010 偽装表示問題



 はじまりの街[スパデズ]北口の門から出て、そのまま道なりに北に進むと森が広がっている。森の中をさらに道なりに北にすすむと山に辿り着く。

 そこには はじまりの街[スパデズ]周辺で、唯一のダンジョン[山の洞窟]が存在していて、「そろそろ次のクリスタルのある街に行こうか」というLV5~9ほどのプレイヤー、パーティが頻繁ひんぱんに探索に訪れている。



「つまりこの道の周辺はプレイヤーがよく行き来するから宝箱がPOPしにくい」

「いきなりどうしたんですか? ご主人さま~」

「あぁ、あれから宝箱が見つからないから少しな」

「みつけて しあわせになる!」

 ミケネコが気合を入れ直した。良い事だ。


 「………」辺りが少し暗くなってきた、5時過ぎたくらいだろうか?

 まぁ人通りが多いという事は、宝箱はPOPしにくいが多少は安全という事だ。ここで一息ついて軽く食事をしておこう。

 『インベントリ』から買っておいた『干し肉』を1切れ取り出してかじり付いた。しまった、飲み物を忘れていた。しかし幸い?干し肉をしっかり咀嚼そしゃくする事で、唾が多く出て喉の渇きを若干癒してくれた。街に帰ったら充分な飲料水を購入するのを忘れないようにしよう。心の石版(当てにならない)に深く刻み込んだ。


 道端に座り込んでヒザの上にミケネコを乗せて干し肉をかじっていると、不意に山の方から複数人の話し声が聞こえてきた。


「あんま稼げなかったね~」

「多分これでLV9 になっただろうし、出会いの街[ヘアルツ]へ行こうぜ」

「だね~」

「もうLV上げられないんだっけ?」

「ここはLV9までだろ」

「だね~」

「そうなんだ」

 道の向こうから5人の男女があらわれた。[山の洞窟]を探索した帰りなのだろう。


「こんにちは~」

 ゲーム時代の癖でつい挨拶してしまう。まぁ不審がられるよりは友好的に見えた方がいい。


「こん~」、「こんちは~」、「ばんわ~」、「ちは~」

 …等と返事が帰ってきた。相手も友好的な様だ。


「え!? …あぁペットですか~、一瞬『イルカモネ山猫』かと思った~」

 1人の女性プレイヤーが俺のヒザの上のミケネコを見てそう言った。


「えっ? LV1」

「LV1だと南口あたりで戦った方がいいですよ」

「LV1で、もうペット買ったんだ~」

「こっちの北口の方は危ないですよ~」

 「………」あ、しまった。何か違和感があると思っていたけど、とかとかすっかり忘れていた。とりあえずアドバイスのお礼を言っておこう。


「そうなんですか? ありがとうございます」

 何か言いたそうなミケネコの口を、両手で頭を撫でる感じでふさぎつつお礼を言う。


「いえいえ~^^ では~」

「わ~仲がいい~、アタシもペット買おっかな~」

「気をつけてね~ ノシ」

「どうも~」

 5人の男女は道なりに街の方へ帰っていった。


「………ご主人さま~?」

 ミケネコがジト目で俺を見上げている…気がする。

良心の呵責かしゃくという奴だろうか。猫っぽくない。


「………よしっ! 宝箱も見つかったし、『バリ好きー』だ」

 『干し肉』も食べ終わっていたので、『インベントリ』から『バリ好きー(お得用)』を取り出して、掌に小盛りにしてミケネコの前にさしだす。


「やった♪」

 カリカリポリポリ、カリカリポリポリ…ミケネコがバリ好きーを噛み砕いていく。

しばらくすると掌の上のバリ好きーが消えてなくなった。やはり余韻を味わうかのようにバリ好きーが無くなった後もザラザラした舌で俺の掌を舐めている。

 それから顔を前足で洗い、その前足を丁寧に舐めて毛づくろいしながら…


「しあわせ~、また たからばこみつける~」

 とミケネコがつぶやいた。フフフ、チョロイですよミケネコさん。いつまでもそのままの君で居てね。用が済んだ『バリ好きー(お得用)』を『インベントリ』に放り込む。800Gの価値はあるのかもしれない。


 「………」さて思わぬ遭遇のおかげ? で色々と忘れていた事が思い出せた。

 まずはプレイヤー情報の表示のON/OFFだ。デフォルト(初期状態)では何故か『OFF』となっているのだが、一般的には開始直後に『ON』にするのが常識だ。なぜなら一目で『相手の名前』と『状態』がわかるからだ。

 現に先ほどの男女は一目で、こちらの名前もLVも職業もわかった様だったが、こちらからは彼等の名前もLVも職業も、何色プレイヤーなのかもわからなかった。これはかなり危険な状態である。

