第13話骸骨紳士とサークル紹介と
そんなこんなでアロマキャンドルは準備して。
あの骸骨紳士、宇喜多さんが再びやってくる日になった。
「わー、本当に買ってきたんだ、あ、これ久しぶりー」
キャンドルを目にした初江さんの機嫌は良かった。
幽霊に嗅覚はあるのか、というのは野暮なツッコミだろうか。
死者との儀式で火を灯す。
怪しげな儀式で香を焚く、というイメージは、俺の中にもあったが、まあ漫画とかで得た知識だ。
火を灯す………まあ厳密にいうなら、封を開ける時点でいいにおいが漂っていたのだが。
「ゆうめ、バニラの方が良かった?」
ジャスミンの香りが広がってきた―――どことなく、目が醒めそうなころに言う。
「ううん、そんなことはないよ」
「バニラだと甘いんだろ」
「そうですね、儀式向けじゃあないかも………でも、甘い匂いの蝋燭って、多いらしいです。何でも、ミツバチの巣は、蝋燭の原料になる有名だって………中世のころは多かったらしいです」
スズメバチだったかな、と遠慮がちに呟く初江さん。
知らない知識だった。
ミツバチの巣、そうなると確かに甘そうだ。
で。
蝋燭を三人で囲んでいると、バースデーパーティみたいな様相になったが。
いや、ならないか。
一般人から見れば俺しかいないように見える、つまり一人バースデーなわけだし。
果たして現れたのは、骸骨だった。
約束通り、十二時………その五分前。
「ああ、こんにちはお邪魔します、皆さんお揃いですね」
炎の上からぬるりと現れたのが骸骨紳士では、雰囲気も何もない。
「んん、霊力も申し分ない、ノートパソコンなど文明の利器がありましたら電源を切ることをお勧めしますよ。霊が寄りにくいです」
「さいですか」
文明の利器、と言うかスマートフォンは押し入れに入れてある。
俺は資料をもらった。
相変わらず宇喜多氏の骨身の指が気になるところだったが、部屋が薄暗いため、以前ほど気味悪くは感じない。
「一般人には見えない書体です。薄くなった際には蝋燭の近くで霊魂と一緒に、読んでください。蝋燭を近づけ過ぎても字が濃くなるなんてことはないので、火事に気を付けてくださいね」
その資料についてはある程度、割愛しよう。
と、言うのも、軽くいくつかの項目を見た感じだと、それほど大げさな、地獄の死者が言いそうなことは書いていなかった。
・霊魂が出たことを生きている人間に無暗に流布してはならない、また、存在をほのめかす発言を禁ずる。
・平穏に過ごす霊魂に必要以上に危害を加えてはならない。
・霊魂に関してトラブルがあった場合、自分で解決しようとせず、担当者に協力を仰ぐ。
規則。
良くも悪くも、規則であった。
面白さなど見出そうとする方が野暮である。
つまりは、よくあるルールだった。
拍子抜けではあるが―――これ以上問題が増えられても困るから、良しとする。
「トラブルがあった際には担当者を呼ぶ………担当者と言うのは、宇喜多さんですか」
「私に相談してももちろん構わないのですが、崇常さんが適任です」
「ええっ!大丈夫ですか」
割と本気で驚いてしまう俺。
「アマくん、ひどーい………」
ううむ、俺の心境は、まあひどいけどな。
骸骨紳士は実に落ち着いた様子で続ける。
「はい。随分仲が良いと聞き及んでおりますが」
「誰から聞き及んだのか知りませんけど存じませんけど………事実と
「え、燈さんですが」
「えへへェ………」
崇常燈が褒めてもいないのに照れる。
えへへェ………じゃねーよ。
情報源お前だけかよ。
しかし宇喜多さんがそうそうここまで来れる立場じゃないのは、何となく察しているので仕方がないかもしれない。
「ええ、とにかく貴方のご厚意にお任せいたします。多少のマナー、心添えです。難しい話ではございません。そしてですね、初江さん」
「えっ………はい?」
「少しお話が………いえ、手間は、お時間は取らせません………重要なことですが。ええと、高次さま、すみませんが、二人だけでお話をしても?」
「ん?ああ………全然いいですけど」
初江さんと骸骨紳士は、中扉を素通りし、キッチンの方に行った。
もうこの、どこでもドア状態は見慣れた。
いや、どこでもドアではなく、どこにでも素通りできるという状態だ。
どう表現すればいいのだろうか、わからないが。
二人で話をしているらしいが、内容は聞こえない。
他人のひそひそ話だか重要な会合が、俺の部屋で行われているという状況に、一種の滑稽さを感じないでもなかったが………。
果たして、話が終わり、出てきた二人。
宇喜多さんと初江ゆうめ。
五分もたっていないと思うが、帰ってきた。
話し終えた二人は―――骸骨紳士に表情はない、まあ骨だし。
しかし初江ゆうめの方は、表情に陰りが見えた。
それは神妙な、深刻な―――?
