043 賞金首 <04/04(木)PM 10:12>



 出会いの街[ヘアルツ]南口1方面で、『盗ゾック(斧)』LV8先輩の、ぶつかり稽古かわいがりを受けていた俺は、『南口1方面』よりも強力な敵の配置されている『南口2方面』からやってきた、1人のプレイヤーを発見する。

 そのプレイヤーネームが、真っ黄色まっ・きいろ末期色まっき・いろ、つまり『極悪人』である事と、こちらの様子をうかがっている様なから、『MPKもどき』であると推測、TJOの洗礼を授ける事にしたのだった。



◆◆◆出会いの街[ヘアルツ]『主要街路』イメージ図◆◆◆

※東1、南1の十字路の中心にクリスタル


  2 1

  北北

2西╋╋東2

   ┣┫

1西╋╋東1

  南南

  2 1



 「………」TJOの洗礼を授ける…とは言うものの、下手に恨みを買う様な真似は避けたい。あくまでも俺は、出会いの街[ヘアルツ]に『来たばかりの初心者』で、『たまたま』、『偶然』、『運悪く』、『そうなった』……様に見せかける必要がある。


「ミケネコ、これからは、何も話さないようにな」

「は~い?」

 とりあえず不安要素? でもある、ギルドカードの中のミケネコさんの口を封じておく。収納していたのも良かったな、印象に残りづらいだろう。



 さて、当然俺は今も『盗ゾック(斧)』LV8先輩の、ぶつかり稽古かわいがりを受けている最中である。と言っても、今は『斧』による切断&衝撃系攻撃どころか、打撃、衝撃系の攻撃である『ショルダータックル』も食らわないように立ち回っている。

 これも、もう何度も『祭』と『MP回復』を繰り返して、ある程度の『間合い』や『パターン』など、を理解してきていたから出来る芸当で、初遭遇の時にはなどもあり、こんな余裕は無かった。


 とりあえず逃げ回りながら、一度目の休息の後で突き立てた、の『目印の棒』の位置を確認する。

 あそこは既にPOP(出現)地点から、20mほど引き離した場所(推定)である。目印の棒から、もう何mか離れれば、これまでの様に逃走は成功(成立)する(はずだ)。

 これも俺が攻撃していない(FAを取っていない)からであって、攻撃を加えて憎しみ(ヘイト)が上昇していると、「どこまで追いかけてくるか?」は、運?とモンスターの気分(憎しみ、怒り)次第になる。



 突然、『盗ゾック(斧)』LV8に襲われて、攻撃を食らわないように逃げ回っている初心者、……そんな風に見せかけつつ、場所を調整しながら『目印の棒』付近に位置取る。

 まだ逃走に地点…に吹き飛ぶ様に慎重に位置を調整し、


「DORYAAAA…」

 『盗ゾック(斧)』の繰り出した『ショルダータックル』が、避けきれなかった……かの様に食らう。右半身に、ズドーンッ…と、重量級のゴツい肩が激突する。


「うわあああぁぁぁ……」

 何度も食らったとはいえ、衝撃は大きいし、やはり『痛い』ものは痛い。しかし調整通りに『目印の棒』から少し離れた地点ほどに吹き飛ばされて転がった。

 まだ、『戦闘エリア内(推定)』だ。


 「………」ちなみにササミカツ丼の『MAXHP上昇10%』効果が完全に切れた後は、推測した通り40で、これも治癒魔法[ヒーリング]1回で、確実に全快出来る事は確認している。



