035 旅は道連れ、世は情け <04/04(木)AM 10:16>


 はじまりの街[スパデズ]での目標であった『LV9へのLVUP』と『僧侶への昇格』を、夜を徹して何とか達成した俺は、その代償? に最悪の目覚めを迎えた。

 しかし宿屋の滞在期限が迫っていたので、無理矢理ベッドを飛び起きて、水を補充。その後プレイヤー売買で『青銅の長剣』を売却したり、消費したアイテムの補充など、旅立ち前の準備を済ませ、出発口である『西口広場』へやって来たのだった。



 ゲーム時代との変化により、『強そうな集団に勝手についていって、目的地に行っちゃうぞ』…作戦が封じられた形となってしまった。

 そんな訳で俺は、広場の片隅のベンチに座って募集を眺めつつ、「さてどうしたものか」と、お年寄りの如くヒザの上にのせたミケネコの背中を撫で続けていた。



(ユウコからのささやき)「おはようございます。昨日はありがとうございました。それで 出会いの街[ヘアルツ]へ行くなら一緒にどうですか? 回復出来る人が居ると心強いのですが」

 突然ささやき〔※1〕が来たので、周囲を見ると、ユウコさん達が前方に居て片手を上げていた。


(ユウコへささやき)「おはようございます。昨日はどうも。また同じ条件で良ければぜひ、多分『付いていくだけ』になっちゃいますけど」

 俺の返事を聞いて、2人と何か話している様だ。


(ユウコからのささやき)「はい、こちらも全く知らない人より安心なので、お願いします」

(ユウコへささやき)「わかりました。それでは 出会いの街[ヘアルツ]のクリスタルまで、ご一緒させて下さい」

 そう返事をしてから、ヒザの上でウトウトしていたミケネコさんを抱き上げて、足元に降ろしてから立ち上がる。ミケネコは首を傾げながら俺を見上げている。


「ご主人さま?」

「あぁ昨日の人達と一緒に行く事になった」


 ―― 荼毘だびは道連れ、余の情け ――

 訳)もはやこれまでの様です。城ごと焼き払い、アナタ達も地獄への道連れにしてさしあげます。一思いに首を刎ねるのは、余のせめてもの情けなのですよ。

 …とかいうヤツだな(※違います)


「せっこうの しのぶさん~?」

「そうだ」

 やはりミケネコさんは、シノブさんをリスペクトしている様子、まぁ良い。3人の所へ向かう途中で、3人ともLV9になっているのが確認できた。

 まぁ『1層一掃作戦(改)』で、かなり倒したからなぁ。そのかわり職は3人とも『みならい』のままの様だ。まぁ『偽装』の可能性も…… どうだろう? この3人はやりそうに無いな、俺と違って。


 「………」そうだな…… 同じ様に『LV9([スパデズ]最高LV)』にLVUPした訳だから、同じ様に、「安全な時間帯に出発しよう」…としていても不思議は無い。

 考える事は誰でも似た様なモノか。



「はじめまして、『みならい僧侶』です。よろしくお願いします」

 本当はすでに『僧侶』だが、ゲーム時代から慣れたものなので、いけしゃあしゃあと嘘を言う。この場合、なのだが、3人には「はじめまして」…のの方が印象に残るだろう。


「はい(笑)、お願いします」

「ん~、まぁ? 回復よろしく~」

「よろしくおねがいします~」

「……よろしく」

 挨拶をしたミケネコと、シノブさんは見つめあっている。相思相愛なので仕方が無い。

※この場合、ガールズラブに抵触しているのだろうか?

猫と太刀…… いやシノブさんの装備は『刀』だからセフセフ。


 まぁ、ともかく俺はストーカーには ならずに済む様なので感謝である。

しかしこの道中は、さすがに危険かもしれない。念のためにミケネコさんには、『ギルドカード』に入っていてもらおう。


「ミケネコ」

「な~に~?」

 シノブさんと見つめあっていたミケネコが、首を傾げながら足元に戻ってくる。


「危険な街道だから、またカードに入っておいてくれ」

「は~い」

 俺は首から提げている『ギルドカード』を取り出し、ミケネコを抱き上げて狭いひたいに押し当てて収納する。もうすっかり慣れたようだ。


 ただ…会って早々にミケネコが収納されてしまったので、シノブさんが少し(かなり?)残念そうだ。愛しあう2人(1人と一匹)を、引き裂いてしまったのかもしれない、すまぬ。

しかし、会えない時間がを育てるのかもしれない、フフフかは教えられないな。



「それでは早速ですが、出発しましょうか」

「そだね~ もう『こんな村』に用はな~い」

「……ご~」

「了解です」

 まわりでも ちらほら出発していくパーティやプレイヤーが居る。アフリカでも草食動物は集まって大群で移動する。みんなで渡れば犠牲は最小限ですむのだ。


「ボクが目になろう!」(中央で一番安全だから?)

