第42話 どちらかというと好みになるだろう

 闘技場はなかなかの盛り上がりを見せていた。智介ともすけという突然の乱入者に歓迎の声を投げかけているのか、それともブーイングなのか……いまいちわからない。


 とにかくうるさいほどの大歓声だった。それだけで心臓が痺れるくらいの感覚だった。


 智介ともすけは女忍者……レフィに言う。


「どれくらい動ける?」

「今なら太陽でも喰らい尽くせるよ」

「それくらい強がれたら上出来やな」言葉の意味はわからなかったが。「で、どれくらい動けそうや?」


 レフィは一瞬自分の左膝を見て、


「……正直に言うと……左膝は限界に近い。まともに動けるかどうか……怪しい。体力的にもかなり厳しいだろう」

「そうみたいやな……」智介ともすけは手枷をジャラっと鳴らして、「ワシも両手を封じられとるからなぁ……」

「開放したいところだが……わたくしの武器もボロボロだからな……」


 その刃こぼれした短刀では智介ともすけの手枷は破壊できないだろう。できたとしてもかなりの時間がかかる。そんなのをソプラノが見逃すわけもない。


 レフィは言う。


「……勝算があっての助太刀なのでは……?」

「難しいこと考えるのは苦手やねん」勝算がどうとか、考えるのは苦手だ。「美人の前でカッコつけたい……それで行動する理由は充分やからな」

「軟派な男……」

「嫌いか?」

「どちらかというと苦手になるだろう」素直な人だ。「個人的には……強いと言われるほうが好みだな」

「それはレフィさんの実力次第やろ?」

「硬派な人だ」

「嫌いか?」

「どちらかというと好みになるだろう」


 素直な人だ。


 よくわからん会話を終えて、


「話し合いは終わり?」ソプラノが軽くリズムを刻みながら、「そろそろいいかな?」

「あと1時間待ってくれ……って言ったら聞いてくれるのか?」

「聞くと思う?」


 言って、ソプラノは地面を蹴った。


 強烈な踏み込みだった。地面が足の形にえぐれていた。凄まじい衝撃音とともにソプラノは智介ともすけの眼前に飛び込んできた。


 智介ともすけはギリギリでソプラノの拳を回避する。


 ソプラノの拳は智介ともすけの後ろにあった壁に直撃して、

 

「げげ……」智介ともすけは顔をしかめて、「壁が粉々に……なんやその威力……」


 ソプラノの攻撃を受けた壁には巨大な穴が空いていた。パラパラと砂煙が巻き起こって、屋敷の外が見えるようになった。


 ……


 この穴から逃げるか? いや、レフィの友達が人質に取られているのだ。逃走なんて選択肢はまだ選べない。


 …… 

 

 ソプラノの攻撃を一撃でも受ければ終わりだろう。智介ともすけの顔面など簡単に飛んでいく。新しい顔では復活できない。


 智介ともすけは言う。


「レフィ」

「なんだ?」

「助けてくれ」

「なにをしに来たんだキミは……!」王道のやり取りをしてから、「だからキミだけでも逃げてくれ。そこの穴から逃げればいいだろう」

「地下の怪物ってのを拝んだあとに、やな」

「……強情だな……」


 レフィには言われたくない。


 ともあれ今のレフィに攻撃の矛先を向けさせるのは得策ではない。


 というわけで挑発してみる。


「どうしたソプラノ少年? お前の相手は壁やないで? まぁワシには、そんな大振りの攻撃は当たらへんけどな」

「挑発に乗ってあげるよ」なんで挑発だとバレたのだろう。「……でもキミ、そこまで強くないよね……? 別に弱くはないけど……その自信、どこから来るの?」

「うーん……」思うように体が動かないのだ。パラエナが言うにはステータスの問題らしい。「自信満々でも弱気でも、結果は変わらへん。なら……自信満々でやられたほうが笑えるやろ」

「……? よくわかんないけど……」わかってもらうつもりはない。「キミのその目……まだ切り札があるって目だ」


 切り札……脱ぐのか? 下手こくのか? そんなの関係ねぇのか? 全裸に見えるポーズを披露する時が来たか?


 切り札……切り札かぁ……


「切り札ってもんでもないけど……」智介ともすけは軽く準備運動をして、「しゃあないな……見せたるわ。まだワシも制御でけへんから……どうなっても知らんで」


 場合によってはこの巨大大阪城ごと破壊することになる。


 現在の智介ともすけの暴走奥義。まったくコントロールできていない謎の行動。


 行くぜ……ステータスオープン!

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