009 イルカモネ山猫居るのかね?
はじまりの街[スパデズ]は、周囲をもうしわけ程度に塀で囲まれていて、東西南北に門がある。南の草原(広くない)には『バルーンラビット』LV1(最弱)が群がっていて普通はここからLVUPを目指す。北口の先に広がる森林には『イルカモネ山猫』LV5が生息していて初心者には危険な地域となっている。
「ご主人さま~、きたのもりには『イルカモネやまねこ』がいてあぶないよ」
『バリ好きー』を食べてようやく正常に戻った? ミケネコが、再びヒゲをピクピクさせながら警告してくる。確かに『素手』で『布の服』の、『ぼっち村人その1』な、『みならい僧侶』LV1が、『三毛猫』1匹と、死出の旅に出たようにしか見えない。
はじまりの街[スパデズ]北口の門から出ると、周囲には『バルーンラビット』等がまばらに生息している。しかしこの北口周辺はポップ率が悪いので、やはり『バルーンラビット』を狩るなら南口に限るのだ。
そのうえこの『バルーンラビット』等を狙って、森から『イルカモネ山猫』が出てくる事も多々あり、「北口は空いててバルーンラビット狩り放題だ」…等と油断した初心者が、よく『イルカモネ山猫』に襲われる。
それまでの南口、東口、西口付近では、『バルーンラビット』をはじめとして、絶対に向こうからは襲いかかってこない『非アクティブモンスター』しか居なかった、…という事も初心者が油断する原因となっている。
誰の言葉か忘れたが「『皆がやってる』、『皆がやらない』事には理由がある」のだ。
「………」さて、ここからは色々と確認、検証しなければならない事が多い。
ゲーム時代の知識等との差異(あるのかわからないが)については、
死ぬとどうなるのかは不明だし、ゲーム同様に生き返れるとしても、TJOにはデスペナルティが存在する。死なないにこした事はない。
「ご主人さま~きたのもりだよ」
考えながら歩いていると、いつの間にか『イルカモネ山猫』在住の『北の森』が目前にせまっていた。これも「ここまでは『非アクティブモンスター』しか居ないだろう」という思い込みと、ゲーム時代の慣れのなせるわざだが、これらの特性も『ひょっとするとゲーム時代とは変化している可能性もあった』…わけで、今後はフィールドでは気を抜かないように気をつけないといけないだろう。
「ご主人さま?」
言ったそばから長考してしまった。ミケネコが居なければ延々と物思いに
褒美を取らせたいところだが、『バリ好きー』はさっき与えたばかりだ。とりあえずアゴの下をかいてあげよう。コショコショ……
「よしっ、これからの事だが、森の端を移動しつつ素材収集、資源調達をしながら宝箱を探す」
「ご主人さま? 『イルカモネやまねこ』は~?」
「耐えるっ」
「ご主人さまっ!?」
「何言ってんの? この人?」という顔をしたミケネコを連れて森の端に行くと、雑草に混じって『薬草らしき草』や『毒草らしき草』、『キノコ』等が見つかる。
ちなみに宿屋で大活躍だった鑑定だが……椅子の鑑定ですよ? 縞パンじゃないですよ? ……じー
《名:草(不確定名) 所有者:なし》
この調子である。あくまで『街中での窃盗判別のための〈簡易鑑定〉』なので、取得自由な物だと「何なのか教えないけど~誰のでも無いから欲しければ拾えば~?」状態である。とんだ高飛車さんだ。(個人の印象です)
さぁそこでどうするか、TJOには学習システムがあり1度正確に鑑定するか、鑑定してもらうと、以降そのアイテムは正式な鑑定名と鑑定結果が表示してもらえるようになる。
おまけでこの〈簡易鑑定〉でも正確に表示してくれるようになるのだ。
(ついでに『サポートペット』とも学習内容が連動する。連動していないとインベントリの鑑定済みの薬草を、サポートペットの倉庫内へとアイテム移動したら、草(不確定名)になった、…という事になりかねないからである)
鑑定料はNPC販売価格の1/10、つまり不自然に鑑定料の高いアイテムは高価なアイテム、レアアイテムである。『鑑定料が高い』という悲しみより『なんか高価なアイテム拾っちゃったラッキー』なのである。『鑑定が安くてラッキー』ではなく『安物しか拾えてなかった、へこむわー』なのである。
もちろん商売系の職につくと鑑定系のスキルが習得できるため、その場で全て自分で鑑定出来る。彼等はいちいち街で1つずつ鑑定してもらわなくてすむ。(鑑定能力を超えるアイテムは鑑定できないが)
しかし当然『みならい僧侶』の俺にそんなスキルは無いので…片っ端からミケネコに放り込むのだ。うむ、どう見てもただの三毛猫にしか見えなくとも(稀に犬っぽいところがあったが)しっかり『サポートペット』。放り投げた『草(不確定名)』や『キノコ(不確定名)』が、ガンガンミケネコ内のストレージに溜まっていく。
そして森の端で作業する理由だが…先ほど、
>そのうえこのバルーンラビットを狙って森からイルカモネ山猫が出てくる事も多々あり、
…と言ったのだが、そうして森から出て『バルーンラビット』を狩った『イルカモネ山猫』は、見晴らしの良く目立つ森の外ではなく、この森の端までバルーンラビットを持ち帰って食べるのである。狩られたバルーンラビットも、レアドロップの『風船兎の肉』も食べられてしまうのだが、通常ドロップの『風船兎の皮』は放置である。
そうすると……お、『皮(不確定名)』発見。労せずして『風船兎の皮』ゲットだ!