 ……それはまぁともかく、俺達もその中に混ざり、昨日の様にユウコさんを先頭にしたフォーメーションで、[スパデズ]西口の門より出発した。



 はじまりの街[スパデズ]西口付近では、『伯爵はくしゃくレグホン』LV3がコケコケ鳴いているのだが、そのまま ずっと道なりに進んでいくと、前方に橋と崖が見えてくる。

 はじまりの街[スパデズ]のある半島は、周囲が断崖絶壁で、出会いの街[ヘアルツ]のある大陸へ行くには、この橋を渡るしか無い(少なくともこんな低LVでは)


 「………」この橋は『大陸』から『クリスタルがある半島』に誰でも渡れる様にするため、元々一番場所に、ピラミッド建造の様に大勢で石を運んで、「その石を ひたすら投げいれて作った」…とかいう大雑把おおざっぱ極まりない成り立ち、らしいのだが。(無茶設定すぎるだろっヤマコウ)

 …まぁぶっちゃけ? 初心者を隔離して、保護育成するためのフィールドであり、

『橋を渡ってからが本番』…とかいうシステムであろう。


 その石橋を大勢の初級冒険者(俺達)が渡って行く。

 この橋の上は『階段』と同じ扱いなので、〈戦闘状態〉に切り替える事は出来ず。モンスターも近寄れず、POPも出来ない『安全地帯』となっている。

 つまり橋を渡りきって、『大陸に入ってから出会いの街[ヘアルツ]に到着するまで』…が『危険地帯』という事になる。


 いくつか理由があるのだが、まずなんと言っても『方角』の問題がある。

 はじまりの街[スパデズ]では、『南が一番弱く』、『北が一番強い』モンスター… という配置だったのだが、これはに当てはまる。

 つまり『橋(西)から、出会いの街[ヘアルツ](東)に向かう』…というこのルートは、

実は『そこそこ強いモンスター』が配置されている…という事だ。


 そのため「最初に通る道だから、出会いの街[ヘアルツ]で最弱の敵のはず。さっそく戦ってみよう」などと迂闊うかつに戦闘をはじめると、割と簡単に全滅したりするはめになる。


 なるべく戦闘を避けて、道なりに まっすぐ『東口』から街に入り、

出会いの街[ヘアルツ]のクリスタルに触れて、死亡時の『復活地点』を変更してから、

『南口』からモンスター討伐をはじめる……のが正しい手順? と言える。

 ※『死亡時の復活地点』は、『最後に触れたクリスタル前』である。

…復活出来るのか? は不明のままだが。



「とりあえず戦闘は、しない方向でいいですか?」

「えぇ、そもそも回復しか出来ないので」

「ここもさ~、饅頭ひつじ?だけなら? オイシイのにね~」

「……おいしい」

「だよねぇ」

「ですよねぇ」

 『安全地帯』である橋から出る前に、ユウコさんが最終確認をする。おそらくTJO経験者なので、ここから先は『俺達のLVには そぐわない狩場』である…とわかっているのだろう。



 「………」『饅頭ひつじ』LV7とは、はじまりの街[スパデズ]から橋を渡り、出会いの街[ヘアルツ]のある大陸側に来ると、見かけられるようになるした羊である。


 通常ドロップは『羊饅頭』であり、「ウメェ~ウメェ~」の鳴き声の通り、もちもち、しっとりとしていて、餡は肉汁たっぷりで美味しい(らしい)。

 『レア』、『激レア』ドロップには『宝箱』が設定されており、「ウメェ~ウメェ~」の鳴き声の通り、これまたオイシイため、しばしば乱獲される。初級冒険者の生贄いけにえとなる存在である。


 漢字は「マントウ」と読む。やけにLVが高く、とてもHPが多い。角で器用に攻撃をガードする事もあり、さらに しばしば逃げ回る。

 そのため戦闘が長引きがちで、『ひつじ狩り』に夢中になっているところを『盗ゾック』達に襲われて、『ミイラ取りがミイラ』ならぬ、『羊取りが(生贄の)羊』…になる事がある。


