037 真・クリスタル <04/04(木)PM 00:37>


 はじまりの街[スパデズ]を旅立った俺達は、石橋を通って大陸へと渡り、『危険な街道』のそこかしこで「ウメェ~ウメェ~」と鳴きながら、我が物顔でうろついている『饅頭マントウひつじ』LV7の、良い笑顔を殴りたくなる衝動を抑えながら、出会いの街[ヘアルツ]東口に到着した。

 そのまま東門を通って街に入った俺達は、セオリー通りにまっすぐクリスタルへとやって来たのだった。



 俺達の目の前では、桃をひっくり返したような形の、赤っぽいクリスタルがクルクル回っている。どう見ても不安定に思えるのだが、俺達4人がぺた~っと触れても、ビクともせず回り続けている。

 まぁゲームとかで『六角柱状のクリスタル』が微動だにせず立っているのは、もはやなので、TJOの この妙なクリスタルだって、文句を言う筋合いは無いだろう。


 システムメッセージが表示され、ファンファーレが頭に響き渡る。

《おめでとうございます!LVが上昇しました! LV9 →LV10》


 「………」LV9になってからも『昇格』のために、『イルカモネ山猫』LV5とたわむれ続けて、『治癒回数稼ぎ』をしていたし、先ほどの街道で『饅頭ひつじ』LV7に初遭遇したから、3体討伐したのと同じだけの『経験値ボーナス』が得られた(はず)のもあって、LV10に足りたのだろう。

 ちなみに はじまりの街[スパデズ]のクリスタルでは、LV9LVUPだけで、その後も経験値は加算されている。

 しかしTJOは、挑戦者魂チャレンジスピリット開拓精神フロンティアスピリットを求めているから、あの村で粘っても どんどん効率が悪くなっていくだけだが。



 ふと見ると、ユウコさんもLV10になっていた。やはり[山の洞窟]でFAを取り続けていた分、他の2人より経験値が多く稼げていたのだろう。

 シノブさんは元々2人よりLVが低かったし、ツカサさんは『1層一掃作戦(改)』で、ほぼ攻撃しなくなったからLV10に足りなかったと思われる。


「ユウちゃん、おめでと~」

「……おめでと」

「ありがと。マドちゃんとシノちゃんも、きっとすぐ上がるよ」

「おめでとうございます」

 俺はLV非表示なので、LVUPも俺にしかわからない。そもそもLV9だった事さえ3人は知らないだろう。

 ……さて例によって、これから3人で話したい事もあるだろうし、邪魔者はさっさと居なくなった方が良い。


「誘ってくれて、ありがとうございました。お陰で無事に(出会いの街[ヘアルツ]の)クリスタルまで来れました。適当に街を見て回ろうと思うので、俺はこれで…お疲れ様でした~」

 そうお礼を言って、俺はとりあえず南の宿屋、食事処の方へ歩きだす。


「あ、こちらこそ、ありがとうございました。また機会があれば一緒に探索しましょう」

 う~ん、俺は予想通り? だったが……まぁ常備薬みたいなもので、回復職がいると いくらか安心だったかも知れない。


「はい、また同じ条件で良ければ~」

 俺も前回と同じ、当たりさわりの無い返事をして、3人の居るクリスタル前を離れ、南へ向かった。



「ご主人さま~」

「あ……」

 いかん、空気を読んで? 『ギルドカード』の中で大人しくしていた、ミケネコさんの存在をすっかり忘れていた。ギルドカードを持って「カモ~ン、ミケネコ~」と念じる。


「も~、しのぶさんに、(お別れの)あいさつできなかったよ~」

 ギルドカードからシュルンとミケネコが姿をあらわし、尻尾をピシッ、ピシッと振って不満をもらす。シノブさんだけなのか?

「すまん、すまん」

 若干不機嫌なミケネコのアゴの下を、しばらくコショコショしてやる。


「そうだな、それじゃさっそく『羊饅頭ひつじマントウ』を買って宿屋で食べてみるか」

「いいの~?」

「あぁ、もう昼も過ぎてるし、宿屋も確保しておかないとな」

「やった♪」

 フフフ……毎度ミケネコさんは食べ物の事で、簡単に機嫌が良くなるので助かりますよ。いつまでもチョロ…純粋なままでいてね。



 「………」ところで『街の構造について』なのだが、出会いの街[ヘアルツ]ではクリスタルを中心に、北側(↑)に『冒険者ギルド』、東側(→)に『武器屋』、西側(←)に『道具屋』、南側(↓)に『宿屋』がある。そう、ここまでは、はじまりの街[スパデズ]と同じなのだ。


 王国は『クリスタル』のある地に、まずこの様に基本となる『4つの施設』を配置し、周囲を柵で囲い、東西南北に門を設ける。その後 集まった冒険者、商人などの住民によって、整備、拡張されていく…という形のため、『クリスタルのある4大都市』のクリスタル周辺は、全て同じ構造になっている。量産型おっさん、おばちゃんなのは王国施設員だからだったのだ。な、なんだって(略。

(という設定だが、ほとんどの施設、ショップNPCは量産型だ。チェンジッ!)


