第57話テツ&アマ その7

しばらくは、何でもない、普通の日々が続いた気がする。

これは俺の五年前の記憶であり、だから細部は覚えていない部分もあるのだ。


部活にはちゃんと通い続けた。

やはりあのクズの発言のことに関しては俺に同情してくれる人がいて、と言うか―――なんだ。

いつも通りに戻ろう、という励ましの声とともに肩を叩かれた感があった。

温かい奴らだった―――。

本当に―――悪い奴らは少なかったように思う。

ただ、俺は。

俺の方は、居心地が悪かった。

上手く、相手の目を見ることができなかった。

俺は、もうすぐ引っ越す。

ここからいなくなる。

それを―――隠している。




アマといる時間は、支えだった。

唯一の―――とはいかないかもしれないが、楽しかったっていうか、なんていうか。

まあ。

家のこととか勉強のこととかいろいろあったが、こいつがいたからこそぎりぎり保っていた節はある。

文化祭の実行委員は、この時は、この時点では俺だった。



「じゃあ文化祭のときはカツアキに頑張ってもらうということで」


俺とアマはカツアキを見た。


「んぉ?俺?」


「カツラをかぶるのはお前、だからお客さんが来たら黒髪の幽霊サダコに化けて飛び出せ」


「うえー、でもよぉ、テツ。俺、フランケンシュタインがいいって言ったよな」


「いやいやいや………」


日本の墓場がモデルだって、モチーフだって言っただろ。


「いや、最近映画で見てさぁ。題名忘れたけど」


それだったら俺は『プレデター』見たぜ。


「………それ、は」


「幽霊じゃあ、ないじゃん?」


一匹くらい混ぜておくか?怖いことに変わりはないし。


「それこそぶっ壊れるだろ!お客さんは怖がると思うけど!」


ううむ、でもアレのメイク作ると楽しそうなんだよなー。

うん。

それはそうとして、問題があるんだ………どうもカツラが足りないらしい。


「カツラ?カツラって、髪のことか?」


演劇部は演劇部でつかうから、そのあまりをもらうっていう形なんだが、黒髪のがひとふさ、金髪のがひとふさ。


「ひとふさ、と言う表現で合っているのかよ?」


知らねーよ、カツラの数え方なんて。


「でも金髪って!怖くなくなっちゃうじゃん!」


「エレン先生かよ」


あぁ―――シナリオに変更が必要だな。まずサダコが墓場にいて、そこに金髪のおねーちゃんがやってきて『ハァイ!黒髪の幽霊サダコ、久しぶりー元気してた?』


「くだけてんなあ!おかしいって、仲良すぎだろ!」


んで、あァ、どうすっかなぁ、黒髪の幽霊サダコが『はぁいジェニファー、元気してたぁ?』みたいな


「ジェニファーかよ!名前!えっ、その二人、幽霊なのか、二人とも?」


二人とも透けてる。当然。


「なんなのそいつら、その二人、仲良すぎない?」


フランスから来た留学生で小学校中学校、高校と、同級生だったという設定で。


「衝撃的すぎるだろ!」


んで『久しぶりにさ、あれやる?』『あれって?』『みんなの前でよくやってんじゃん、ホラ』


「なに」


二人で向き直って、構えて、

『やっちゃエジプト文明!やっちゃエジプト文明!』


「そこでソレぶっこんで来るのかよ!幽霊の女がコントするわけねーだろ!」



アマが爆笑していたあたりで、俺は教室の入り口あたりから、呼ばれる。


委員長がやってきた。

いや、最初に俺に近寄ってきたのは委員長じゃなかったと思うのだが。

谷瑞たにみずの、おどおどとした、なんだか困ったような表情は、なんだかやけに強く覚えている。

………なんだかんだと言って、呼び出されたことに変わりはない。

女子から話があるとのことだった。


校舎の陰に呼び出されて、言われたのだ。

簡単に言うと。

―――文化祭の実行委員を降りてほしい、ということだった。


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