第4話怖い存在やない
「つまりだ。俺がこの部屋に新しく引っ越してくるということがわかって、君らは幽霊だから、怖がらせないように、何か面白いことを言ってみる準備をしていた」
「はい」
「そうなんです………幽霊がいくと………幽霊が出るとやはり、驚かれるでしょう?」
「怖い存在やない、知ってもらいたかったんや………、笑ってもらいたいんや」
「もう関西弁いいよ………
「あ、つい………」
「だめでしたか?」
関西弁はだめだが………。
だからってコントかよ、突飛すぎるだろ。
真面目に考えたすえの、コントって。
初見じゃ驚くというか、困惑するしかないだろう。
「―――なるほど、そういう事情があってのことならば、納得はいく」
「で、面白かったですか?」
「実際ウケてしまったのは認める」
「ほっ」
「幽霊ならではのネタ、特性を利用しているのはすごく画期的だ―――バク宙などの動きはアリだな。ステージで
―――が。関西弁を使うのは、いただけないな。関西人でもないのに無理につかうこともない。
引っ越してきたのが俺じゃなくて関西人だったら、安易に言語を関西弁にして『どうだ、面白いことを言っているだろう』というような意識、言いたげなネタを見て、がっかり、いやむしろ怒りを覚える可能性はあるね、その安易さに」
俺はなおも続ける。
ぽかんとした顔をした幽霊二人、だが、言いたいことはまだあった。
「幽霊であることを生かす題材は決して悪くないんだから。そもそも関西弁だと無意識に観客のハードルも上がってしまい、笑いが取りづらくなる恐れがある。それと、ややワンパターンだね」
その感想に対して二人は顔をしかめる
にがい顔だ。
「そ、そんな風に言わなくても」
「あとはあれだ、コンビ名は何―――、あれ、『ニラ』?」
「『マッチャニラ』です。ニラじゃありません」
「抹茶………、ニラ?ネギの親戚みたいな野菜?」
「あの、だから―――
「私が抹茶アイスが好きで、ゆうめはバニラアイスだっていうから、それで合わせたんだよ、『マッチャバニラ』!」
うっわぁ、適当だな。
「芸人のコンビ名っていうのはお互いがそうやって名前を持ち寄って作ったモノが多い。あとは好きな漫画や映画から取ってきたとか、寝ているときに見た夢で、そう呼ばれただとか、バイト先で運んでいた鉄骨の長さ(数字)だとか、いろんな例があるが―――」
「そんなのでいいんですか?」
「鉄骨?」
「そんなのでいいんだよ」
ロックバンドのコンビ名なども、名付けられ方は様々、カオスを極めている。
適当どころか、知り合いに勝手に決められたという例もあるのだ。
「でも、それだったら、マッチャニラでもいいのでは?」
「アタシもそう思うー」
「俺がもったいないと思うのは、幽霊であることをコンビ名に入れていない点だ。君らが。あんだけ幽霊ネタを繰り返して、コンビ名はアイスクリームだなんて―――そこをアピールしていかないのはもったいないを通り越して、違和感でしかない」
「えー………」
「えーじゃない!『ゴーストバスターズ』とかの方がいい」
「うわ………『ゴースト』って、うっわ………」
「
「ああ、あと言い忘れていた。最後の、『スキー場』?だったっけ、中断したものがあっただろ」
「ああ………『大雪が降って張り切っているスキー場に来た、ワガママな客』ですね」
「それ、それ………『大雪ネタ』、それのことだけどさ」
「はい………?」
「『脚がないからスキー靴が履けませんでした』………っていう、オチ、じゃあ」
「………」
「ないんだよな………もちろん?」
「なっ………」
「………」
「なんで、わかるんですか」
「エスパー………かな、怖い………ねえ、ゆうめ、この人ヤバくない?」
当たってしまった。
俺も半信半疑、もしやと持っていて見ただけなのだが。
当たってしまった。
幽霊が二人とも驚愕している。
引いている。
怖いだと?
幽霊が怖いとかぬかすな、ぼけ。
しかし、幽霊ネタで固めたのだとしたら、次のネタを予測される恐れがあるな。
脚がないネタどんだけ引っ張るんだよ。
きついよ。
昨今の、リズム刻みながらネタやるスタイルでも無理があるわ!
………いや、ギリギリいけるのか?
「もう少し指導が必要だな―――まあ、俺を笑わせたいんなら?」
「いや、笑ってますけど」
「ウケたじゃん」
「うるさい、とにかく特訓だ!」
幽霊二人組とのお笑い探究編が始まるのだった。
と、思うのだが、何か忘れているような………あれ、なんだっけ。
何の話だったかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます