第23話全員テンションがだだ下がり

それはこういう話だった。


昨年か、二年前かわからないが、妹の通う高校の隣の地域の高校で、文化祭を開催。

特筆することもない、いたって普通の高校文化祭だった。

お化け屋敷を出し物としたクラスも、もちろんあった。

クラスの中は真っ暗で、前が見えないほどだったという。

それが問題の発端で。

その中で年配のお客さんがいて、段差につまずいて転んで、足首を捻る怪我をした。

病院に運ばれるという騒ぎが起きた。


「学校側は暗いうえに段差がある、こういった危険がある以上、しばらく禁止にすべきだ―――暗いだけのお化け屋敷も駄目だっていう立場だとか」


「お化け屋敷は、そりゃあ暗いだろうよ」


俺は呆れる。

ケガをされた方には悪いが、こりゃああんまりだ。

こういう問題は近年発展めざましいな―――公園の遊具が危険視されて次々と撤去されている問題も、近いものがある。

時代の流れは残酷だ。


「それで?隣の学校での騒ぎがあったから、お前の学校も禁止にしたの」


「うん、やっぱり自重するっていうか、そういう風潮はあるみたいだから」


「禁止、禁止か―――まあ確かにケガ人が出るのは面白くない。それで、何になったの、出し物」


「迷路だけど………」


「おお、割と大掛かりなもん取ってきたな、いいじゃん」


「うーん………クラスの雰囲気がね。意気揚々とお化け屋敷取ってくる宣言してきた私なんだけど、戻ってきて報告したら、クラス全員テンションがだだ下がり」


お察しするぜ………。


「でもお前悪くないじゃん」


「そうだけどさ………文化祭委員になった私としては、最悪のスタートだよ。早速出鼻をくじかれた」


どこかの誰かみたいだな、と思ったが。

くっそ、人生とはこんなことばかりなのか。

それともあれか、うちの家系だけか?


「お客さんを呼べるように色々イベントをしているけれど―――その代わりになんていうの、地域との密着がテーマっていうやつで、近場の幼稚園から子供を招待するの」


へえ、まあお化け屋敷がない文化祭っていう時点でチャーシュー抜きラーメンみたいな感はぬぐえないが………。

学校側も色々やってるね。


「いや、でも待てよ。幼稚園児なんてどこでも転ぶぜ?学校側も支離滅裂なことやってないか」


「随分穿った考えだね。転ぶのなんてお兄ちゃんだけでしょ」


「俺だって転ばねえよ、何言ってんだ」


「冗談だよ………あ、でもよく転んだってお母さんが言ってたよ、私が生まれたころとか」


「あの人信用すんな。虚言癖あるからな、気をつけろよ」


「息をするように嘘をつくね、吐くね………幼稚園児やその保護者が来るの」


「保護者もか」


「保護者もらしいんです」


学校だけでなく、近くの人たちが来てくれればそりゃあ集客は見込める。

地域の人たちにこの高校は素晴らしいと思ってもらえれば、それに越したことはないのだろう。


「ほほう―――それはそれは」


自分の頃とは違う思い出が出来そうだな―――とは思った。

しかしそれでもやはり、だからこそお化け屋敷禁止は大きな痛手だなとも、感じる。


「まあ、来てくれる人が増えるのはいいことじゃないか」


「うん、うん」


「しかし時代の流れかねえ―――ゲームセンターにあるゲームがおとゲーばかりになって、俺の好きな筐体きょうたいに限ってなくなっていく現象のようだぜ」


「お兄ちゃんの考えっていうか、経験でしょ、それ………とにかく私たちの世代は、ジェネレーションは、進化した文化祭をするの」


進化したのかな、これは。


「何だか知らねーが大変そうだな」


「やりがいはあるよ………」


強がっているのかなんなのか。

それなりに熱意に燃える瞳をした我が妹。

若者の目だ。

若人の目だ。

時代の流れは残酷かもしれないが、若人はそれにあらがうすべを持っているのかもしれん。


俺はその眩しさに当てられ、少し目をそらす。

自分はもう持っていない物だったからだ。

そしてそのまま、本棚に目をやる。

あるものを目にしたので、何気なく意見を出す―――。

この時は、確信を持って言ったわけでは、なかったが。

面白いことを思いついた、とは思った。


「いや、待て妹よ。その『お化け屋敷』、出来るかもしれないぞ………?」


「え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る