第14話こんな団体が

世の中には色んな団体がある。

まあそれはさておき。

表現の自由、とも違うが―――団体の自由(結社の自由だったかな)。

とにかく、日本人ならそういうチームを作ってもいいよ、ということは自由権の一種としてうたわれている。

だから心霊研究会があっても不思議ではないのだ。

大いに結構。


しかし、このタイミングで見つけるとは、運命的なものを感じる。

完全な不意打ち、大学でも『霊』というワードが出てきたことに、いささか動揺を隠せない俺であった。


「………なにか」


黒衣の女の子が応答する。

大きくはないが、妙に引き込まれる、いやさ吸い込まれるような声だった。

まつ毛が長い………見つめられると、不安になる。

ブラックホールのようだ。

重力波が観測できそうだ―――というと、あれは心霊ではなく天文学の分野だそうだが。

彼女に吸い寄せられるように前のめりになりつつ、近づく。

言い難い雰囲気があった。

まぶしくないからこそ、近づいて見たくなる。

そんな、オーラ。


「入部をするならこの用紙にサインと、心霊体験を」


「あ、いやぁ………見ていただけでして、ハハ………し、心霊体験、え、それって、なんですか?」


「読んで字のごとく。幽霊を、見たことがあるかないか、話しかけられたことがあるかないか」


「ま、まあ………」


俺は言い淀む。

普段なら、心霊研究会なんて言うワードを見ても、特に何も考えずに感じずに、通り過ぎてしまっただろうが、ううむ。

立ち止まって会話を始めた以上、なにか得を見出そうとして、俺は、相談しようとした。

やんわりと、初江ゆうめの件を相談できるかどうか。


―――霊魂が出たことを生きている人間に無暗に流布してはならない。


ここで、あの一文を思い出した。

そうか。

言ってはいけない。

だ、だが………知りたい。

いや、知りたいのか?俺は。

心細いのか、情報がなくて不安なのか、俺の部屋で一人で抱え込むことになり、不安なのか。

俺は自分なりに悩んだ挙句―――。


「どんな活動をするんでしょうか」


無難な質問をはじき出した。


「心霊スポットをサークルメンバーで訪れることはある。普段は部室でホラー映画鑑賞。他大学ただいがく………他のサークルとの情報交換など、多岐にわたる」


………まあ、思ったほどの突飛さ、めちゃくちゃさはない。


「地域と密着したボランティア活動など」


「ボランティア?」


「幼稚園や保育園に訪れて、怪談の読み聞かせをおこなっている」


「おこなうんですか、それを!」


なんとも迷惑なボランティアだ。

子供が泣いてしまうぞ。

目的はあるのか、それ。


「子供たちに幽霊についての知識を深めてもらう」


「………そうですか」


「質問はある………?」


俺は、何となく彼女の目から視線を逸らす―――。

黒衣が映った。

それを察したか、彼女は答えた。


「………この服は、借り物です。演劇同好会から」


「いいっすね………雰囲気、在りますね」


「ありがとう………部長が着ろと命令したからこその、着用です。そろそろ戻ってくるはず」


と、言いながら、紙を差し出す。

紙と言うか、心霊研究会の特徴、活動内容、部室の場所などが書かれたパンフレット。

受け取って目を通す。

『自分が死ぬ前に幽霊の世界について知っておこう!』

という縁起でもないキャッチコピーが躍っている。

………躍るなよ。

踊っている幽霊のイラスト(提供:漫画同好会 Tさん)も描いてあった。


「活動内容だけれど―――」


黒衣の少女………いや、サークル紹介をしているからには、二年生以上、つまりは年上のはずだが。

立ちっぱなしの俺に対して座っているせいで、あまりそうは見えない。


「活動内容、他にも除霊など」


「………除霊」


「はつみーん!」


反芻しかけた時、黒衣の少女は何者かに攫われた。

攫われたというか、新しい女子が現れ、彼女を横合いから抱きしめたのだ。

椅子が結構な音を立てて軋む。ラグビー部のタックルにも似ていた。

俺が驚く間に、二人の会話は進む。


「どう?新入生釣れた?」


「………まだ。チラシは?」


「配り終わってきたよ、凄いでしょ、褒めて褒めて!」


「………ご苦労」


タックル女子は黒衣女子のおひざ元に頭を置く。

そのまま黒衣さんに撫で撫でされていた。

やれやれ、と言わんばかりに黒衣少女はこちらを向く。


「いつでも、部室に来て」


丁度その時、清州くんの声が聞こえてきた。

体育会系集団から解放されたらしい。

俺も、その場を後にし、他のサークルを見て回ったが、あまり記憶には残らなかった。

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