りで腰を落として、ミケネコをあやしていた。
「ご主人さま?」
フィールドから早足で帰ってくるなり、突然腰を落としてかまわれだしたミケネコが、わけがわからず不審そうな顔で俺を見ている。
「しっ、この後でバリ好きーやるから」
「やった♪」
「………」急いで帰ってきてここに着いたのが 21:59分、さらにあれから3分経っていた。『遺産』を拾ったのが 21:56分、仮にあれが死亡した直後だったとして6分経っている。
>青ネームだと2分、白ネームだと5分、黄ネームだと10分、赤ネームだと15分である。
つまり、青か白ネームならとっくに復活しているはずだが、『ユータロー』はあらわれない。想像通りに黄か赤ネームだと、そろそろ復活してもおかしくない…のだが。
死ぬとどうなるのか? ゲームと同じ様に『復活出来る』なら少しは気が楽になる。
無心にミケネコの頭や背中、アゴの下をコショコショ、ワシャワシャしながらも、視界の端ではクリスタル前をじっと監視していた。
仮に死んだ直後だったとして…21:56分に死亡。現在は22:02、
白ネームだったとして5分のペナルティで22:01分、これはもう過ぎた。
黄ネームだったとして10分のペナルティで22:06分、
赤ネームだったとして15分のペナルティで22:11分、ここが最終復活ラインだ。
あと9分以内に黄ネームか赤ネームの『ユータロー』があらわれてくれれば……
「ご主人さま、ちょっといたいよ~」
「すまん」
緊張からか、いつの間にか手に力が入りすぎていた様だ。軽くサラ~っと撫でるようにすると、ミケネコも気持ち良さそうに目を閉じた。うん、猫っぽい。
そのままクリスタル前を注視する。色々な状況が考えられるが、『シマブタ』LV2に負ける程度で他プレイヤーの殺害(PK)が出来るとも考えにくい。大量の悪事を行えば『累積でレッド化する』というのも不可能ではないが…
やはりせいぜい黄ネームだったと考えるのが妥当だろう。黄だとすると残りは4分か。
ちなみに『シマブタ』LV2とは、東口付近を主にナワバリ?とする はじまりの街[スパデズ]周辺で、2番目に弱い『非アクティブモンスター』である。
ミドリとクロの縞々な丸々太った小さめの豚。戦闘中たまに転がって攻撃してくるのだが、その姿は夏の果物の代表とも言えるアレである。
通常ドロップが『
たまたまだろうが、『ユータロー』どころかクリスタル前に誰も現れない。
「やはりこの世界では復活出来ないのだろうか…するとユータローは本当に?」
…気持ちを落ち着かせるようにミケネコの背中を撫で続ける。ミケネコの尻尾は時折フイッ、フイッと揺れている。誰かが見ていれば「アイツ猫大好きすぎるだろwww」とか思う事だろう。あまり目立ちたく無いのだが。
視界の右下の方へ意識を向けると<04/02(火)22:06>と表示されていた。自然と表情が曇る。
ふと見ると白ネームの女性プレイヤーが、早足でやって来てクリスタルに触れている。当然『ユータロー』では無い。何か不満だったのか、しばらくクリスタル前で首をひねっていたが、ため息を一つつくと南の方へ歩いていった。宿屋か食事に向かったのだろう。
「………」そう言えば昼飯以降、『干し肉』を1切れ食べただけだったが、あまり空腹とかは感じない。ミケネコ同様に食べても「しあわせになる」だけなのかもしれない。
しかしミケネコさんほど夢中では無いが、ササミカツ丼は美味かった。ステータスも上がるし朝飯と昼飯は食べるべきかもしれない。晩飯は…遅くなった場合ステータス上昇は意味が無いし、何か特別な事、良い事があったら、とかでいいかもな。
「がんばった自分にご褒美 (・ω<) 」
「あ…」
「ご主人さま?」
目を閉じて撫でられるがままにしていたミケネコが目をあけてこちらを見上げてきた。
「あぁ、なんでもない」
「………」そうか、ササミカツ丼か…そう言えば、元々ゲーム時代も適当に初めてササミカツ丼食べて、探索に出たら宝箱見つけたんだった。それから『ゲン担ぎ』みたいにササミカツ丼ばかり食べて探索に出て、そうしたらその後ササミカツ丼に、『MAXHP上昇効果(一定時間)』がある事を知って、ますますササミカツ丼漬けになって…。
今回またいきなり宝箱見つけちゃったな…『インベントリ』の『鉄の長剣』の事を思い出した。まぁ美味しかったし今回もササミカツ丼漬けでも悪くないか。
視界の端で見ているクリスタル前に、白ネームの男性プレイヤー2人が歩いてやってきて、それぞれクリスタルに触れている。
1人が右手の拳をグッと握ると、もう1人が親指を立てて祝福していた。LVUPしたのか転職、昇格条件を満たしたのだろう。彼等も『ユータロー』では無い。
視界の右下の方へ意識を向けると<04/02(火)22:10>と表示されていた。かなり絶望的だ。そもそも復活する場合はクリスタル前に、某お空のお城の王女様の様に、空からゆっくりと降りてきて、何事も無かったかのように光りながら着地して復活するはずなので、早足や歩いてやってきた時点で、おそらくユータローでは無いのだが…それにこの間に、ユータロー以外の他の復活者も現れないので、ますます表情が曇る。
視界の右下の方へ意識を向けると<04/02(火)22:12>と表示されていた。
…少なくともユータローは現れなかった。このままここに居る意味は無い。
「道具屋に寄ってから、宿屋に帰ってバリ好きーにしよう」
「ご主人さま……」
沈んだ様子で立ち上がった俺を見て、ミケネコが心配そうにしている。
「…大丈夫だ」
「だいじょうぶそうに見えないけど……」
ミケネコが心配そうにヒゲをピクピク動かした。
そうしてしばらく『武器屋の看板裏』で腰を落としていた俺は、周囲に人影があったため、クリスタル前を素通りして、とりあえず『道具屋』に向かった。
少し歩くと道具屋の前に着いたが、先ほどから時刻がわかりにくかったので、道具屋の前でオプション設定から、時刻表示を『AM/PM表示』に変更し、満足して道具屋に入った。
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LV:1(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:1,520G
武器:なし
防具:布の服
所持品:4/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)85%、鉄の長剣
「ご主人さまも、すうじがわかりにくかった?」
「あぁ、むしろ針で表示してほしいくらいだ」
「はり?」
「表示されたらされたで邪魔になりそうだが」
「ふ~ん?」
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