「ああぁぁっ……ち、…ちゆ…治癒魔法[ヒーリング]」

 ……まぁ、もう幾度も『祭』を繰り返しているので、焦りも何も、あったもんじゃ無いのだが、『そんな感じ』の演技をする。我ながら「大根ダイコンだなぁ」…とは思う。


 「………」何故かギルドカードの中のミケネコさんが、ジト目で俺を見上げている…気がする。いや、そんなはずは無い。まさかミケネコさんがそんな…ハハハ……。


 だがそんな俺の『大根演技』でも、とっくに夜もけて、プレイヤーの10m範囲以外は、周囲は真っ暗で視認性も落ちている状態である。


 俺がダメージを食らって、おおよその防御力、MAXHPが判明したからだろう。†カムイ† のプレイヤー情報表示の先頭(一番左)に、剣をクロスさせた様な、シンボルマーク『×』が表示された。〈戦闘状態〉に切り替えた…という事だ。(ちなみに戦闘BGMは、『盗ゾック(斧)』LV8先輩が、ずっと〈戦闘状態〉なので鳴りっぱなしである)


 LV14 †カムイ† 双剣使い見習い → ×LV14 †カムイ† 双剣使い見習い


 「………」『双剣使い見習い』とは、手数てかず重視の職業である。一発一発はそう強力では無いため、LV10の俺に対し、LV14とLV差があるとはいえ、一撃で即死するという事は無いだろう。

 そもそも『ただPKプレイヤーキルをしに来た』のであれば、「先ほどまで何を見ていたのか?」という話になる。つまり殺される確率は限りなく低い。


 おそらく、「『ショルダータックル』で40%くらい食らってるから、俺が60~70%ぐらい与えて、『盗ゾック(斧)』LV8に殺させようwww」 …とでも考えているはずだ。



 〈戦闘状態〉の†カムイ†が近付いてくるが、気付いていないフリをしつつ、恐ろしい(?)『盗ゾック(斧)』先輩の方に集中している、…様に見せかけて、実際におそろしい『斧』攻撃にだけは気を配る。すると、


「うりゃーっwwwww」

 やけに嬉しそうな声を上げながら、†カムイ† が斬りかかってきた。とっさに顔と首を庇う様に身をよじって、肩から背中で食らう。斬り裂かれて血が吹き出る。やはりLV大したダメージでは無い。35%といったところだ。いや…当然”痛い”のだが。


「うわああぁぁ……」

 斬りかかられた俺は「突然、何をするだぁーっ」とばかりに、悲鳴を上げつつ『目印の棒』の位置から離れる様に逃げ出す。


「ははははwww、……はぁ? 賞金首? まぁいいやwww、待てよwww雑魚ザコwwww」

 俺と戦闘中だった(と彼が思っている)、『盗ゾック(斧)』LV8先輩をガン無視して、俺に対して†カムイ† が更に、剣を横にズバーッっと薙ぎ払う様に追撃をしてくる。


「ああぁぁぁ、やめてください~~」

 †カムイ†の2撃目を食らって、俺のHPが『半分ほど』になった。これ以上は『斧』攻撃や、クリティカルを食らうとマズい、『大根演技』を続けながら『目印の棒』の位置から、完全に離れた位置(推定、逃走成立地点)に逃げ出した。


「ははははwwww、ちょー弱えぇwwwww」

 †カムイ† が上機嫌で近寄ってきた(自分の『変化』には気付いていない様だ。)そして、その後ろから近寄って来た、『盗ゾック(斧)』LV8先輩が『斧』を上段に振りかぶり……


「ODORYAAA…」

 その振り上げた『斧』を力任せに振り下ろし、背中を向けて隙だらけの†カムイ†に対して、強烈な一撃を食らわせる。


「はははwwwww ……ぐはあぁぁぁ!?」

 ズガーンッ、ズシャーッと、『盗ゾック(斧)』LV8先輩の、自慢の『斧』による『切断&衝撃系』の攻撃を、『無防備に』、『背後から』、まともに食らった『賞金首』の†カムイ†が、地面に叩き付けられ、大きな『血しぶき』があがった。どうやら『クリティカルヒット』した様だ。