 『盗ゾック』達とは、[スパデズ]~[ヘアルツ]間に、たまに出没する… 元は、戦士、斥候、僧侶、魔法使いだった盗賊達で、何故か皆『黄色の一つ目模様の兜』を着用している。


 『盗ゾック(斧)』LV8、『盗ゾック(ナイフ)』LV9、『盗ゾック(メイス)』LV10、『盗ゾック(魔法)』LV11が、大体2~5体で行動していて、

 使用する魔法は、『盗ゾック(メイス)』が、まれに治癒魔法[ヒーリング]。『盗ゾック(魔法)』が、火球[ファイヤーボール]、稀に氷のつぶて[ヘイルストーン]を使ってくる。


 付近にあるダンジョン[盗賊のアジト]1層をメインにしているが、『饅頭ひつじ』が襲われていると、周辺をうろついていた者や、居なければアジトから出て救援?にやってくる。

 ちなみに2層の奥には『ドス盗ゾック』LV15が、『盗ゾック(銃)』LV13を3体従えて潜んでいる。(なお『ドス盗ゾック』の、”ドス”とは(略 )


 はじまりの街[スパデズ]では『最大でもLV9までしか上げられない』ため、編成によるもののLV8~LV11の『盗ゾック達』に襲われると、大抵の場合は壊滅的なダメージを受ける。

 (俺達が諦めた[山の洞窟]2層の、『山ゾック(銃)』はLV7、『ドス山ゾック』はLV9だから、脅威度はおわかりかと思う)


 つまりここより先、出会いの街[ヘアルツ]東口方面では、宝箱をドロップしやすい『饅頭ひつじ』LV7が、『自らエサ』となって初級冒険者をおびき寄せ、LV8~11の『盗ゾック』達が複数で襲ってくる…という『コンボ』を決めてくるのである。ヤマコウこんなのばっかりだな。


 『はじめて”魔法”を使ってくるモンスター』という事もあり、推奨討伐LVは13~15といったところであろう。橋を渡ってすぐのLV9以下の俺達に、どうこう出来るモンスターでは無い。


 しかし[山の洞窟]の経験があると、たったLV7の『非アクティブモンスター』である『饅頭ひつじ』を見ると…つい「こんなやつぐらい」と思ってしまうのだろう。ここでもよく初級冒険者が命を落としている。ウメェ~誘いにのってはヤマコウの思う壺なのだ。

 ※おそらく街の守衛と同じ? 様なシステムらしく、『饅頭ひつじ』を襲って、しばらくすると ほぼ『盗ゾック』達がやってくる。



「それでは、まっすぐクリスタルへ向かいましょう」

「おっけ~」

「……ん」

「了解です」

 そんなわけで俺達は、はじまりの街[スパデズ]を後にして、ヤマコウの企みに乗る事無く、大陸最初の拠点となる 出会いの街[ヘアルツ]のクリスタルを目指して、『安全地帯』の石橋の上を後にしたのだった。



 大いなる使命? 待ち受ける運命? ……いやぁんじゃないかな?



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LV:9(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:8,465G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×24、バリ好きー(お得用)100%、

樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ



〔※1〕TJOにおいて、ささやき、耳打ち、ウィス(WIS)、ウィスパー(whisper)とは、1対1での会話である。ただしこれは他人には聞こえない『秘密チャット』で、周囲からは何もしていないように見える。

 念話テレパシーを想像してみてもらえるとイメージしやすいだろう。ささやき、耳打ちとはいうものの『距離は無限』で、ログインしている相手ならどこに居ても会話出来る。


 ちなみにパーティチャットなども、そのメンバー内でしか聞こえない一種の秘密チャットである。こちらも距離は無限で、ログインしている相手ならどこに居ても会話出来る。

 秘密チャットであるので陰口にもなりかねなず、また聞こえない者には疎外感を抱かせるので、第三者が居る状態で使用する場合は、その点にも配慮した方が良い。

 補足として、これらは相手にブラックリスト(迷惑プレイヤー)登録されていると出来ない。



「ご主人さまは、みならい~?」

「あぁ、今後もずっと『みならい僧侶』だ」

「ふ~ん」

「まぁ『僧侶』ぐらい公開しても、どうでもいいが…… 変えるの面倒だしな」

「そんなりゆう~?」

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