085 てんき? <04/12(金)AM 08:54>


 出会いの街[ヘアルツ]に来て8日目、このTJOに来て11日目の朝食後。

 この世界において『停滞した日々は、やはり悪である』…という事を再び痛感した俺は、初心に戻り、挑戦チャレンジ開拓フロンティアを求めて宿屋を飛び出したのだった。



◆◆◆ 出会いの街[ヘアルツ] 『主要街路』イメージ図 ◆◆◆

(※東1、南1の十字路の中心にクリスタル)


  2 1

  北北

2西╋╋東2

   ┣┫

1西╋╋東1

  南南

  2 1



 「………」さて決意も新たに宿屋を飛び出したのだが、俺だって停滞したくて停滞していた訳でもなく、やはり挑戦チャレンジと蛮勇、無謀は違うわけで……


 『シーシュボッチ』LV42君は、現状では致死率100%と言っていい。

 仮に『狂戦士』のケイであっても、鋼の肉体[ボディオブスチール]の限界、「140%以上のダメージを受ければ、上限の40%までカットされても、残りが100%を超えるため即死する」…で即死だろう。

 LV差もあり、うえ『防御貫通攻撃』なため、盾や防具、等も役に立たない。『復活出来るか怪しい』というのも相まって打つ手無しだ。


 [盗賊のアジト]以外のダンジョン……

 まずの[夢の洞窟]は『無い』。

 となってしまい、ほぼ踏破してしまったし、全モンスターとであるため、もはや俺にとって旨みが無さすぎる。

 一週間ほど経ったので、宝箱はかなりリポップ再POP、再出現しているとは思うが……それも先客が居れば、どうかはわからないのが、このTJOだ。

 それでも普通の――例えばヒイラギやケイであれば、『モンスターを倒せば経験値も入る』し、『罠や宝箱等の探知、解除での経験値も入る』、『ドロップアイテム、G等も稼げる』…のだが、生憎と俺のプレイスタイルだと、そういうの様にはいかない。


 滝の裏側のダンジョン[虹の洞窟]は、以前言っていた通り、LV50。つまり例の『LV50になっての強化』…がされてからで無いと厳しい。

 これは、この[虹の洞窟]が『最初のLVキャップ時(最大LV50時)』の、『エンドコンテンツ〔※1〕的な扱いのダンジョン』であったためだ。

 「最高レベル(当時の)になって、どこ(フィールド、ダンジョン)も楽勝www。やる事無くなったわーwww」…とならない様に、LV50パーティでも苦戦する程度…の手応えのある難易度になっている。


 まぁそんな『高難度ダンジョン』がすぐ近くに存在している… しかし手も足も出ない…「よーし強くなったら挑戦するぞ」みたいな感じだ。『高難度ダンジョン』が山奥や地底深くばかりだと面白くないしな。

(※余談だが、初代ドラ食う、である『龍帝の城』が、「すぐ目の前に見える」というデザインも、そういった意味あいがあったとか)



「ご主人さま~」

 ふと見るとかなりの人ゴミだ。ふらふらと長考しながら無意識にクリスタルに向かっていた。イカンですよ。将来は徘徊するお年寄りになってしまう可能性大。


「あぁ、助かる」

 とりあえずミケネコさんが踏まれない様に、ひょいと肩の上に乗せる。

 「………」せっかくだしクリスタルに触れておくか、ここまで来て引き帰す方が不自然だしな。


 俺は空気の読める男(多分)。そのまま流れにそって歩いて行き、他のプレイヤーと同じ様にペターっとクリスタルに触れる。

 そして「あれ~?」…という風に首を傾げながら『東口1』の方へと去っていく。落胆しながら歩く俺の目の前にシステムメッセージが表示され、ファンファーレが頭に響き渡る。


《おめでとうございます!LVが上昇しました! LV16 →LV17》



 ………あれぇ~~?


 「………」ここで…… ですか?

 そう言えば朝の部で、『孤独のウルフ』LV13さんに『遭遇(10m範囲に接近する)』して、まだクリスタルに触れて無かったな。

 『孤独のウルフ』LV13×3体分だけで、それほどの経験値ボーナスでは無いだろうし、どうやら「あと少しでLVUP」というところだったのか。

 …この一週間の『斧苦行』は無駄では無かった (ノД`)



