第2話 邪魔しないで

 支配人に襲われてる女の子を助けたら、なぜか自分がその女の子に殴られた。


 いや……なにこの状況? 陣◯のコント? なんでワシが殴られんの?


「え……?」智介ともすけは状況が飲み込めず、「……? いや、なんで? なんでワシは殴られたん……?」


 混乱しているのだろうか。そして目の前に男がいて、反射的に殴ってしまったのだろうか。


 しかし目の前の彼女は明確に敵意を智介ともすけに向けていた。


 そして智介ともすけの胸ぐらをつかみあげて、壁まで叩きつけるように移動した。


 それから彼女は智介ともすけの耳元でささやいた。


「邪魔しないで」

「……邪魔……?」

「私は……」強い決意を秘めた目だった「私は……どんな手段を使ってでも、この世界で成り上がると決めたの。汚いオッサンでも……力があるなら利用する」


 ……


 ……


「同意の上やった、ってことか?」

「同意はしてない。けど受け入れてる。行為を受け入れたら、私はさらに大きな舞台に上がれるから」それから彼女は不敵に笑って、「しかも支配人の弱みを握れる。若い女の子を無理やり襲ったなんて知られたら終わりだからね」

「……」

「この行為さえ済ませれば、もう支配人は私に逆らえない。隠し撮りもしてる。お金もくれるだろうし、出演する場所には困らなくなる」

 

 劇場の支配人を手駒にすれば、たしかに有利に戦えるだろう。


 ……


 そのために自分の体も差し出す覚悟だったらしい。


「その邪魔をあなたはしたの。わかる?」彼女は智介ともすけを睨みつけて、「出ていって。二度と邪魔しないで」


 ……


 支配人の弱みを握る、か……


「……それはキミが、ホンマに望んでることなんか?」

「もちろん。私はどんな手段を使ってでも成り上がる。必ずこの世界で生き残ってみせるから」

「……そうか……」智介ともすけは彼女の手を振り払って、「……邪魔した。悪いな」


 対応には迷った。警察に通報するという手段もあったと思う。


 だけれど智介ともすけはその場から離れた。彼女の覚悟を踏みにじりたくなかったし、なにより彼女の迫力に負けた。


 ……


 どんな手段を使ってでも成り上がる。


 その気概はたしかに必要だろう。智介ともすけに足りないものでもある。たとえ自分の身を犠牲にする行為でも突き進むというのは、とても難しいのだ。


 だが……


 とてもモヤモヤするのは、なぜだろう。

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