 とはいえ…『設定』ってどうすればいいのか……、ゲーム時代は画面の上の方にオプション設定のメニューがあり、そこで設定していたのだが…、とりあえず「オプション設定」と念じてみる。


《オプション設定: 表示 定型文 音声 処罰 ××× 》

 おお…表示された。続けて「表示」と念じる。


《表示: プレイヤー表示 ペット情報表示 表示項目の設定 地名表示 施設名表示 日時表示 》

 あ~そうか、こういうのも全部OFFになってたんだ。ゲーム時代はこういった設定は、一番最初に攻略サイトを見ながら『おすすめの設定』にして、以降は程度で、その後はから完全に忘れさっていたのだ。

 ミケネコに周囲を警戒しておくように言ってから手早く設定していく。


「………とりあえずはこんなものか」

 ざっと、こんな感じに変更した。


《プレイヤー表示:<ON> / OFF 》

《バトル状態表示:<ON> / OFF 》

《ペット情報表示:<ON> / OFF 》

《地名表示 :<ON> / OFF 》

《施設名表示 :<ON> / OFF 》

《日時表示 :<ON> / OFF 》

《音声 :戦闘中BGM :<ON> / OFF 》

《表示項目の設定:LV表示 : ON  /<OFF>》

《表示項目の設定:HP表示 :<ON> / OFF 》

《表示項目の設定:危険演出表示 :<ON> / OFF 》

《表示項目の設定:表示職業選択 :公開 みならい戦士 みならい斥候 <みならい僧侶> みならい魔法使い 》


 すると、これまでリアルな風景だった世界に、様々な文字が浮かびゲーム内の雰囲気に近くなった。…デフォルト(初期設定)が『OFF』な理由がわかった気がする。没入感が半減というか、こう文字だらけだと「ゲームです」って感じで、せっかくのリアルな世界が台無しだ。しかし情報は力だ、雰囲気を重視して大事な情報を見落として死んでは仕方無い。

ふとヒザの上で耳をピクピクさせながら周囲を警戒しているミケネコを見ると、頭の上に


ミケネコ:サポートペット三毛猫型(雌)


 ……と表示されている。うん…なんか…コレは嫌だな。命には関わらないだろうし今まで通りでいいか。


《ペット情報表示: ON  /<OFF>》

 設定を元に戻すと、ミケネコの頭の上からペット情報が消えた。よしっ

 他プレイヤーのペット情報もわからなくなるが、サポートペットは『非戦闘NPC』だから、にはならないだろう。なんとなくアゴの下をコショコショとかいてやった。


「ご主人さま?」

 周囲を警戒していたミケネコが、俺を見上げながら首を傾げる。視界の右下の方へ意識を向けると<04/02(火)19:24>と表示されている。思ったより時間が経っていたようだ。


「今日はこれまでにする。街の周囲を大きく西、南とまわって東口から帰ろう」

「まわるの?」

「あぁ」

 「………」ゲーム時代もそうだったが、やはり人は夜になると少し豪勢な晩飯を食べて酒でも飲んで眠りたい…というものなのだろう。

 夜間は暗く視認性も悪いため、フィールドには人が少なくなる。そして人が少なくなれば宝箱がPOPするし、近くに宝箱があっても見逃される事もある。


 そういう理由でゲーム時代から少し人より止める時間を遅らせて、ざっと周辺の宝箱をチェックしてから帰還するのが、俺の習慣となっていた。まぁ自販機の返却口の釣銭チェック、みたいな感じがしないでも無いのだが…。

 いや、アレは厳密には窃盗に当たるが、これは正当なプレイであり、なんら恥じる事のない…決してセコくない、セコくないのだ。頭脳プレイなんだ!


「ご主人さま?」

「あぁ…行こう。まずは西に向かう」

「は~い」

 そうして宝箱を探しつつ、森の端を通りながら西口方面へ歩きだした。



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LV:1(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:1,200G

武器:なし

防具:布の服

所持品:4/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)85%、鉄の長剣



「ご主人さま~、みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)ってなに~?」

「あぁそれは、他プレイヤーから見ると『みならい僧侶』と表示されてるが『偽装』なんだ。本当は(みならい僧侶)」

「??? よくわからないよ~」


《表示項目の設定:表示職業選択 :公開 みならい戦士 みならい斥候 <みならい僧侶> みならい魔法使い 》

「ここで<公開>を選択している(初期状態)と、現在の本当の職業がリアルタイムで反映されるんだが、ここで<みならい僧侶>を選択したから、転職してしまっても他プレイヤーには俺は『みならい僧侶』のままに見えるんだ」

「ん~?」

「今は たまたま『偽装している職』と『本当の職業』が一緒なだけ…という状態だ」

「んん~???」

「その内詳しく説明するから」

「そのうち? またぼ~っとする?」

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