 ……そんな風にLVUPについての分析と、を噛みしめながら、日課? の募集チェックをするべく『東口1前の広場』の方へと歩いていると、突然『ささやき』が飛んできた。


(ヒイラギからのささやき)「おぅ、おはよう。あ~[夢の洞窟]ではサンキューな」

 「………」おぉっ? 噂? をすれば…のヒイラギだ。


(ヒイラギへささやき)「おはようございます。こちらこそ助かりました」

 「………」実際[夢の洞窟]ツアーはなので、あの時の募集を見送ったり、見逃していたら、現在は[盗賊のアジト]と、[夢の洞窟]ツアーのW(ダブル)募集探しをしていたかもしれない。


(ヒイラギからのささやき)「それでな……あ~なんだ… 知り合いが回復出来る奴を探しててな……。まぁそれでマサヨシを紹介したいんだが、今晩は暇か?」

(ヒイラギへささやき)「えぇ、暇ですけど……、条件とか大丈夫そうですか?」


(ヒイラギからのささやき)「あ~は問題無い。ケイと同じで、「とにかく回復さえしてくれりゃいい」…だそうだ」

(ヒイラギへささやき)「はい、それなら…」

(ヒイラギからのささやき)「お~、そうか! それじゃぁ、「今夜11時に、はじまりの街[スパデズ]近くの石橋」に行ってやってくれ。詳しい話はその時に本人から直接…だそうだ」

 「………」詳細は不明か…… しかし何にしろコレは、待ちに待った『転機』ですもんね。乗るしかないっ、このビッグ? なウェーブに!


(ヒイラギへささやき)「了解しました」

(ヒイラギからのささやき)「あ~…… まぁ…誤解されやすい奴だが、白ネームだし悪い奴じゃねぇから。そんじゃまたな」



 最後に少々気になる事を言ってヒイラギの『ささやき』が終わる。…とは言え全く知らない相手の募集に参加するより、知人から紹介される方が少しはマシだろう。


 「………」俺はゲーム時代から、基本的に『青白ネームであれば、とりあえず善人』として対応する事にしている。理由の一つとしてTJOは『ルールや仕様が複雑』で罰則が重く、実のところ青どころか『白ネームを維持する』のも結構気を使うし大変だからだ。


 スタートは皆が『白ネーム』であるが、いい加減で自分勝手な常識の無いプレイをすれば、すぐにも『黄色ネーム』になってしまう。

 はじまりの街[スパデズ]では『白ネーム』が大半であるが、出会いの街[ヘアルツ]ではチラホラと『黄色ネーム』を見かける様になり、以降の第3、第4の都市では結構な割合で『黄色ネーム』を見る様になる。


 しかしこれはゲーム時代、しかも末期で… ほとんどのプレイヤーがルールやセオリーを理解している(もはや新規のプレイヤーが少なく、いわゆる『古参プレイヤー』が職に不満を持ち、育ったキャラクターを削除し、最初からやり直していて はじまりの街[スパデズ]で低LVであってもTJO熟練者が多い)……様な状態での話だ。

 どうにも「TJO初心者?」…と見られるプレイヤーが多い現状では、『青白ネームプレイヤー』の信用度は更に高まっていそうに思える。


 無論『ゲーム内のルール』を守る『青白ネーム』であっても、強欲だったり協調性が無かったり自分勝手なプレイヤーはいるだろう。

 しかし疑ってるとキリが無いし、疑ってばかりいては『良いプレイヤー』と出会った時に、に見えてしまい、良好な関係を結べないかもしれない。


 そんな訳で『とにかく『青白ネーム』であれば友好的』に接し、勝手な行動や、ドロップや宝箱(内のアイテム)の持ち逃げ、根拠の無い他プレイヤーへの誹謗中傷等、「このプレイヤーはダメだ」と思ったら早めに離脱、BLブラックリスト登録して以後関わらない……という形に落ち着いた。

 当然その一回は『宝箱等のアイテムを持ち逃げされたりして損をする事も多い』のだが、まぁそれで「そういう相手を見つけ出し、早めに縁を切れた」と考えれば、ある種の『悪人鑑定アイテム』を使用した様なモノだ。

 我慢して同行した挙句、ダンジョン最深部で囮にされ、自分を置いて逃げ出される……等の危機的状況にされるより、軽微な被害で済む分マシである。



「ご主人さま~?」

 右肩に乗せていたミケネコさんが、ペシペシと俺の頭を叩いている。


「あぁすまん、今晩『回復役』として誘われた。それで――」

 「………」『今晩11時』って事は、か、それに近い事だろうな。深夜に『はじまりの街[スパデズ]の石橋』という事は、あまり目立ちたく無いのだろう。


 あそこは初級冒険者が安全に移動したい為、日中は多くのプレイヤーで賑わうのだが、危険な深夜にあの辺りはうろつかない。

 また饅頭マントウひつじ』を狩ったり、[盗賊のアジト]へ行くのなら、集合は出会いの街[ヘアルツ]の『東口1前の広場』で良いはずだ。

 胡散臭うさんくさい、胡散臭いが… 『儲け話』というモノは、往々にして胡散臭いモノだ。大っぴらに出来ない、したくない話… 望むところである。



「それで~?」

「夜11時だから徹夜になるかもしれない。『睡眠ペナルティ』で途中でHP/MPが回復しなくなっては困るから、『夜8時頃から1時間ぐらい』…と、昼間にもいくらか仮眠を取っておく」

