第43話やりたいことは色々と


俺は夕陽の射し始めた高校で、階段を昇っていく。

一歩、一歩、丁寧に―――とはいかず、やや投げやりに。

二年四組に向かう。

ポケットの中の携帯、そのメールボックスには、妹からのメールがあった。

『兄ちゃん、片付けがある☆ので、友達といるから!』

だそうだ―――。


梅雨から初夏にかけてのこの時期。

鳥や蝉の鳴き声が廊下で反響している。

薄赤い道を進んでいく。


初江さんは教室前の廊下に立っていて、窓の外を眺めている。

通行人は遠くに、二、三人見える程度で、多くの客は帰っているところのようだ。

景色に見惚みとれている幽霊に、見惚れる俺―――という気分でもない。

久しぶりに出会った友人と、俺は中学生こどもの頃に戻り、そしてまた、大人に戻る―――いや、大人には、なれていない。

なかなかなれない。


「―――もう、いいんですか」


「ああ、ごめん、もういいんだ」


「皆、はしゃいでいます」


教室をちらりと見やる。

雑貨を片付ける音と、笑い声が漏れていた。


「そのようだな。俺がヤバいことしたからだ」


「ヤバいことですか」


「ああ」


久しぶりに会った友人は、俺が思っていた人物像とかけ離れていたが、それでも前を向いていた。

―――作りたいものがあるんだ。

あいつはそう言った。

ならば俺も、やりたいことは色々と、ある。


「初江さん―――『人と霊の会』の移動門ゲートで行くか?」


「そうですね………そうします。人通りの多いところは避けたいので」


「あれだけ派手に噂になって、今更」


俺はにやりと笑う。


「学校はいいんですよ、だから………学校の怪談なんて、よくある、常識じゃあないですか」









「―――いいんですか、部長?放っておいて」


清正佳織が、たこ焼きに爪楊枝を付きさしつつ、言う。

夕方ともなると、文化祭のどの店も値引き、半額セールなどを行っている。

四百円だったフライドポテトに黒マジックで棒線を引き、七十円になっているボードを下げて、売り子が客を引いている。


「ああ、あの幽霊には手を出すな」


心霊研究会部長、願証寺は言う。


「経験則からして、いいか悪いかで言えば、悪霊のたぐい、あれは―――。


静かな目のまま、姫路はつが言う。

その手にはたい焼きが握られ、かわいらしい歯型がついている。

黒衣ならば文化祭メンツの高校生に紛れていたかもしれないが、普段着である。

今日はオフの日だ。


「人とふれあい、仲良くする―――トラブルの原因。人と霊は親しくなりすぎてはいけない。度を越せば、最後は、より残酷になる」


「………一般的にはね。そうだよ。しかしあの霊は―――わからないな」


「わからない?部長………そんないい加減な」


「わからないものはわからないのだ」


ボクの勘だがね――と付け足し、生クリームの量が一つ一つバラバラだったクレープを、口に含む。


「うん、美味いなこれは………!」


眉間にしわをよせ、女子二人は互いに視線を交わした。

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