「ご主人さま~…せこいよ」
「………」いいんだよ…ここ危険なんだから、危険手当だよ。俺の観察と、知識と経験の蓄積を「せこい」の一言で片付けないでくれよ…。
「あ~『ハスキー犬』って、格好良かったなぁ~」
「あぁっ、ご主人さまっ! あそこにも『皮(不確定名)』がおちてますよ」
「うんうん、ミケネコは役に立つなぁ」
「えへへ♪」
…などと言いながらも草やキノコ、花など目に付く物をどんどんミケネコに放り込んでいく。黙々と森の端を移動しながら素材収集に勤しんでいると…
「ご主人さま~、はこ?」
「よしっ宝箱だ」
「これが『たからばこ』~?」
「そう、これを見つけるほど「しあわせになる」からな」
「しあわせになる…の?」
ミケネコが首を傾げる。
「あぁ、『バリ好きー』が買える」
「いっぱい『たからばこ』みつけて、いっぱい しあわせになる!」
チャチャチャーン♪ ミケネコのテンションが上がった! 尻尾もうねうねウェーブしている、よしよし。
「………」TJOは、プレイヤーの
その一環としてフィールド上における、この『ランダムPOP宝箱』の存在がある。基本的にはモンスターの様に、一定の確率でフィールド上にPOP(出現)するのだが…「プレイヤーの周囲100m範囲にはPOPしない」という条件がある。
つまりプレイヤーが常時存在する街や村近辺、同じ場所で狩り続ける定置狩りプレイヤーの周辺、人気の狩場などのプレイヤーが集まり結果的に安全な狩場…等では、ほとんどPOPしないのである。その上『早い者勝ち』なので、周辺に人が多いほど自分の手に入る確率も低いのだ。
逆に不人気の狩場、人を選ぶ高難度の狩場、不便な辺境のフィールド等では、かなりPOP率が高くなる。さらに一度出現した宝箱は『プレイヤーが入手しない限り消失したりしない』ので、そういった人があまり立ち寄らないフィールドには宝箱が溢れている事もあるのだ。宝くじとかの『キャリーオーバー』みたいなもので、最初に見つけた者の総取りである。
ちなみにダンジョン内の宝箱と違い、『フィールドPOP宝箱に一切罠は無く、ミミックである事も無い』、純粋に挑戦者、開拓者へのご褒美なのである。ダンジョン内の宝箱についてはその内語る機会があるだろう。
さて気になる中身の方だが……
「おぉ~! 『鉄の長剣』だ」
「てつのちょうけん?」
「あぁ、武器屋で買うと20,000G…だったかな? 大当たりだ」
「………」TJOでは、アイテムの売却額はNPC販売価格の20%である。半額どころではない、1/5なのだ。超ボッタクリである。「プレイヤー同士でアイテム売買や商売を活発に行ってほしい」…という意図があるためだ。
つまりこの『鉄の長剣』をNPCに売ると、4,000Gにしかならないのである。
しかし『鉄の長剣』が欲しいプレイヤーに18,000Gほどで譲ると、相手も店より2,000G(1割)安く手に入り、こっちも店で売り払うより14,000Gも高く売れて、お互いが得をする円満取り引きとなるわけだ。
「14,000Gも儲けるつもりか!」等と正義感あふれる方は思うかもしれないが、こういうモノは妥当な、適当な、『適正価格』…というモノがあるものなのだ。
「俺なら15,000Gで売ってやるね」等と言うと、買ったプレイヤーが他のプレイヤーに19,000Gで売って労せず4,000Gの差額を儲ける、…いわゆる『転売屋』の餌食になるのが関の山だ。
そしてこの『転売屋』というのは実は悪くないのだ。「安く仕入れて高く売る」という、ただ商売の基本に則っているだけであり、そもそも『適正価格』を理解せずに売るような輩が居なければ、成り立たない、存在する事さえ出来ないはずなのだ。
『転売屋』と呼ばれる連中が、あまり美味しい思いを出来ない程度、仮に転売されても悔しくない程度の価格にするのが皆のためなのだ。逆に15,000Gで売ったプレイヤーのために、『適正価格』で売っているプレイヤーが迷惑を被る事もあるので、こういった市場価格を混乱させる行為は逆にマナー違反、迷惑行為とも言え
「ご主人さま?」
しまった、また長考してしまった。不意に高額アイテムがゲット出来たので浮かれていたようだ。ともかく宝箱に関しては、以前の通りのシステムの様だ。リスクにはしっかりリターンがある。
ちなみにアイテムを入手した後、役目を終えた宝箱は霞むように消えて無くなる。消えるまではその場にしっかりと固定されていて、移動させたり箱そのものを入手したりは出来ない。おそらく再利用されてまたどこかでPOPするのだろう。エコは大事だ。
とりあえず『鉄の長剣』は『インベントリ』に放りこむ。
「とにかく、この調子で素材を集めつつ宝箱も期待するぞ」
「は~い………そうびしないの?」
「あぁ」
「『イルカモネやまねこ』は?」
「耐えるっ」
「ご主人さまっ!?」
「マジで何言ってんの? この人?」という顔をしたミケネコを連れて、森の端を移動しながら黙々と素材集めにいそしんだ。
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LV:1
職業:みならい僧侶
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:1,200G
武器:なし
防具:布の服
所持品:4/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×10、バリ好きー(お得用)90%、鉄の長剣
「そういえばご主人さま~、バリ好きー(お得用)90%って?」
「アイテムには『耐久値』とかの設定があるモノがあるんだが、どうも残量=耐久値と判断してるみたいだな」
「ざんりょう?」
「新品の満タン状態が100%なのだろう。2回取り出して食べたから、1回で5%だろうな」
「ん~?」
「バリ好きー(お得用)800Gで、20回 しあわせになれる」
「20かい♪」
「2回しあわせになったから、後18回だな」
「……あと18かい (´・ω・`) 」
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