もともと薄幸の気はあったが、輪をかけて―――と言うべきか、戸惑っていた。
どうしたのだろう、と思うが、気のせいか。
何ぶん、死者同士の話である。
口を挟むことは憚られた。
「重要なことはそんなところです。また何かありましたら崇常さんを通して、ご相談を」
「ああ、お茶でも飲んでいけばいいのに―――お湯は沸かしてあるよ」
完全に俺の部屋のキッチンを使いこなし、把握している崇常燈が、気楽に声を投げる。
それが不覚にも、心温まると思ってしまう俺だった。
そして日をまたぎ。
やっと入学式の翌日になったのだ。
出会ってからのごたごたはひと段落して、物語は、進み始める。
そうなると、大学でやることがある。
今日の予定はサークル紹介である。
「ごめーん、待ったぁ?」
そんなことを言いながら清洲くんが駆け寄ってくる。
彼女に言ってほしい言葉ランキングに入りそうな言葉だが―――だが彼は男だ。
畜生、男っ気しかねえ。
俺の人生、男っ気と、あと幽霊っ気だ最近は。
だが別に何も感じない。
「どこから回る、高次くん」
「あ、ああ………」
なんだか人懐こい性格なので、苦手である。
現実なんてこんなものさ。
………いや、こんなものではないか。
体育会系のサークルが力いっぱい声を張り上げている。
看板を持って大声を上げている学生もいれば、それぞれのサークルスペースの座席にすわっているが。
「フットサル!フットサルですー!」
「登山部よろしくです!」
「未経験の方でも大丈夫です、っていうか、初めての人しかいません、キンボール同好会をどうかよろしく!」
第三号館だったと思うけれど、一階から四階まで、色んなサークル、同好会がひしめき合っていた。
熱狂。
そこは若者の活気に満ち溢れていた。
「すげえ………やっぱり高校のころとは、なんか違うな………清州くん?」
あれ。
清州くんが消えた。
なんだよ自分から誘っておいて………と、少し愚痴りながら彼を探す。
「清州くーん?きよすくーん、キヨスク!」
唐突に思いついた彼のあだ名を詠唱しながら、俺は彼を探した。
意外とあっさり見つかる。
見つかったが………。
「キミの身体つきはラグビーだ!そう!ラグビーなんだよ!」
「あ、はい………ええ」
それは屈強な先輩方に囲まれて視線を泳がせている清州くんと、彼を囲む集団、スクラムの会話だった。
彼はラグビー部につかまり、身動きが取れずにいた。
良くも悪くも人に懐かれる性質らしい。
「………二階に行ってるからなー、俺。またメールでもしろよー?」
俺はするりと逃げ、他の部活………いやサークルを流し見していく。
大学と言うのは、建物だけ見ても中々立派なもの………まあ、当たり前か。
階段一つを取って紹介しても、公立の高校とは違う。
というか、エスカレーターがあるのだ―――この三号館だけだとは思うが。
うはー。
ショッピングモールかよ。
俺はそのエスカレーターに乗って、多くの学生とともに移動する。
そうして二階に行く。
正直言って、俺は当初、サークルに入る気はなかった。
よしんば何かに属するとしてもアルバイトだろう。
そのアルバイトも、大学開始直後ではない、二学期か、三学期か―――学業が軌道に乗ってきた際には、その暁には、始めようと考えていた。
別に普通だろう。
だから今日一日は、よほど気になるサークルがない限りは、まあ、見学である。
色々と見て回って、楽しもうとしていた。
サークルの他にも同好会があり………まあ、違いはよく分からないが。
兎に角、二階の廊下を流し見していた。
ふむふむ。
軽音楽部、ストリートダンス同好会、将棋、農業、落語、TRPG………サブカルチャー研究………。
何をするのかわからんのが、ちらほらと。
やはり制服着て通っていた頃とは毛色が違うメンツに、大人げなく目をキラキラさせていたかもしれない。
まあ、大人じゃないが。
大人になりたいなあ。
そういった、なんだかよくわからない物を見て回るのが、変な話だが面白かった。
と、そこでふと目にしたものに気を取られ、足を止めてしまう。
地味そうな、いやしかし黒い服に身を包み、目立つことは目立つ、女子が座っていた。
黒衣………コスプレだろうか。
彼女が座っているその席。
『心霊研究会』
垂れ幕には、そう書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます