007 フィールド探索へ?
道具屋の量産型おっさんについては割愛する。いつものやつなのでスルーだ。
「とにかく初心者はこれ買っとけ」と言わんばかりの初心者用道具セット(小)1,000G を購入し店を出た。
「ご主人さま~、もうお昼すぎてるよ、ごはん食べないの?」
「………」おっさんガン無視したり、牛歩したり、ミケネコ買ったり、縞パンみつめたりしたので思ったより時間がかかっていたようだ。…いや縞パンはそうでもないはずだ。断じておっさんが悪い。
「そうだな、先に昼飯にしよう」
ゲーム時代は当然腹は減らない、そうすると多様な職種にある『料理人』系が存在価値を失ってしまう。そこで…かはわからないが、食事をすると一定時間ステータス等にプラス補正がかかる。
料理人の腕にもよるが、より上質な、高級な料理ほどかなりの効果が期待できる。はっきりとはされていないが隠しステータスである『運』にも影響があると言われていた。
ともかく腹が減っている感じでは無いが食事には興味がある。ゲーム時代のメニューを実際に食べてみたい。
ここの宿屋では飯が出ない、必然的に宿屋の周辺には宿泊客目当ての食事処や露天が集まっていた。…逆なのかもしれない。周辺に料理店がたくさんあるから、飯を出さないのかもしれない。
「ご主人さま~?」
「あぁ、宿屋の裏の方に行こう」
「うらのほう?」
「行きつけの店が……」
「………」あるのか? ここまでは大体ゲーム時代の記憶通りだったが。
「ご主人さま?」
「とにかく行ってみよう」
ミケネコは少し首を傾げる格好をした後で、耳をプルプルッと数回ふるわせて俺の後をついてきた。そういえば『サポートペット』って食事とか必要だったか? …当時は『倉庫』としてしか見てなかったから気にもしていなかったが、実際にこうして猫そのもの、みたいな姿を見ていると不安になってくる。
「ミケネコは食事とか必要なのか?」
「きほんてきに食事はいらないよ」
「基本的?」
「ペットショップでカリカリした物が売ってるんだよ、それをたべるとしあわせになるの」
「そうか」
「それをたべるとしあわせになるの」
「………」ミケネコが瞳を輝かせてこちらを見ている。
しまった! ゲーム時代では『サポートペット』は何も食べないで平気だったが、
聞かれなかったから『カリカリした物』を要求してこなかっただけだったのか?
「それをたべると「わかった…昼飯の後で買いに行こう」」
「やった♪」
ミケネコの尻尾がウェーブを描くようにウネウネと波打っている。嬉しいとこうなるのか?なんとなくミケネコのアゴの下を掻いてやった。手の平に鼻を押し付けてくる。うむ、猫っぽい…多分。
そうこうしながら宿屋の裏手にやってきた。『ミスターチキン〔※1〕』……うん、行きつけの店はあった。
しかし鳥肉メインの店なのはわかるのだが、ミスターチキンって「臆病者野郎」とか「腰抜け野郎」とか「小心者」とか、そんな意味なんじゃ…まぁいいけど。
扉を引いて中に入ると、揚げ物の匂いが漂ってきた。
「よう兄ちゃん、新顔だな?うちはチキンが自慢だ、チキンオンリーだ、何にする?」
いつもの量産型おっさん(CV:立木文彦)だ、当然新型なので安心してほしい。「小心者」には見えない。
「ササミカツ丼」
「ササミカツ丼だな、500Gだ」
500Gをテーブルに置くと、「3」と書かれた木製の番号札を渡される。
「それを持って適当に空いてる席で待っててくれ、おいササミカツ丼1丁」
「あいよ」
厨房から量産型おばちゃんらしき声が聞こえる。気にしても仕方が無いので少し奥のゲーム時代にいつも座っていた席に座ると、ミケネコがヒザの上に跳び乗って丸まった。
とりあえずテーブルの上にひっくり返して重ねてあるコップと隣の水差しを見つめる。
《名:客用コップ(木) 所有者:ミスターチキン[スパデズ]店 〈警告〉敷地内から持ち出すと窃盗となります》
《名:客用水差し(木) 所有者:ミスターチキン[スパデズ]店 〈警告〉敷地内から持ち出すと窃盗となります》
客用だから大丈夫だろう。コップを取り、水差しの水を注いで一口飲んでみる。
水だ…カルキ臭さも無いが井戸水臭さも無い、THE 水 だ。
よく考えるとこの世界ではじめて飲食した事になるな。水でした。
ヒザの上のミケネコの背中を、掌で軽く流すようになでる。う~ん…温もりもある、猫っぽい…多分。
「「3」番の兄ちゃん、ササミカツ丼お待ち」
量産型おっさんがササミカツ丼を持ってやってきた。「3」と書かれた木製の番号札を量産型おっさんに渡す。
「ごゆっくり」
「3」と書かれた木製の番号札と引き替えに、持ってきたササミカツ丼を置いて量産型おっさんがカウンターに帰っていく。
「………」陶器らしき器に陶器らしきフタがしてある。普通の丼ものに見える。
テーブルに置いてある入れ物から箸を取り、陶器らしきフタを開けると、卵と揚げ物の匂いがぷ~んと鼻をくすぐる。見た目はカツ丼に見えるが「ササミカツなので実は親子丼ではないか?」と思うササミカツ丼。ゲーム時代は序盤のお供として、いつも食べていたが実際に食すとなると感慨深いものがある。
まずはササミカツから…
衣はさっくりササミは淡白なあっさり感、それでいてしっかりと鳥の旨みが感じられる。
半熟よりややしっかり火が通された卵も、まろやかでほんのり甘い。
その卵がしみこんだご飯も(米の品質はともかく)少しかために炊いてあり、噛むごとにご飯の旨みと卵の甘みが溶け合っていく。そこにササミカツをかき込む…美味い。
確かに腹が減らなかったとしても、これなら食事を取りたくなる。TJOの料理人に感謝したい。……ここの料理人は量産型おばちゃんだった、ありがとう量産型おばちゃん。
ゲーム時代に慣れ親しんだ、この世界で初めての料理(ササミカツ丼)を存分に堪能し、ミスターチキン[スパデズ]店 を後にした。
「ご主人さま! カリカリした物!」
「わかってる、けど先にこの辺りで保存食を買う」
「む~」
ミケネコが尻尾をピシッ、ピシッと揺らしている。少しイラついたようだ。まぁ『おあずけ』みたいな状態だしな。実際あれは犬にはかなりのストレスらしい。しつけは必要だが人間が優越感にひたるためだけに、むやみに『おあずけ』するのはやめてあげよう。
そんな訳でさっさと『干し肉』を500G分購入して『インベントリ』に放り込んだ。
まだ初心者用道具セット(小)しか入ってないからな。
「ご主人さま!!」
「わかった、『ペットショップ』に行こう」
ミケネコまっしぐらだな。「それをたべるとしあわせになるの」って、なんかヤバイ成分とか入ってるんじゃないだろうな。
何度もふり返りながら『ペットショップ』に急ぐミケネコを追いかけて、もう会う事もないと思われた量産型おっさん3号の待つペットショップへ向かうのだった。
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LV:1
職業:みならい僧侶
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:2,000G
武器:なし
防具:布の服
所持品:2/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×10
〔※1〕フィクションです、実際に存在しているかは知りません。
実際の店長が小心者かどうかも知りません。質問したりしないでください。
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