第29話高校文化祭、当日

旭日町あさひまち高校文化祭、当日。


当日と言うか、一日目。

妹の高校の文化祭に、俺も乗り込むことにした。

本音を言えば迷っていたが、土曜、日曜に開催ならば実家に帰るついでに行けるわけだし。

妹―――。

妹はなんだかんだで俺に文化祭のことを教えた。

とすれば、来て欲しかったのだろうか。

ふうむ。

深い意味はないのか。

俺の通っていた高校とは違うし、まあいいかと言う気はする。

俺の母校に行くならばなんとなく気合を入れる必要があるし。

苦手な教師に見つかると―――現国の佐賀とか。

心臓の回転数が上がるんだか、BPMが上がるんだか、とにかくわずらわしい。

この人間だけはどうしても苦手で、近くにいると全身の力が抜けていく、調子が狂うという教師が一人はいるのだ。



ていうか人から見られることでむしろ調子を乱すんだ、ウチの家族は。

うちの家系は。

一人のほうがいい。

慣れないお祭り騒ぎに家族を呼ぶのは、間違った心配をされる。

などと考えていると。


「こっちおいで、お兄ちゃん」


妹が呼ぶ。


「お兄ちゃん言うな。校舎内で言うな。ハズいだろ」


俺は挙動不審になる。


「こっちおいで、お兄ちゃ………あまはし。早速見せるから、私たちのお化け屋敷」


手をひかれる。引きずられる―――午前の早い時間に来たため、まだ客はまばらだった。

だからスムーズに廊下を引っ張られる俺ことお兄ちゃん。

生徒がいないタイミングだ―――。




そして、二年四組。

妹の教室らしい。

俺は文化祭委員であるところの高次多々良に連れられ、教室、お化け屋敷に―――入る。

それは、明るいお化け屋敷。

当初の予定からはかけ離れたものだった。

しかし、俺は圧倒されてしまう。





極彩色だった。

天井周りにはだれが持ってきたのだろう、アジアンテイストな色のスカーフが所狭しとぶら下がり、日光を通して淡く色を放って、風に小さく揺れている。

机をびっしり並べて、S字の通路を構築した簡単なもののようだが、机の上には多くの雑貨が所狭しと並べられていた。

そうだ、依然は言った雑貨を思い起こされる、やたらとカラフルなお店。



机の上には雑貨屋さながら、ものであふれていた。

ものというか、キャラクターものの筆記用具、目覚まし時計、消しゴム、クリッカー、よくわからない外国の文様の皿、キャラクターもののぬいぐるみ。

部屋を意識しろとは言ったが、なんだこれは。

妹のクラスメイトが持ち寄った謎アイテムがある。

所狭しと並べられている。

これではお化け屋敷というより、フリーマーケットでも開けたんじゃないかと思える程度の、謎の空間。



俺が想定して置いた、やかんやフライパンなどの音を出すアイテムを、やっと見つける。


「これは音が鳴るのか?ちゃんと」


「うん、リハーサルもうまくいったし問題ないよ、今は裏方がいないけれど。集合してる」


「ここが一番難易度高いと思うが」


「ちゃんと、工夫してくれる人がいたの」


「………そうか。あれ、お前だけここにいていいの?」


「私委員会だし、別扱い」


「ん、そうか」


「やかんの音はすごいよ………」


妹が、試しにとばかりに突っつくと、がらんがらん、と変な音がした。


「中に、五円玉を入れてあるの、他にも音を大きくするように、色々」


「俺のアイデアではないな」


「みっちゃんが言ったの」


「………」


思っていたのとは違うものに、妙な感情が沸く。

妹を見ることができない。


「いい、友達だな」


「いや、最悪だった。マジでまとまりにくかったよ、みんな」


「それでも―――出来てよかったじゃねえか。今のところ、思ったよりちゃんとしている」


天井から下がっている、多数の布を見る。

窓が開いて風が入り、オーロラのようだ。

………これだけ、天井にあれば、と俺は内心ニヤける。


「すごいじゃないか」


「まだまだあるよ、あの人体模型なんて、ね………自信作だよ」


「人体模型?そうかその手があったか、誰が思いついた―――」



「高次さん」


振り返るとドアが開いていた。

男子生徒が覗き込んでいる。


「駄目だよ、部外者を入れちゃあ。まだ開いていないのに」


「根白坂くん………」


妹は言う。

同じクラスの男子かな?

彼と目が合う、おとなしそうな子だ。

ふふふ、君たち、この文化祭でお化け屋敷を開けるのは、誰がアイデアを出したからだと思う?

ふふふ。

………などと、大人げないことはしてはいけない。


「ああ、俺は―――」


「お兄ちゃんなの、私の。親類だから、大目に見てくれない?」


「………仕組みがわかると、楽しみが減りますよ」


そう言って踵を返し、廊下へ出ていく。

クールな男子だ。


「悪いな多々良、出ていくよ」


「え、まだ全部は―――」


「客としてくるから」


著作権は俺にあるけどな。


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