第32話二年六組行ってみて

正午過ぎに、イチゴシロップのかかったかき氷を片手に、ぶらぶら歩く。

かき氷で冷気を感じたい。

梅雨つゆと夏の境目である時期の、纏わりつくタイプの暑さをしのぐのに夢中で、腹を満たす気は優先度が低い。

昼食を食べる気がなかなか起こらなかった。

出店をぶらぶらして安くてうまそうなものを捜索していたら、電話がかかってきた。

高次多々良、という表示がスマートフォンに表示されている。

妹からだ。

俺は電話に出る。



「お兄ちゃん、こんちわ」


「おう、お前、お前か。どうする、そろそろ飯の時間だけど」


「お好み焼き美味しいよ、ツグミたちから聞いたからオススメー」


「お兄ちゃんは一人で食べてくるよ。お前はお友達と頑張れ」


「………うん、ごめんねお兄ちゃん、でもいいの?」


「楽しんでるよ、そもそも寝たり洗濯したりするだけだった、それだけの土日だが、予定が出来た、それで十分だ。お前らの、お化け屋敷は問題ないんだろう?」


全くもって本心だった。

妹の友達と会って変に遠慮されたらそれも嫌だ。

午前中に気恥ずかしがった、あの妹だけ見られれば十分。

何より俺は今、別の関心に夢中である。


「おにいちゃん、ぼっち」


「うっせ。どうせ学外から来たしな………でも楽しんでるよ、そこそこ」


「あ、そうだ。お化け屋敷は問題ない…………うん、問題はないけれど、コーヒーカップ見てきてよ」


「コーヒー?」


俺はちょっと考える。

珈琲。

祭りで、コーヒーと言うのはわざわざ飲むものではないだろう。

それとも流行ってるのだろうか。

近年、コーヒーショップの発展はめざましい。

滞りがない。

コーヒーショップ自体も大型商業施設に一体となって経営されているし。

各コンビニが、業界が、競って安価なコーヒーを売り出していることぐらいは肌に感じている。


「え、コーヒーって、何と一緒に食べればいい?俺、今かき氷食べてるけどさ、ベビーカステラの方が合うかな?」


「コーヒーに合うものだったら、クレープがあるはず。やってるところがあるけれど………。それじゃない、コーヒーカップ。コーヒーカップルわかる?メリーゴーランドみたいなやつ、動くの、ごうんごうん」


ごうんごうん。

―――と、妹はそう言うが。

俺にはちょっと飲み込めない。

メリーゴーランドみたいなやつ?

まさか、遊園地の?


「ご飯食べ終わったらでいいけど、二年六組行ってみて。そこでやってるから、偵察してきてよ」


「ああ、まあ………わかったよ、二年六組でやっているんだな?」


「ねえ、お兄ちゃん………あのさぁお化け屋敷のことだけど、ちょっと………」


「なんだい」


「………いや、やっぱりいい」




生徒たちが囁く。


「―――なあ聞いたか、お化け屋敷………」


「えー、嘘ォ、そんなに凄いの作ってあるの?私も見にいこっかなー」


ひそひそ、と生徒たちが会話する。

俺は食堂方面に向かう。

体育館横なので、大体その辺りが食品、屋台コーナーらしかった。

飯を食った後は行ってみようか。

二年六組とやらに。




「コーヒーカップ、ねぇ………?」

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