 だが、各街村専用のNPCショップ、自由に出店されるプレイヤーショップ等に比べ、『必要最低限』な品揃えとサービスなので、はじまりの街[スパデズ]以降は利用する者はどんどん少なくなる。

 まぁそうだろう。一番手っ取り早くには、値段を下げるか、サービスを良くすればいい。しかしこの基本3施設(冒険者ギルドを除く)は、ずっと固定額で最低限のサービス…というなので、どうしても見劣りしてしまう。


 しかしそんな事はどうでもいい、俺は見た目やサービスには、あまりこだわらない。宿屋など安全に宿泊(24時間睡眠無しペナルティを回避)出来ればいいのだ。

 利用する時間もバラバラだし、何より安い、安い事は素晴らしい。量産型おばちゃんぐらい我慢出来るというものだ。(もちろんお姉さんに変更してくれるなら大歓迎だが)



 機嫌のなおったミケネコさんを連れて、宿屋を通りすぎ南側にやってくると、ミスターチキン[ヘアルツ]店を確認した。そう言えば、今朝ササミカツ丼を食べた時は、「2」番だったかな。

 え~っと? …『青銅の長剣』が少々安めとは言え売れて、ユウコさん達に誘ってもらえて、[ヘアルツ]に無事に到着できた。うん、かなり良い感じだ、中吉と言っていいだろう。ミスターチキンのおっさん札占いの「2」番は、中吉。


 おっ、露天の中に『羊饅頭』を売っている店があった。 …1つ300Gと少々お高いが、道中で話した通り、『饅頭マントウひつじ』LV7は結構クセ者だ。通常ドロップとはいえ、それほど安くは無いのも仕方ないか。それにNPC販売価格が300Gという事は、売った人は20%、60G… あまり「ウメェ~」とは言えない稼ぎである。


「1つもらおう」

「羊饅頭、1つ300Gだよ」

 量産型おばちゃんに300Gを支払うと、湯気のあがる蒸籠せいろの様な物の中から、箸の様な物でホカホカの『羊饅頭』を1つ取り出し、小さな紙袋? に入れて渡してきた。紙袋を受け取ってインベントリに放り込む。

「毎度~」


 とにかく羊饅頭は手に入れたのでUターンして宿屋に向かう。

 [ヘアルツ]の宿屋前の量産型おっさんの話は、「しっかり睡眠を取らないと疲れて回復しなくなるぞ、だからウチで泊まってけ」…的なアドバイスである。

 当然聞き流して、受付の量産型おばちゃんのところに向かう。


「2泊3日で頼む」

「あいよ、2,000Gだよ」

 受付のカウンターの上の小皿に2,000Gを置いて、量産型おばちゃんから『部屋の鍵』を受け取り指定の部屋に入る。若干違いはあるものの、レイアウトなどは[スパデズ]の宿屋と同じである。

 つまり室内には『木製のベッド』と『机』と『椅子』しかない……はずだ!

 念のため少しばかり部屋内のチェックをする。く…シノブさんが居れば、探知:罠[トラップディテクション]で一発なのに。


 なんにもない、ただの やすやどの ようだ……。


「ご主人さま~?」

「あぁ、さっそく食べてみよう」

 [スパデズ]の宿屋の時と同じ様に、椅子に腰掛けてミケネコを机の上に呼ぶ、インベントリから紙袋を取り出して、掌ほどの羊饅頭を半分に割って、ホカホカのところにかぶりついた。

 うん、生地はで、しっとりとしている。中身は肉マンや豚マンみたいに(羊だが)、たっぷりの肉汁のうまみで素朴な羊肉? も美味い。少し入っているタケノコ? の”シャクシャク感”がアクセントになって、食感も楽しい。

 『饅頭ひつじ』の”良い笑顔”を思い出すと、俺の『右手の封印』が解けそうになるが、羊饅頭は本当に美味しかった。

 とりあえず一口食べたところで、少しちぎってミケネコさんに差し出す。


「ほら、これが羊饅頭だ」

「やった♪」

 ミケネコさんが俺の差し出した羊饅頭を、食べようと口を近付けて…顔をそむける。


「あつい~」

「あぁ、熱いのはダメだったな… すまんすまん」

 『猫舌』で『猫腹』なミケネコさん。食べ物と飲み物は… 30度くらいだろうか? とにかく、ふ~ふ~、と羊饅頭のかけらを冷ましてやる。せっかくアツアツなのに…… かなり冷めたところで、もう一度ミケネコさんに差し出す。


「これぐらいでどうだ」

 ミケネコさんは、おっかなびっくり口を近付けて少し舌でペロペロと舐めてみて、大丈夫だと思ったのかハグ、ハグと少しずつ食べはじめた。いつもより口を少し大きめに開けて、冷ましながら食べようとしている様子だ… これでもまだちょっと熱いのか?