「いっぱい かみん~」


「まぁ徹夜は結構辛いからな、『総睡眠時間』にも配慮だ」

「はいりょだ~」

 「………」実際『ゲーム時代』と違って、疲労? 的なモノの扱いが不明だ。

 ゲーム的には『24時間毎に1時間』睡眠を取っていれば、回避出来る。しかし仮に「そんな生活を続けて、本当に身体に悪影響が出ないのか?」というと、また別の問題な気がしている。


 恐らくだが… ゲーム時代の仕様だけ考えて、そういう『廃人的プレイ?』をしている者も居る様な気がするのだが、「どちらが正しいのか?」は分からない。ただので、俺は『無意味な、無駄な事を心配をしているだけ』かも知れない。


 まぁ結局はいつものヤツだ。『何も無ければそれでいい。最悪を想定して、なるべく最善と思える事をやる』。

 例えば…何年か「1日1時間しか睡眠を取らない廃人プレイ」をして、数年、数十年後に身体等に何らかの取り返しのつかない深刻な悪影響が出た場合、その時には恐らく…『もう何も出来ない、どうしようもないような状態』だろう。

 『何かする』なら『今』やっておくしか無い。結果が出てからでは遅いのだ。


 そんな訳で、『8時間程度の睡眠』を取り、三食取り、水分も適度に取る。まぁ食事内容が偏りすぎているが―― 『丼』なので最低限のたんぱく質、炭水化物、ビタミン? も適当に取れている……多分。


 ……考えている内に少し不安になってきたな。

 直後に『探索』等をしない時は『食事効果』を考えなくていい訳だし、『名物料理』みたいなのを積極的に食べるか? …野菜も取れて無いし。


 カレーとか? じゃがいも、たまねぎ、ニンジン……と自然に野菜がとれるし、ポークカレーならビタミンB1も… いやいやそこでチキンカツポークカレーですよ? …待てよ? トッピングに卵を…



「ご主人さま~?」

 右肩のミケネコさんが、両前足で交互に”ぷにぷに”と俺の頭を押している。


「よしっ、それじゃ今日は『募集探しは無し』で『プレイヤーショップ巡り』と仮眠。そして『夜の宝箱、素材収集』をして仮眠。起きたら晩飯食って石橋行きだ」

「は~い」

 色々と、どうでもいい事を考えつつも、本日の方針を決定した俺は、そのまま『東口1前の広場』まで行き、さっと募集を確認してから、引き返して『プレイヤーショップ巡り』へと繰り出すのだった。



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LV:17(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:19,726G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 干し肉×16、バリ好きー(お得用)65%、樽(中)100%、コップ(木)、初心者用道具セット(小)、鋼のナイフ、鉄の斧、サクランボ×1、鬼王丸×2



〔※1〕エンドコンテンツ

 『オンライン』、『オフライン』を問わずRPG等で、メインのストーリー(ラスボス)終了後などに、引き続きゲームやゲームの世界を楽しむための要素である。

 100階あるいは1000階にも及んだり、ランダム生成される事もある高難度ダンジョン。ラスボスより強い雑魚モンスター、即死トラップ、レアな装備やアイテム等々… 基本的には『メインストーリー攻略済み』…である者を前提とした調整がなされている。

 ゲームによってはストーリーこそがで、この『エンドコンテンツがメイン』というモノも少なくない。

※古のゲーム「魔法使い」などは、ラスボスの10層のおっさんはLV10程度で倒せてしまうが、その後も延々とレアアイテム集め、LV上げ等を楽しむ事ができ、末期にはLV数千の『全裸のクビ狩り忍者』が、我が物顔で迷宮内を闊歩する―― 『異界』と化す事もあった…と伝えられている。ワッショイ!



「ご主人さまが やるきになった~」

「あぁ、ようやくやってきた転機…かも知れないからな」

「てんき?」


「まだどちらに転ぶか? 分からんが」

「ころぶ~」

「まぁ停滞よりマシだろう」

「ましまし~」

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サウザンド・ジョブ・オンライン ~あるみならい僧侶の話~ アヤマチ☆ユキ @MistakeSnow

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