 「………」運が悪い、まぁ条件が揃えばなぁ……



「ひゃあああぁっ……ち、…治癒魔法[ヒーリング]」

 「何がなんだか分からないけど、チャンス~」、といった風な悲鳴(棒)を上げつつ、この隙に俺は、HPを回復したのだが、95%ほどまでしか回復しなかった。どうやら治癒魔法[ヒーリング]1回で、『45%程度』回復していた様だ。


 ふむ、ようやく回復量のデータが取れたな、ありがとう†カムイ†さん。〈通常状態〉の俺は、そのまま『安全地帯』である南口1の門を目指して、脇目わきめも振らずに逃走した。


「助けてええぇぇ(棒)……」

「うっがぁぁ、痛ってえぇぇ、待てや…。クソがぁっ、なんで俺に攻撃してくんだよっ、この雑魚モンスターがっ」


 予期せぬ『盗ゾック(斧)』LV8先輩の一撃を食らい、混乱して〈戦闘状態〉のままの、†カムイ†さんは、『盗ゾック(斧)』先輩からは、逃走出来ない=俺を追いかけられない。


 さようなら、『LV14 †カムイ† 賞金首:168,000G』さん。



 出会いの街[ヘアルツ]南口1方面には、[]だけあって、基本的には『非アクティブモンスター』である『発芽ねずみ』LV5と、『ナゴヤシュダガヤ』LV7が、花畑側と、川付近の草原?側に分かれて、多数生息しているだけである。

 そして川の西(←)、南口2方面に近い辺りに、たまに『アクティブモンスター』の『盗ゾック(斧)』LV8先輩がうろついている……という配置だ。


 そのため俺は、特に何の問題も無く『ニワトリ』と『ネズミ』の間を走りぬけて、南口1の門へと逃げのびる事が出来た。

 ちなみに逃走中に、再度、治癒魔法[ヒーリング]を使用して完全回復しておいた。もちろん『治癒回数稼ぎ』のためである、小さい事からコツコツやらないと、だ。


 人気ひとけの無い南口広場を、足早に通り抜けて さっさと宿屋へ帰り、受付の量産型おばちゃんに鍵を貰って、借りている部屋へ戻った。



 ギルドカードを持って「光いでよ! 汝、ミケネコ!」と念じる。


「……」

 ギルドカードからシュルンとミケネコが姿をあらわした。


「ん? ……ミケネコ?」

「……………」

 へんじがない、ただの三毛猫のようだ、……あ!


「すまん、もう話していい。って言ったろう」

「あ~、もどるまでだった~」

 律儀りちぎに、ずっと黙っていたミケネコさんのアゴの下を、しばらくコショコショする。ミケネコは鼻をグリグリ~っと俺の掌に押し付けて、尻尾をくねくねさせていた。


「よしっ、とりあえず色々し今日は寝る。その代わり明日は AM 04:00頃に起こしてくれ」

「ん~、はやい~?」

「あぁ、まぁ少しな……」

「は~い?」

 ミケネコに起こしてもらう様に頼んで、ともかく寝てしまう事にした。



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LV:10(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:5,665G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×24、バリ好きー(お得用)95%、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ



「ご主人さま~、えむぴぃけぇもどき、ってなに~?」

「『MPKもどき』か、…普通? のMPKは、モンスターを連れていって、モンスターMだけに、プレイヤーPを襲わせ、殺させるK、キル、キラー…んだが」

「ずるい~」

「そうだ、それでTJOの場合モンスターのFAを取るとから、戦闘中のプレイヤーにちょっかいを出しても、基本的にモンスターからは襲われないわけだ」

「ふ~ん?」

「だから、モンスターと戦闘中のプレイヤーを、に攻撃して、HPを削って『モンスターのアシストをする』事で、より確実にプレイヤーを殺し、自分はレッドにならない、…ちょうどPKとMPKの中間、みたいな事が出来てしまう」

「それが、えむぴぃけぇもどき~?」

「そういう事だな」

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