「しろいとこは おいしくない~」

 ミケネコさんは中身のあんの部分だけ綺麗に平らげて、外側の生地の部分は残してしまった。まぁ冷めてると、もちもち感も、しっとり感もだろうしなぁ。

 仕方が無いので包んでくれた紙袋の上に、残りの羊饅頭のを出して、ふ~ふ~と冷ましてやる。


「はい、どうぞ」

「………ひつじまんとう おいし~♪」

 ミケネコさんはハグハグと口にしては、尻尾もウネウネさせて満足している様子なのだが、それはもう『ただの肉団子がくずれたようなモノ(不確定名)』というか、冷めてるし。

 どこかの食通が「そんなのは本当の羊饅頭じゃない、俺が本当の羊饅頭を食わせてやるっ」とか、「この羊饅頭を作ったのは誰だあっ!!」とか怒鳴りこんで来そうですよ?

 それはともかく、俺は残りの”もちもちしっとり”の外側の生地ばかりを食べ、「これも、もはや羊饅頭では無いな」…などと思いつつ簡単な昼飯を終えた。



 「………」さて、食事が済んだところで、お楽しみのLVUP後のボーナスptポイント振り分けの時間である。「pt振り分け」と念じる。


《ボーナスポイントを振りわけます。残り 2pt》

《STR DEX INT VIT+08 MAG <今は振らない>》


 ……「あれ?」と気付いた方も居られるのでは無いかと思われる。

そう『1LVしか上がっていない』のに、『ボーナスptが 2pt増えている』のだ。

 今までLVUPやステータスの説明などを読んでいて、「ん~? これLV100になっても、pt99にしか、ならないんじゃない?」…などと疑問に思われた方が居たかもしれない。

 さらに「50ptが最大だと、余り49ptで半端じゃない?」…などと疑問に思われた方が居たかもしれない。


 そうTJOでは『LV10になった時』に、ボーナスとして1pt、つまり2pt貰えるのだ。

 これはLV9までしか上げられない はじまりの街[スパデズ]を旅立ち、次の 出会いの街[ヘアルツ]へやって来た…という、挑戦者魂チャレンジスピリット開拓精神フロンティアスピリットに対するご褒美でもある。


ヘアルツクリスタル「スパデズクリスタルが終わった(LVUPチェックが)ようだな…」

第3都市クリスタル「フフフ…奴はクリスタル四天王の中でも最弱…」

第4都市クリスタル「LV9如きで終わるとは、クリスタル族のツラ汚しよ…」


 まぁそんな『ダメクリスタル』とか、『真のクリスタル』だとかは どうでも良い。

「こんな村でLV9で満足してないで、大陸に渡ってLV10になろうね?」…という運営側のメッセージだろう。ありがたくVITに2pt振る。

 これで『LV9 = VIT8』から、『LV10 = VIT10』と凄くわかりやすくなった。

 つまり極振りすれば、LV100で2項目をカンスト(MAX値50pt)させられるわけだが、TJOではバランス型か、その職種で一番重要な1項目だけカンストさせて、残りは分けて振るのが主流だった。



「ご主人さま~?」

 ミケネコさんも、ひつじまんとう?(不確定名)を食べ終えて、とっくに毛づくろいも終わった様だ。


「よし、まずは 出会いの街[ヘアルツ]を見てまわろう」

「は~い」

 視界の右下の方へ意識を向けると<04/04(木)PM 01:22>と表示されていた。



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LV:10(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:6,165G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×24、バリ好きー(お得用)100%、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ



探知:罠[トラップディテクション] 半径15m範囲の罠の存在、形状、名称を探知し、罠LVを半減させる(小数点以下切捨て)



「ご主人さま~、またVITなの~?」

「あぁ、VIT、つまりMAXHPが多いほど『痛み』が少ないからな」

「いたい?」

「あぁ、HP半分くらい(半殺し)で、かなりの激痛だ」

「はんぶん~?」


「まぁそれでも我慢していかないと、いけないだろうな」

「ご主人さまは~、やっぱりま「違うっ!」」

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